第4話【ハンターオフィス】

「今日はハンターオフィスに行きます!」右手の拳をあげてユアが宣言する。満面の笑顔。


「がんばる」アミュアは短くもしっかり返事して、胸の前で両の拳を握る。


 昨夜のうちにある程度方針は決めていた。

①安定した生活のためハンター登録をする。

②生活費節約のためしばらく贅沢禁止。

③おふろ、ベットは別々。

 大体は即決だったが、③だけもめたのはお約束。昨日はコンビ結成記念日ということにして、豪華な食事と綺麗な宿にありついていた。


「じゃあ今日もがんばろうね!」

 にっこりユア。

「はい、今日は依頼受注まで行きたいですね」

 まじめな顔のままアミュア。


 ホテルを出ると、思いがけず「ありがとうございました!またのお越しを」とお見送りがあり。

二人は顔を見合わせ、ちょっとだけびっくり。くすくすするユアに、アミュアもすこしだけ笑顔が灯った。澄み渡る朝の空も、そんな彼女たちを迎えてくれていた。


 移動しながら昨日の宿の話題で、もりあがるユア


「なかなかすごい宿だったよね~贅沢したぁ!お風呂も綺麗だったし♪」

「今夜からはどうするんですか?ユア」

「その辺もハンターオフィスが相談に乗ってくれるって。ホテルのコンシェルジュさんすごいよね。地図までくれたし」

「しばらくは贅沢禁止です」

 くいぎみにアミュア。


 ホテルからハンターオフィスはそれなりの距離があったが、二人とも森を超えてくる健脚なのでとくに問題はなかった。

街にはまだあわただしい、朝の空気があった。


「そういえば、ハンターオフィスって誰が考えたんです?」

 ふと尋ねるアミュアにちょっと考える風のユアが答える。

「発起人は伝説のハンター……とか噂もあるけど、実際はどうなんだろね」

「ユアはそういうの、信じるほうですか?」

「うーん、半分だけ? 都合のいいとこだけ」

 アミュアがくすっと笑う。


それなりの規模の街には必ずハンターオフィスがある。モンスターの討伐依頼や報酬の支払い。素材の買取や収集依頼等の斡旋など、多岐にわたる仕事で街に貢献している民間組織である。


「このルメリナのハンターオフィスはおおきいのかな?」

無意識に人差し指を顎にあてるアミュア。そのあざとさはユアに刺さるのであった。

――あう……天使。にこにこ顔のユア、幸せそうである。


「ルメリナの街は辺境とはいえ、貿易拠点になってるから、ハンターも多いんだって」

「じゃあ依頼も多いってことですね」

「そうそう、討伐だけじゃなくて、素材の収集とか、街の巡回なんかもあるって聞いたなあ」

「民間組織、って感じですね。国家直属じゃないのにすごいです」

「そういうとこ、ちょっと憧れてたかも」


 並んで歩くふたりに、すれ違う住人たちもどこかやわらかな表情を向けていた。

 しばらく雑談しながらすすむと、二人は目的地に到達した。

「でっかいね・・」

 見上げるユア。すこし近づきすぎたのか、首の角度がつらい。

「これは木造ですか?こんなに大きな木の建物も、なかなかないですよね」

 二人の少し先では、やはり木製のスイングドアを押し、ハンターらしき人が入っていった。

「よし!いってみようアミュア」

 アミュアの左手を引き、ずんずん進んでいくユアであった。



「で・・・・?ハンターになろうと思い立ってきました?」

ハンターオフィスのカウンターには厳つい中年の男が応対してきた。まだ時間が早いからか、カウンターには彼しかいない。

「はい!お二人様です!」

引き続き元気なユアはヒマワリのように笑顔。

「そうか・・装備もある程度そろってるようだし、まあいったん受け付けてやる」

男は不機嫌なのか少し、けわしい顔つき。

「俺はマルタス。ここの職員だ。よし、申請書の書き方おしえてやる。文字は大丈夫か?」

今度はアミュアが答える。

「問題ありません、わたしが書けます。」

「え?!わたしもかけるよ!名前くらいなら」

 じーーーっと両側からみられるユア。マルタスとアミュアの目が、同じような半目になる。

辺境あたりの村落では、今でも場合によっては村長以外読み書き不自由ということさえ珍しくない。むしろ名前が書けるなら優秀まであるのだが。

「じゃあなんで、一つしかないペンもってるんですか…ユア」

ちょっとこめかみに手をあてるアミュアであった。


「うん・・・問題ないな。次は軽い実技試験だ。裏の訓練所にまわりな」

 すっかりユアとアミュアにほだされて、しかめっつらが維持ができなくなったマルタスが、後ろに親指で示した。ちらほら出てきているほかのハンター達や、カウンターの女性職員にも笑顔が伝染していては、いかなマルタスにも微笑みが浮くのであった。

 ルメリナの街のハンターオフィスは大きなH型をした木造4階建て(一部5階建て)である。出入りの利便さから、街道沿いの門近くに立地している。


引き続きマルタスが担当するようで。二人をつれて裏口へ導いた。

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