量産型闇深系クローン美少女に転生した男は、百合の間に挟まりたい

羽消しゴム

属性過多って最高だわ

誰が聞くでも見るでもないが、自己紹介をしておこう。

俺の名前は、近藤コンドウ 悠久ハルヒサ。今年でアラサーを迎えた、一般的なおっさんである。


───失礼、一般的ではないかもしれない。

なぜなら俺は女の子同士がイチャイチャしたり、あるいは切磋琢磨し合いながらお互いの事を気にしたり、はたまた喧嘩しながらも実は相手の事が好きで素直になれないみたいな……つまり、百合が大好きなおっさんである。


百合に目覚めたキッカケは、大学生の時に付き合っていた彼女が寝取られたことから始まった。


ショックのあまり食べ物が喉を通らず、眠れない夜を誤魔化していた日々。俺は運命と出会った。すなわち、百合アニメである。


そこから先は早かった。

百合に取り憑かれ、百合を愛し、遍く総ての百合をこの目に焼き付けようと有り金を叩き、漫画や書籍に至るまでを網羅した。


気付けばアラサーになっていたが、もはや俺にとって女の子は百合になるための最高のスパイスにしか過ぎず、俺と付き合うくらいなら女の子とイチャイチャして欲しいという想いにまで発展した。


百合に男はいらない。これは絶対なる世の真理である。

とはいえ、百合に挟まってみたいという男としてのさががあるのも事実。


───だからと言ってよぉ?


「……なんで女になってんだ」


姿見に映るのは、銀と黒が入り乱れた長めの髪を携え、光を灯さない真っ黒な瞳をした美少女の姿。


硬っ苦しい言い方はやめるが、俺は百合好きだ。しかし挟まりたいという願望もある異端児。いわばキリストの踏み絵を簡単に踏めてしまうキリスト教徒のようなもんだ。


いつも通り仕事から帰ってきて、食事を済まし、さぁいざ風呂へと足を進めたら。


「おいおい、どこだここ?」


真っ暗な部屋の中にいた。

光も何もない場所だ。それなのに、目の前にある鏡やら周りの様子やらが完璧に分かる。


ぐるりと当たりを一周見れば、俺と全く同じ顔した女の子がズラっと整列していた。

生きているのか死んでいるのか、光を灯さない眼差しで前を見ている。瞳孔は開きっぱなしで、誰一人として瞬きすらしない。その沈黙だけが、妙に耳に痛かった。


それに服は何も着ていない。当然、俺も。


「なるほどな?風呂に入ったら意味わからん場所に居て、女になっていて、ほんでめっちゃ美少女であると。しかも周りには同じ顔の奴らが沢山いる暗い部屋・・・ねぇ」


これ、厄ネタだろ。


転生?それとも憑依?からくりは分からんが、どうやら俺は見渡す限り沢山いる美少女クローン?のうちの一体になってしまったらしい。


それを理解した瞬間、俺の頭に浮かぶのは元の世界での記憶。

二周目が終わっていない百合漫画達と、今後放送予定の百合アニメの数々……。


未練がないと言えば嘘になる。


だがそれ以上に───。


「───ひゃっほーーーい!!!なんて幸運なんだ!これならが百合に挟まっても文句は言われねぇ!最高だぜぇぇぇ!!!」


最っ高にハィッ⤴︎︎︎て奴だ!


見られる百合がない?なら自分が作ればいいじゃないと、かのマリーアントワネットも言っていた(気がする)

