第6話【ユアとアミュアと団子茶屋】
「これおねがいします!」
バン、とカウンターにユアが依頼書をたたきつける。勢いと鼻息が連動している。
「・・・・こっちは二日酔いで頭いてえんだ。でかい声だすんじゃねえよ」
青白い顔で力なく答えるマルタス。何があったのか昨夜は大分飲んでいたようだ。
「わたし達はDランクバディですから、この依頼できますよね?」
カウンターに肘をつき前のめりなユアのよこに、ちょこんと顔をだすアミュア。ちょっと誇らしげに、顔写真入りのハンター証を小さく差し出す。
一度二人のハンター証を受け取り、数字を控えたりするマルタスがだるそうに話し出す。
「昨日紹介した宿屋、大丈夫だったか?最初は言った通りハンターオフィスが立て替えるから、ちゃんと依頼こなして返していくんだぞ?」
ユアがばんばんカウンターをたたきつつ答える。
「それそれ!本当にありがとう!すごく親切でおいしい宿だったよ!」
「それでは宿を食べ終わってます。しんせつな店員さんと、おいしい食事でした。マルタスさんありがとうです」
ユアのばんばんでまたダメージを負いつつも、仕事を進め答えるマルタス。
「わかったわかった…なになに、岩蛇討伐か。まぁ無難かな、無理すんじゃねえぞ」
だるそうに受付処理をして、控えにもなる依頼書をユアに返すマルタス。
「大丈夫、大丈夫!よゆーよ、よっゆー」
「そうゆう余裕は、自分で書類かけるようになってからにしてください」
へらへらしているユアの横で、ちょっと自慢気に受注サインをするアミュア。
ユアの文字は呪いのお札のようで、大分読みづらい。
「いあぁ、これから勉強して上手になるよ!」
「では今夜から、かきとりの時間をとりましょうね」
「あう…」
楽しそうに並んで離れていく二人。ちょっと真面目な顔になりマルタスがつぶやいた。
「まあ、あいつらなら余程のことなければ、心配ないか」
(ユアのこと考えると心配しかないが?)
少し言ってることと、頭の中のセリフに乖離があるマルタスであった。
ひとときの後、カウンターに突っ伏しているマルタスに後ろから話しかける影。
「マルタス所長ちょっと不穏な報告きてましたよ、確認してくれますか?」
実はマルタスはこの要衝ルメリナのハンターオフィス所長であった。
「所長ってつけんなって言っといただろ。そんな偉そうなガラじゃないんだよ…俺なんか」
数年前に所長となってからも、実務は有能な副所長に任せきりで、好きに受注や試験官などをしていた。
ガサゴソと報告書をうけとりさっと目を通すマルタス。
「あぁ、最近騒がれてる影の獣か。もっとずっと北の方の話じゃなかったっけ?」
最近入所した美人の若い受付嬢は眉をひそめながら答える。
「基本的に目撃報告はそうなんですが。この報告はすぐ隣町からですね。3日と距離がない町です」
じっと報告書を見つめるマルタス。今までにない真剣な表情。
(北の町…あいつらが向かった方だな。)
「わかった、一応頭に入れておく。掲示にも注意書きだしといてくれよ」
「了解しましたマルタスさま」
「だから…ため口でもいいよ。そーゆーのほんと好きじゃない」
新人所員とやり取りしながらも、マルタスの心の中では不安が膨らんでいく。
(北か…あいつらまさかな…)
依頼書に書いてある情報に基づき、街道をすすむ二人。足を止めずに会話も止まらない。
「ユア、この岩蛇というのは何者ですか?」
アミュアに聞かれてにっこり答えるユア。
「ランクDの魔物だよ!岩山とかによくいるらしいね。わたしも見たことないけど、写真見る感じ強そうではないよね!」
ちょっと考え込むアミュア。街道横の休憩所を見つけ、視線を送る。
「ちょっとそこで休憩しませんか?ちょうど半分くらい歩きましたし」
「お!いいねいいね。あたしお団子たべたいな!」
「せつやくですよ、お水だけです」
「くうぅ~ん」
「そんな捨てられる子犬みたいな目をしてもだめです」
会話は途切れず、少し先の茶屋まで流れていく。
目的地の距離的には慌てずとも日帰りできるペースであった。
結局二人でお団子セットを食べたあと、会計をすませたユアにアミュアが話しかける。
「いつもお金だしてもらってますので、依頼料はユアがもらってください」
ちょっとだけアミュアをみたユア。ほほえみを浮かべながら返す。
「じゃあ今回の依頼料は、そうするね。次からは半分こだよ!」
「おねーさんぶらないんですね?成長した?」
「ドユコト!」
街道をそれて幾ばくか、林や農地の横を歩く二人。目的地の山が近づくにつれ道は上り坂になり、しばらくは誰ともすれ違っていない。
ぽつぽつと会話をはさみながら進みつつ、ふとアミュアが尋ねる。
「ユアの力、強くなったり早くなったりする力…あれ内緒にしておくんですか?皆には」
ちら、とアミュアを見て、自分でも考えながら答えるユア。
「あの力はちょっと普通じゃないから…普通じゃないってちょっとイヤじゃない?仲間外れみたいだよね」
アミュアの瞳には外見年齢以上の深い知性と、感受性がうかがえる。
「気味悪がられたくないってことですか?」
「う~ん、ずるしてるって思われたくない?って方かな。そんなすごい力ってわけじゃないし」
「そうですか…」
アミュアは丁寧にユアを知ろうとしていた。無意識にユアの危うさを感じ取り、とても壊れやすそうな細工物を調べるように。
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