第44話 死霊魔導師は冒険者ランクがアップしました。

「トリューガーさん! 見てください! 骨をおられました!」

「助けてください! このガキがいきなり俺たちに絡んできたんです!」


 謎の登場人物はトリューガーというらしい。


「いやいやいやいや、お兄さん、それ、全く違うでしょ。絡んできたのはそっちで、骨が折れたのも自爆だよね?」


「そーそー、わたしたちが受け付けしてるのに退けーって来たのお兄さんたちだよね?」


「まったく、順番は抜かそうとするわ、襲ってくるわ、さらには嘘か?」


 あまりの言い分に、思わずつっこみを入れた俺に合わせるようセレスとヘルヴィも声を上げる。


 ギルドにいる人たちも、つられるようにうんうんと首を縦に振っていた。


「……」


 黙ったままのトリューガーは近くまで来ると腕を組み、床の二人を見たあと俺を睨み付けてきた。


 ギルドに入ってきたあの勢いなら、話も聞かず俺たちに殴りかかってくると思ってたけど、予想外に話を聞いている。


 バトルアックス戦斧を二本背に担ぎ、それを振るうだろう腕は太く、力は強そうだ。


「嘘なんかじゃねえ! トリューガーさん、信じてください!」

「そうです! コイツらは闇騎士団に喧嘩を吹っ掛けたんですよ!」


「……俺のクラン、闇騎士団に喧嘩を? このガキ共が?」


 身長差で見下ろされてたが、今度は威圧を込めた目で俺たちを睨み付けてきた。


 この人は中々強そうだ。レベルも俺たちと変わらないくらいだな。


 俺のクランと言うくらいだし、闇騎士団の団長さんってことか。


 まったく負ける気はしないけど、いくつものパーティーの集まりで、そこの団長なら弱いはずはないか。


「話聞いてました? 難癖つけて絡んできたのも、殴りかかってきたのもそこで尻餅をついてる二人ですよ」


「うんうん。斧のおじさん、あのねー、わたしたちを睨むんじゃなくて、怒るならそっちの二人だからねー」


「その通りだな。おい、斧男はクランリーダーなのだろう? ならば傘下パーティーの教育が必要だ、さっさと連れて帰れ」


 セレスとヘルヴィは、俺が尻餅をついたままの男二人を指差したのを真似て、ビシッと腰に手を当てポーズまで決めて指差した。


 ……俺、そんなポーズしてないよね?


 そっと自分の姿を見下ろしてみる。


 やってたよ!


 ……というか、セレスとヘルヴィは一緒に煽るから、トリューガーの顔は真っ赤に染まり、プルプルと震え始めている。


 冷静に話を聞ける人かと思ったけど、この程度の煽りでこれじゃあ沸点は低そうだ。


 ここで担いだバトルアックスを手に取ってくれれば、背後でオロオロしながら見てる受け付けのお姉さんは無理としても、他の職員さんが止めるだろう。


 そう思っていた矢先、トリューガーは斧に手を掛けようと腕が上がり始めたところへ、知っている人が声をかけてきた。


「トリューガー、まさかギルド内で武器を抜くつもりじゃないだろうな」


「っ! ……ギルマス」


 現れたのは冒険者ギルドのギルドマスターで、冒険者登録をしてくれたアモルファスさんだ。


「最初から見ていたが、この子たちに絡みに行ったのは、そこで座っている二人だ」


「ギルマス、だがうちの傘下のものは怪我、それも骨折まで負わされている。暴行を受けた証拠だろう?」


「だから初めから見ていたと言っただろう。その怪我は自爆だ」


「そうだよ斧のおじさん! 二人の拳同士がごっつんこして怪我したんだからねっ!」


「ああ、ならばギルマスよ、罰せられるのはそこの二人で間違いはないよな」


 セレスはギルマスの言葉に、今度は両手を腰に当て、ふんす、と鼻息荒く胸を張り、怪我した出来事を付け足した。


 ヘルヴィはトリューガーではなくギルマスに向かって、ニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべ罰を促している。


「チッ! モップ、モーブ、行くぞ!」


「ま、待ってくださいトリューガーさん! せめて治療費貰わないと!」

「そうですトリューガーさん! 怪我したままじゃ俺たち依頼も受けられませんて!」


「黙ってついてこい!」


 きびすを返し、トリューガーは俺たちから離れて行くが、一度だけ振り返り、俺を見て口を動かした。


 声に出さなかったが、意味は伝わってくる。


 その口の動きは、『おぼえてやがれ』にしか見えなかったからだ。


 モーブとモップと呼ばれた二人も慌てて立ち上がり、トリューガーのあとを追いギルドから出ていった。


 ……ほぼ確実にギルドの外で絡んでくるだろうな……。


 闇騎士団がどんな規模かわからないけど、正面から当たれば負けることはないか。


 ゴブリンの大群より面倒かも……。


 倒しちゃうわけにもいかないし、死霊使役を使うわけにもいかない。


 ……ジェイミーたちに頼んで腹下しでいいかな。


 気を付けなきゃいけないのは、闇討ちくらいだけど……あ。


『ジェイミー、あの人たち追いかけて、何をやろうとするのか調べてくれる?』


 俺にはどんな作戦を立てられても、事前に知ることができる。


『了解っす。別に倒してしまってもいいっすよね?』


『あー、それはちょっと待って、向こうの動き次第だけど、倒すんじゃなくて、捕まえる前提でやりたいんだ』


『面倒っすけど、わかったっす、行ってくるっすねー』


 念話を終えてすぐに足元の影からジェイミーの気配が消えた。


 これで今のところは終わりかな? あ、そうだ、ランクアップの途中だったよ。


 そう思い、振り返ると、ギルドマスターのアモルファスさんが話しかけてきた。


「トリューガーのヤツ、なにか企んでやがるな」


「うん、俺もそう思いますが、返り討ちにはできますけどね」


「だがな、奴らのクランだが、ここ最近特に良い噂を聞かない。それに、わけありのパーティーも多い、シュヴェールト最大のクランだ」


 ギルドマスターの言葉を聞いてると、倒してしまってもいいんじゃないかと思えてくる。


 ……いや、まずはジェイミーの報告待ちかな。


 あんなのでもシュヴェールト最大クランなら、有事の際は役に立つだろうし。


「あ! ランクアップ作業!」


 お姉さんも、この騒動で手が止まっていたようだ。


「そうか、ネクロウたちはEランクになったのだな。それなら一つ頼みたいことがある、ついて来てくれ」


 そう言いギルドマスターは、受け付けの奥へ歩きだした。

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