もし神がいるのなら、裸で土下座踊りしながら靴を舐められる自信がある。


「気分がいい!まさかこんな誕生日プレゼントが貰えるなんてなァ。だが問題は、この部屋。というより施設?から逃げ出せるか、だ」


明らかに厄ネタとしか思えないクローン達。自分の肌を触って分かるが、人間と全く同じ肌をしている。つまりロボットやアンドロイドではない、純粋なクローンなんだろう。


それを管理、保存してる施設からなんざ、そう簡単に逃げ出せる訳がねぇ。


だから。


「細かく考えても仕方がねぇ。なら正々堂々行くか!」


だだっ広い施設の端の壁に向かって、思い切り助走つける。そして、その勢いのまま拳を。


「おっらァ!!!」


振りぬいた。


普通ならこんな硬そうな壁を壊そうとも考えないだろうが、最高にハイな状態の俺には関係ない。それに、何故か“壊せる”という確信があった。


そしてその確信通り、壁を殴ったことによって生じた煙の隙間から、外の景色らしきものが垣間見える。


「はっはぁ!随分とうっすい壁だなァおい!」


煙が消えた後には、人一人分空いた穴と眩しい外の光がある。真っ暗な部屋とかけ離れた景色に思わずニヤッと笑みを浮かべながら、穴に足を踏み入れた。


後ろを振り向けば、残酷なまでに光を灯していない目をした俺の姉妹たち。


ちょっと可哀想な気もするが、こんな事するような施設から何人も連れ出して逃げ出せると思えない。残念だがここでさよならだ。


「じゃあな姉妹たちよ」


ひらひら〜と手を振りながら、外に向かって駆け出していく。


──あぁ待て、大事なことを忘れていた。


百合を語る上で大切なのは、女の子達の属性だ。カワイイ系とかダウナー系とか、そういう大雑把なものでも百合を引き立たせるスパイスになる。


かくいう俺も、TS系クローン美少女なんていう属性過多気味ではあるが、もう少し何かグッとくるモノが欲しい。


うーん、そうだなぁ。もっとインパクトが出るような何かが……あ、思いついた。


「よし、片目つぶすか」


手に取ったのは、破壊された壁の破片。鋭く尖ったソレは、片目を切り裂くのに適していた。


目元に破片を押し付け、思い切りガリッと上下に切り裂く。


迸る真っ赤な血液がドクドクと片目から流れ、尋常じゃない痛みが支配する。当然だ。

まぁ、DI〇様もハイになって頭を指先でグリグリしてたから、それと比べたらまだまだマシな方だろう。


「ハ、ハハッ!最高だ!の属性が固まっていく。その喜びと比べればこんな痛みなんて……」


じゅくじゅくと脳が沸騰しそうなほどの熱と痛みが片目に集中し、常に目の奥を箸で何度も刺されているような強い違和感。


こんなの全然、全くもって痛くない。

いやちょっとだけ痛いな、うん。ちょっと、ちょっとだけな?


……いや無理だこれ。


「ッッッ!いや普通にめっちゃ痛いわボケェ!!死ぬ!!」


裸のまま地面にゴロゴロとのたうち回る。

もう無理、死ぬ、まぢ無理。と内なるギャルが顔を出した。


おっさんのギャルの面とか誰得だよと前の世界なら思っていたが、残念なことに今の俺は美少女である。


「く、くくくっ……死ぬほどいてぇが、これでの方向性が決まったなァ!」


片目が潰れた状態で、真っ赤な空の下を歩く。無論裸だが、服くらい後で調達出来るだろう。痛みよりも何よりも重要なのは、キャラ付けだ。


それはズバリ、隻眼クローン美少女系TS少女だ。しかも闇が深いタイプのやつ!


こんなん素材の宝庫やんけ!

と、今度は内なるオタクが顔を出す。


「……さて、行くか」


片目から滴り落ちた血が頬を伝い、顎からポタポタと落ちる。

視界は片側だけ赤く滲んで、反対側だけ妙にクリアだ。


痛い。

痛いに決まってる。

だが──。


「ハッ……っははは!!この痛みすら、のキャラ付けの肥やしよ!!」


TS美少女 → 目潰し → 逃走。


こんなインパクトの塊みたいな美少女、存在がすでに“百合属性の爆弾”だろ。


俺の百合作品オタク脳がそう囁いていた。


裸のまま外に出ると太陽が落ちきる寸前なのか、緋色の空が広がり、風がひゅうと体を撫でた。


……おい。


「めっちゃ寒いじゃねーか!!!」(※当たり前です)


現実は残酷だ。

百合だろうがTSだろうが、気温だけは容赦がない。


腕を抱えて身を小さくしながらも、俺は歩き出した。


この身体は軽い。

多分、人間じゃないレベルで軽い。


筋肉の密度が違う。

骨格が違う。

走れば風を裂くみたいに加速しそうだ。


(……戦闘用、か?)


短い歩行の間だけで、嫌でも理解できた。


恐らくあの施設にいたクローン達は“戦うために作られた少女兵器”。

そして俺も、その一体。


だが──意思があるのは、たぶん俺だけ。


考えだしたら不安が押し寄せてきて、一瞬立ち止まった。


「……いや、考えても仕方ねーな。

まずは服だ。服。服がないと百合の間に挟まりようもない」


ひとまずは服の調達だな、と当面の目標を決めて緋色の空を見上げる。


「待ってろよ───異世界!!!」

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