第2話 「迫りくる竜狩り達」

ここは、山奥の森の中。丁度、木が生えず、日差しが差し込む、野原の中心だ。


俺は、三人の仲間を引き連れて、この森一帯を縄張りにしている大きな竜と睨み合っている。


既に背中に背負っていた斧を手に取り、臨戦態勢だ。


様子を伺っていたが、先に仕掛けてきたのは竜の方だ。口の前の空間が赤く光る。首を大きく横に振った。来る! 炎の魔法を薙ぎ払うように発動。


 後ろに避ける。ブレスが前を横切る。(そんな攻撃あたるかよ)


 態勢を整え、次にどう出てくるか様子を見た。


しかし、竜が思いもしない方にブレスを向けた。その行方を見ると、連れであるジュリがいた。上に跳躍して逃げたらしい。


(馬鹿だな、あいつは)

俺は、心の中で嘲笑い、傍観していた。


炎が無防備なジュリに迫る。

「ちっ、ゲド!」

ジュリは仲間のゲドに助けを求めている。


ジュリの前に球状の水が現れる。炎はその水に阻まれた。

手をかざしているゲドがどや顔をしているのが想像できる。


「ジュリ、これで貸し一つだからな」

そんなやりとりが聞こえてきたが、俺はその隙に竜に迫るように走った。


「遊んでやるよ!」

挑発する様に叫んだ。竜の殺気のある視線が来た。

はき続けるブレスを俺にむけてくる。

だが、構わず走った。炎が直撃する寸前、水が目の前に現れる。

(いいタイミングだ)

俺は上に跳躍し、一気に竜に迫った。


「一発で沈むなよ」

大きく斧を後ろに振り被る。

竜の反応が一瞬遅れる。


勢いよく振り下ろす。大きな衝撃が伝わる。周りに砂煙が飛んだ。地面に振動が伝わる感覚。あたりが煙に包まれ、鬱陶しい。しかし、防がれた硬い感覚があった。押し返してくる力が伝わる。俺は、力試しをするように対抗した。


視界が見えて来た。


竜は俺の斧を前足の爪で防いでいた。力の拮抗で力みが伝わってくる。

一歩も引かず、睨み合っていた。(楽しいなぁ)


「そのまま身動き止めてろ! ジーク」

後ろから声が聞こえた。ローサの声である。ローサが何を目論んでいるのか長年付き合って来たからわかる。


「チャージ完了、くらえ!」

その叫びと共に、強い波動を感じた。エネルギー砲が竜の腹あたりを直撃。


ぶっ飛んでいった。


俺は、畳みかけるように前に進んだ。横倒しになっていた竜がすでに態勢を整えようとしていた。

(まずはさっき折れなかった爪をもらうぜ)


俺は、斧を大きく斜め後ろに振り被った。


「うらぁああ!」

斧を力任せに振り下ろす。竜が手を引いて避けようとする。

(逃がすか!) 

斧の軌道を変える。竜の爪の根元に直撃。爪が折れて、血が飛び散る。


爽快感が溢れ出してくる。


余韻に浸って、油断していた。横から竜の尾が鞭のように迫って来た。短い動作による斧の横っ面で防ぐ。勢いは完全に防げなかった。


弾き飛ばされる。木の根元に激突した。

(腰がいてぇ。だが、気分はわるくねぇ)

前を見ると、連れの三人が交戦していた。


(どうすっかな? ……次は翼を狙うか。もう痛みは治まった)


「ジーク、早く立ち上がれ!」

 ジュリから怒鳴られた。


(へいへいわかったよ)


上体を起こして、斧を拾った。

 ゆっくりと竜の元まで歩いて行く。

 竜の鋭い眼光に刺された。


(交戦状態の三人を差し置いて俺にガン飛ばしてくるとわぁ、よっぽど爪を折られたのを根に持ってるねぇ)


「ギャアアアアアア」

竜が威嚇するように咆哮を放ってきた。

怒りと憎悪を感じる。

(いいねぇ~)


 ジュリが竜に向かって風の魔法を放つ。

暴風が竜を襲う。竜は吹き飛ばされない様に地面に爪を立てていた。


(ジュリの奴、何やってんだ? あれじゃあ、竜に近づけねぇじゃねぇか)


「ジーク! あの技を使うぞ!」

 ジュリがこちらに向かって叫んできた。


(はぁ? 嘘だろ? 使っちまうのかよ)


「おい、まだ早いだろ!」

「早くしろ!」

 ジュリの掛け声と主に他の二人が集まってきていた。


(まじかよ。もうやるのかよ)


 気の抜けた走りでジュリの元まで向かった。


「おい、まじでやるのかよ」

「ジュリがご立腹だからさ、ここは応じてよね」

 ゲドはしょうがないなという表情だった。


 ジュリはまだ、竜の足止めの為に風の魔法を発動している。


(やるしかねぇか……)


