第34話 死霊魔導師、二度目の告白。

「……ヘルヴィと一緒に来たお前たちは何者だ?」


 よし、今のところ、すぐに出て行けとは言われなさそうだ。


 しかし、このまま立ったままではさすがにマズい。


 隣のセレスの腕を引き、セレスが戸惑うより早く、その場で一緒に跪いた。


「……陛下にお目にかかれて光栄です。このような突然の来訪にお声がけまで、心より感謝申し上げます」


 失礼な言い方になっていないか心配だけど、止められない内に自己紹介はやってしまおう。


「俺、わ、私は、シュヴェールト辺境伯家三男、ネクロウ・フォン・シュヴェールト、そしてこの者はセレスと申します」


 俺と言ってしまったことで、背中に嫌な汗が流れたが、最後まで挨拶はできた。


「セ、セレスです!」


 セレスも掴み続けていた俺の手を握り返し、絞り出すように声を出せた。


「ほう、ヤツの息子か……そう言えばヘルヴィが回復魔法使いを求めて訪ねた者の名が……」


「その通りだ父上。このネクロウが回復魔法の使い手であり、父上が気になさる転移を使えるのもこのネクロウだ、すごいだろう」


 跪き、床に視線を落としているため見えないが、ヘルヴィがドヤ顔しているのが目に浮かぶ。


「にわかには信じられんが、よく見ればヘルヴィよ、肌の治療が終わっているように見えるのだが」


「よくぞ気づいてくれた父上、長年消えなかった毒も膿も肌荒れもキレイに治療してくれたのだ」


 そう言い、腕をまくる音を立てるヘルヴィ。


「なんと……跡形もないとは……」


「そうなのだ、全身くまなく頭の先から爪先までネクロウに見せて治して貰ったからな」


 ちょおおおおっとぉおおお! その言い方マズいって!


「ぬ? ヘルヴィよ、それはネクロウがヘルヴィの肌を見たと、そう言うことなのか?」


 ほら! 何してくれてるの! 陛下が気づき始めてるよ!


「その通り、だからネクロウは我の婿になるのだ」


 あ……終わった。いや、これは終わったとかいう次元じゃない。


 それ、俺がヘルヴィが女の子だって知ってますよーって言ってるのと一緒だから……。


「ちょっと待とうかヘルヴィよ。今、婿と言ったか?」


「あ……ちょっと口が滑った、かな?」


 口が滑ったじゃないだろ……。


 ガタンと陛下が乱暴に立ち上がったのか、椅子が床を叩く音が聞こえた。


 まさかこっちに来るんじゃ……。


 逃げることもできないし、今さら言い訳も通じないだろう。


 どうすればこの危機的状況から逃れられるか考えなきゃマズい。


 大混乱真っ只中の俺の耳に、絨毯で小さくなっているが、確実に足音が近づいてくるのがわかった。


 ヤバいヤバいヤバいヤバい!


 赤い絨毯の視界に人影が差し込んできた。


 その影が俺の膝元に差し掛かった時、頭上からドスの効いた声が降り注いだ。


「どういうことだろうかネクロウよ、詳しく話せ」


 ガシッと両肩を掴まれ、骨が軋む感触に息が止まる。


 ……もう逃亡も不可能だ。


「ち、父上! これには少々手違いがあってだな!」


「ヘルヴィは黙っておれ」


「いや、父上、どちらかと言うとだな、ネクロウではなく、我の落ち度のような気がするのだ」


「ヘルヴィは黙っておれ」


「あ……すまん、ネクロウ」


 いやいやいやいや! もー少し頑張ろうよ! 俺の命が危険で危なくてブレイクしちゃう寸前だから!


