Sleep Bloom 〜眠りの魔法使いは世界を描き直す〜

千葉 ゆう

Prologue:朔夜澪

――眠りに落ちる、その一瞬だけ。

世界は必ず、音を失う。


教室に柔らかな朝光が差し込み、黒板の文字から白い粒子が舞い上がる。

朔夜澪(さくや・みお)は机に頬を預けたまま、瞼の裏に沈む暗闇を感じていた。


授業中だということは分かっている。

周りの視線が自分に向いていることにも、もう慣れた。

“天才新入生”

――そんな言葉がひとり歩きして、澪の周りには透明な壁ができていた。

だけど眠気だけは、誰の評価も関係なく押し寄せてくる。


(だめ……寝ちゃ……)

意識がふ、と落ちる。


次の瞬間、世界は――静止した。

黒板のチョークは空中で止まり、教室のざわめきは霧の向こうへ吸い込まれる。

深い湖に沈むような、青黒い静けさ。

その静寂の中心で、彼だけが動いていた。


黒い猫――クロウ。

いつの間にか足元に座り込み、金色の目で澪を見上げている。

「また寝落ちか。相変わらず、緊張感がないな。天才さん」

「……仕方ないでしょ。眠いんだもん」

「言い訳は後でいい。ほら、来るぞ」


ひび割れるように空間が揺れる。

黒板の、教室の、世界そのものに細い亀裂が走り――そこから光が滲み出す。


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