「陣形用意!」

 気だるそうに掛け声を出す。


 頭にかけていたゴーグルを目に装着。他の二人も同様に装着。 

俺は大きく足を広げて、斧を横に倒して構えた。ゲドは水の魔法を斧に纏うように発動した。


ローサも火の魔法を斧に纏うように発動した。


「ジュリ、後はお前だけだぞ」

「準備できたわけ? なら、魔法を解くわ」

 ジュリは風の魔法を解いて、すぐに陣形の配置についた。


ゴーグルをつけ、風の魔法を斧に纏うように発動した。三つの属性が混ざり合う事で強大なエネルギーが斧に付与される。


 危険を察知したのか竜は既にこちらに向かって火の魔法を発動しようとしてきた。


「残念だったな、お前の選択は最悪だ」

そう言い放ち、重量感が増した斧を引いた。


「お前ら、近づくなよ」


 地面を強く蹴って、飛び上がった。


 竜は炎のブレスを発動。炎が迫ってくる。


 水がその間に生成される。

(ゲドの魔法だな)

その水の水面を蹴る様に踏み込む。一気に竜の目の前まで迫る。


 竜は目を見開く。


 斧を振り下ろす。竜に直撃し、ドンッと斧に纏った魔法がはじける。さっきとは比べ物にならない衝撃を森全体に響かせる。土をえぐり、砂が舞う。強風が森全体に走って行くのがわかる。


地面に着地をした。

前が全く見えない。


(こりゃ、しばらく土景色だぜ。地面が土の時にやるの、こうなるから嫌なんだよな。前は、ゴーグルもしてなかったから目に砂が入って酷かったなぁ)


斧を拾い上げて、背中の斧ケースに収納し、留め具で収めた。


しばらくして、土煙が晴れて来た。


 目の前には、肩からお腹辺りまで裂けた竜が横たわっていた。


(はっ、無残なこった。まあ、あたりまえか。この技を使って立っていた竜なんていねぇんだよな。正直、開戦からこれ使えば、終わりなんよな。一瞬で終わってしまうから、つまんねぇけど……)


「くたばったな?」

 後ろからジュリの声がした。ゴーグルを外してジュリの方を向く。


「お前、なんであんな早々に、三相衝波(さんそうしょうは)をやるって言ったんだ?」

 納得できねぇから問いただした。


「ムカついたからよ。私を狙って、火を浴びせようとしてくるなんて、イラっとしたわ」

「お前は、短気なんだよ。せっかくもう少し楽しめるかと思ってたのにな~、終わっちゃったじゃねえか」

 ジュリに突っかかった。


「また、別の奴狩りに行けばいいでしょ」

 ローサが争いを止めるように言葉をかけてきた。


「はるばるこんな山奥まで来たのに、呆気なく終わるのが割に合ってねぇってんだよ」

 ローサに言い返した。


当たり散らかすように、目の前に倒れてる竜の頭を蹴っ飛ばす。


「辺りの村をいくつも滅ぼしたって聞いたから、もう少し手ごたえのある奴かと期待したけど、拍子抜けだぜ」

 愚痴を漏らして、竜の頭を椅子代わりにして座った。


「なあ、俺たちが狩った事のない種類の竜なんてもういないんじゃね?」

 仲間に向かって問いただした。


「まあ、目撃情報がある個体から考えればそのようですね。」

 ゲドは落ち着いた口調だ。


「ちっ、つまんねぇな~」

 俺は空を見上げて、行き場のない不満を漏らした。頭が少し冷えたのか、ふとある事を思い出した。


「……なあ、たしか、この大陸の一番高い山に白竜が住んでるって噂なかったか?」

「……ああ、街の老いぼれ爺がたまに吹聴してるホラ話ね」

 ローサは、顔をしかめながら、話に合わせてくる。


「都でも他の街でもにわか程度にしか聞いた事ないけど、本当に存在するわけ?」

 ジュリが半信半疑の様子である。


 俺は、まだ不完全燃焼だ。そして、まだ真昼間だ。いてもたってもいられずに、立ち上がった。


「依頼の達成報告なんて、遅れたっていんだから、行ってみようぜ!」

 仲間に宣言し、気分を変えて、歩き出した。


「まったく、野宿は嫌なんだけど」

 ジュリが呆れ声をもらす。


「リーダーがああ言ったらもう聞かないからね~、ついて行くしかないね~」

「ある程度、森の中の魔獣でも狩ってれば満足するでしょ」

 後ろから仲間の諦めのような発言を聞き取った。


「グダグダ言ってねぇで行くぞ」

 仲間にそう呼びかけ、ここから高い山に向かって歩みを進めた。

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