第36話 死霊魔導師は開き直ることにした。

『くははははは! 見よ主! キングと言えどゴブリン! 三度目ならば苦もなかったですぞ!』


 地に倒れたゴブリンキングの背に乗り、一刀両断に切り飛ばした首を高々と掲げ、デバンがご機嫌だ。


 前回と同じように本拠地の手前のゴブリン村を駆逐していると、本拠地からキングが大勢引き連れて来てくれた。


 律儀と言おうか、なんと言おうか、そういうルールか習性でもゴブリンにはあるのかと考えたほどだ。


 まあ、同じパターンで二度目のこともあり、無傷で疲れることもなく終わることができたのは良かったのだけど。


「お疲れ様だけど、前と同じように建物とか燃やしちゃおっか」


「そうだな、壊し集めて山にしてくれれば我が火をつけよう」


「はーい! ネクロウに使役されてるゴブリンみなさーん! 小屋とか壊して山にしましょうねー!」


 セレスがワンハンドソードを旗を振るようにぐるぐると頭上で掲げ、使役しているゴブリンたちへ指示を出している。


 それを聞いたゴブリンたちが『ギギッ!』と手を上げ小屋の解体に向かう。


 魔石の回収をしてもらっていたんだけど……それは後でいいか。


 村でやった時と同じように、本拠地にも積み上がる小屋だったもの。


 そこへ『燃えるがいい! くははははは!』と、デバンのような笑い声をあげるヘルヴィが火魔法を放ち火をつけた。


 大量に使役したゴブリンたちは休むことなく小屋を壊し、廃材を炎へ放り込んでいく。


 それほど時間もかからず、小屋があった形跡がなくなり、夜の闇を照らすオレンジ色の大きな焚き火へと変わった。


 使役ゴブリンたちは、魔石を集めに戻り、自らの体からも魔石を取り出し役目を終える。


 前回の魔石と合わせて相当な量になったな……買い取りしてもらえるのか本気で心配になってきたぞ。


『主よ、終わりましたな』


「うん、思ったより早く終われてよかったよ」


『そうですな、物量も前回と変わらない程度、予期せぬこともありませんでしたからな』


 本当にそれだ。ハプニングの一つか二つ、あるんだろうなと身構えていたのに、何事もなく終われた。


 いや、いいことなんだけど、肩透かしを食らったような、なにかスッキリせずモヤモヤする。


「周囲を見に行ってくれたジェイミーの報告を聞いて完了かな」


『ですな』


 ジェイミーが何か見つけて、とか期待はしないけど、あまりにも前回と同じ過ぎて拍子抜けだ。


 なんなんだろうか、このスッキリしない感覚は。何か忘れてるような……。


 あ……そうだ、陛下のことすっかり忘れてた。


 一応ジムに、何かあるかもと、最初から討伐に参加させず、陛下の近くで待機してもらっている。


 連絡がないので大丈夫だとは思うけど、ちょっと聞いてみるか。


『ジム、陛下の様子はどう?』


 気になったので念話を送ってみる。


『まだ説教中、ブタ起きない』


 うへぇ、もう三時間は経ってるだろ……なのにまだ説教中とか、自業自得とはいえ可哀想な気がしてくるよ。


 というか、ブロムヒドローゼ殿下、まだ意識を取り戻してないのか。


 陛下、相当怒っていたみたいだし、あの太い腕で本気で殴られれば当然かもしれないな。


 ゾワゾワと背筋に冷気が走った気がした。


 そうだ、肝心なこと忘れてたけど、保留になってるだけで、俺の問題は何も解決してなかったよ……。


『そ、そうなんだ、ジム、変な動きがあれば陛下をお願いね』


『了解、任せて』


 この後に待つ問題に、止めることもできず、体が勝手に身震いを一つ。


 先の見えない恐怖と不安が心の大部分を占めようとした時、ジェイミーの念話が届いた。


『問題無しっすねー、前回と同じ魔物もほとんどいなかったっすよー』


 普段なら場を和ませるジェイミーの『っす』が、今の俺には死刑宣告に聞こえた。


『返事がなかったっすけど、どうかしたっすか?』


 にゅるりと俺の影からジェイミーが出てきたことで、ゴブリン討伐終了となった。


「あ、ジェイミーさん帰ってきたー、ネクロウ、これで終わりだよね?」


「もうか? ネクロウ、どうした? 顔色が悪いぞ?」


「あ、いや、うん、じゃあ帰ろうか」


 処刑台に上がる心境とはこんな気持ちなのかも知れない。





 影の居住空間から出ると、俺たちに気付いた陛下。


「お前たち、帰ってきたということは、ゴブリンを…………ヘルヴィ、その格好は……」


「父上、見ての通りだ。我は冒険者になったからな、どうだ、似合うだろう」


 防具は革の胸当てだけだが、ブーツ、フード付きのマントを着た基本的な魔法職がよく選ぶ装備だ。


 だけど陛下はその格好を言ってるんじゃない。


 魔道具を外した姿を見て言ってるのは間違いないだろう。


 それに、床で正座させられてる者たちは、陛下が『ヘルヴィ』と呼んだ者を見てさまざまな表情を見せている。


「ヘルヴィいいの? 忘れてたけど、今、魔道具着けてないよ?」


「セレス、何を忘れ、て……あ! しまった!」


 後の祭りだ。俺も別のことで頭がいっぱいだったから注意を怠ってしまった。


 あわあわと挙動不審になったヘルヴィが俺の後ろに隠れ、背中に顔を埋めた。


「……ネクロウよ」


 陛下が声をかけたのはヘルヴィではなく俺だった。


「ヘルヴィとのことは、納得いかんがこの際話を進めるとして……命を下す」


 静まり返った空間を陛下の有無を言わせぬ声が俺に向けられた。


「この後、この者たちを連れ、王城の謁見の場に場を移す」


 その言葉は俺に影転移を使い、連れていけと言ってるようなものだ。


 元々は陛下にだけ告白する予定だったが、この部屋に戻る際も見られてるから隠すもなにも無い。


 注意力散漫になっていたのは俺のミスだ。


 これだけの人に見られたのなら、俺が死霊魔導師であると広まるのも時間の問題だ。


 取り返しがつかないならもう開き直るしかないだろう。


 最悪、影の居住空間に逃げ込み、他国へ出て、身分を隠して生活することだってできる。


「はい」


 俺は覚悟を決め陛下の目を見返し返事をした。


「その場へフェルフェットヴェルデンと、それに追従した貴族たち。ティウス公爵、それと、ゴブリン討伐拠点にいるフォイルニス侯爵と、追従貴族を連れてくるのだ」


「…………はい?」


 なんだか色々やること増えてない?


「はい、と申したな……ならば急げネクロウ! 時間をかけず直ちに執行せよ! これは王命だ!」


 ……俺の夜はまだ終わらないようだ。

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