「……言わぬか? 早く正直に話せば恩情も考えてやろう。ど う だ ネ ク ロ ウ よ」


 ギシギシと肩に指が食い込んでくる。


「じ、実は――」







 肩が砕けそうな痛みに耐えながら、ヘルヴィを治療した時の全てを話した。


 とりあえず俺の鼓動は止まってはいない。


 今のところ。


 今回の貴族派対王族派の問題を解決するため、俺の影転移が必須だったことが命綱だ。


 だが、もう一つ、特大の爆弾がある。


 俺の職業、死霊魔導師のことだ。


 この騒動を食い止める手段として、使わない手が無いスキル、影転移を説明しなければならない。


「シュヴェールトのヤツは回復魔法使いと言っていたが、転移を使うとなれば別の職業ということか?」


 覚悟は決めただろ俺。


「はい。別の職業です」


 肩に食い込んでいた指の圧力が消え、手が離れる。


 膝に触れていた影が離れ、足音が遠退いていった。


「ネクロウ、面を上げよ」


「はい」


 ゆっくりと顔を上げ陛下の見ると、机に腰を預け、こちらを見下ろしている姿が見えた。


「父にさえ黙っていた職業か……転移が可能な職業があるのは古くから禁忌とされている書物に記録がある。世には広まっていないが……」


 禁忌……やはり歴代魔王の職業で一番多い職業なんだ、そんな重大な事実を記録に残さないわけない。


「申してみよ、お前の本当の職業を」


「し、職業は……死霊魔導師、です」


 陛下はそれを聞き、額を手で押さえ横に首を振る。


「父上! ネクロウの職業は確かに死霊魔導師だが魔王になるような人物ではない! まだ会って長くはないが、その人となりは我が保証する! だから――」

「わかっておる!」


 机に預けていた腰を浮かせ、壁際の棚へ向かう陛下。


 その棚へ手を伸ばし掴み取ったのは酒瓶だ。


 おもむろにキュポンと栓を抜き、中身を何度も喉を鳴らし飲み込んでいく。


「…………ぷはっ!」


 キュッと酒瓶に栓を戻し、棚へ戻しながら顔だけこっちに向けた。


「ネクロウ、ヘルヴィの肌を見た件、職業の件は一旦保留としよう」


「父上、保留、ですか?」


「今回の貴族派、王族派の件を何とかするためにはネクロウのスキル、影転移での移動が必須だろう」


 その通りだ。早馬を走らせようと、数日前に出立したブロムヒドローゼ殿下に追い付くのは無理だ。


 まだ連絡はないが進軍しているブロムヒドローゼ殿下ひきいる貴族派の位置を探っている、ジムが帰ってくればすぐにでも止めに行ける。


「それに、ティウスを襲撃したフェルフェットヴェルデンを止めた方法があるのなら、ブームブロムヒドローゼも止められるのだろう?」


「はい、それに、ゴブリンの大軍も討伐して見せます」


 そうだ、ブロムヒドローゼ殿下を止めるのも重要だが、シュテルネ王国の国民に被害を与える可能性が高いゴブリンも放ってはおけない。


 フォイルニス侯爵家、うちの領地とは王都を挟んで反対側の位置にある領地。


 だからほぼ知らないことだらけだけど、うちと同じ国境を護る家で、そこに住むものはシュテルネの国民なのは確かだ。


「だから陛下、どうか俺たちに任せてください」


 瓶を棚に戻し、俺と正面から向き合う陛下は深く頷いた。


「ネクロウ、お前にはシュテルネ国王として、シュテルネ国王第三王子、ブロムヒドローゼ率いる軍隊を止め、フォイルニス侯爵家のゴブリン討伐を命ずる!」


「はっ! 必ずその王命果たしてきます!」


『貴族派の軍隊、見つけた』


 ジムの念話が届き、準備が整った。



 ――――――――――――――――――――


 新年、明けましておめでとうございます。


 旧年中は、私の作品を読んでいただきありがとうございました。


 今年も本作を楽しんでもらえるよう頑張って参ります。


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   本年もよろしくお願いいたします。

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