第9話 死霊魔導師は全裸の殿下を助けたい。

「み、見てま――」

「見たよな?」


 見てないと誤魔化そうとしたところに被せてきた。


 両手で俺の顔を挟み、ぐいっと引っ張ると共に自らも顔を寄せてくる。


 それにまぶたを親指と人差し指でこじ開けながらだ。


『デバン! ジェイミー! ジム! 助けて!』


『『『……』』』


『このままじゃ俺ヤバいから!』


『『『……』』』


 何度呼んでも足元の影から気配はするが返事はない。三人は影の中に避難したようだ。


 くっ、自分でなんとかしなきゃ駄目ってことかよ!


 なるべく下に視線を送らないように、目の前の顔だけを見ることにすればいい。


 ……目の前に病的に白く、血管がうっすらと見えるほどなのに、肌は荒れ、ひび割れ、見ただけでカサカサと乾燥しているのが分かった。


 解毒が必要かどうかはわからないけど、肌質を治せるなら力になりたいと心から思う。


 ボロボロの肌にあって、その輝きを失っていない青く大きな瞳は確固たる自信があるように力強い。


 覚悟を決めてしっかりと目を見返し返事を返す。


「見ま……した……申し訳ありません」


 しどろもどろになった……。


「ネクロウ、男性はおろか、父上にも見せたことの無い我の肌を見たのだな」


「うっ……はい」


「くくっ、なら覚悟して我の治療を完遂してくれるよな?」


「精一杯やらせてもらいます」


 そう答えるしかできない俺に悪戯っ子のような笑顔を見せる。


「ならば我が肌を見て治療することを許す」


 捕まっていた頬が解放された。


 ヘルトヴァイゼ王女殿下は、脱ぎかけの服を躊躇無く脱いでいく。


 目の前で何が起こっているのか理解はしている。


 結界で密室となった応接室に俺と王女殿下の二人きり。


 その片割れである王女殿下が一枚、また一枚とサナギから蝶へいたるがごとく殻という服を脱ぎ捨てていく。


 だが、よこしまな気持ちには一切なることはない。


 空気に晒された肌は思っていたより深刻な状態だったからだ。


 服に隠れていたところはさらに酷く、ひび割れ、ヤケドのような変色とヒキツレ、まるで炭のように真っ黒に染まったところまである。


 この王女殿下の肌は、昨日見たゾンビの腐った肌の方がまだ人として見れるんじゃないかと思えるほど酷い有り様だ。


 女性、女の子が男に肌を見せるだけでも相当覚悟が必要だろうと思う。


 それはキレイな自分を見せようと日々努力して、少しずつ自信を付けた結果、見せられる肌だから覚悟もできるのだろう。


 だが目の前の王女殿下は違う。


 この姿はおそらくだけど王妃殿下や身のまわりの者にさえ見せていないと、恥じらいが浮かぶ表情で分かってしまった。


「どうだ? 醜かろう。誰に仕込まれたか分かっていないが、かれこれ五年はこの状態だ」


「五年!?」


 嘘だろ……こんな状態で五年も苦しんでいたのか……。


「乳母の子が五つ歳上の回復魔法使いでな、幼少より我の回復を任せていたのだが、嫁ぐことになってな。かわりの者を探していたところにシュヴェールト辺境伯の子が回復魔法使いと聞いての」


 話しながらも最後の布切れがパサリと床に落ちた。


「おそらくだが、女ということを隠し育てられ、五歳で結界魔導師に覚醒したからだろうが、第一、第二、第三王子の誰かからの刺客によってもたらされた毒だ」


 やはり毒……解毒が必要と聞いていたからそうだとは思っていたが実の兄からとは……。


「よく面倒を見てくれた第三王子の派閥で無ければと思いもするが、未だその尾は見えん」


 消え入りそうな声で何かつぶやくが、よく聞こえなかった。


 しかし五歳で覚醒は物凄く希だ。中には生まれながら覚醒しているものもいると聞くが万人に一人もいない確率しかない。


 でも覚醒が早かったからってそんな……血を分けた兄妹だろ……。


「当時も十五歳を越えていたにもかかわらず、いや、今でさえ職業に覚醒しておらんからな兄どもは。だからいまだに暗殺者等の刺客はほぼ毎日来ておるわ」


 嫉妬、か。王子殿下たちはもう全員十五歳を越え成人しているのにまだなら焦りはわかるけど……。


 覚醒していないから五歳で覚醒したヘルトヴァイゼ王女殿下を殺そうとしたってことか……。


「今回、我付きの回復魔法使いが結婚するのだが、相手がな、毒を盛った最有力候補の第一王子派なのだ」


 それって直接が難しいからまわりからってことか。


「いや、結婚する相手は調べによると、裏では父親である当主にも反発して、現国王派なのだよ」


「なるほど、完全に黒なら止めることもできるけど、ってことですね」


「話を聞く限り好きあっているからな。引き離せるものではない」


「そうですね。幼い頃からの付き合いですから幸せになって欲しいと俺も思います」


 俺もできればセレスと結ばれたいけど、身分の差は覆すのが困難だ。


 ゆくゆくは三男である俺はシュヴェールト辺境伯領の一角を管理することになるだろう。


 そこで功績を上げれば俺個人で叙爵も夢じゃない。


 セレスを奥さんにするには頑張るしかないってことだな。


 ってあれ、今それどころじゃなかった……っ!


「そこでだ! ネクロウ聞いているのか?」


 やばっ! 女の子が全裸で目の前にいるのに他の女の子のことを考えるとか無いだろ俺!


「は、はい」


「まあよい。我がこんな格好をしているのだ、気がそれるのは仕方がない」


 ふう、気づいてなくて助かったけど……って王女殿下裸だよ!


 ガン見は駄目だ。そう、目だ、目を見て話そう。


「でだ、そんな陰謀渦巻く王城で回復魔法使いを探そうなど無謀にも程があると思わぬか?」


「はい、確かに。変な人を選んでしまったとすれば、懐に敵を招くようなものです」


「その通りだ。そこでだ、父上とシュヴェールト辺境伯は同じ歳で学園時代からの旧知と知っているか?」


「はい、聞いたことがあります」


「昨日父上がお忍びの巡幸じゅんこうで近くに来ていて、辺境伯となにやら話し合っていたところ、ネクロウの話が出てな」


「覚醒して小回復が使えると」


その通りだと、さらには盗み聞きしたとか……殿下、何やってるんだよ。


 ほのかな丘を強調するよう腕組みをして、うんうんと大きく頷き、今まで見つかったことはない、凄いだろうと王女殿下。


 いや、本当に何やってるんだよ王女殿下……。


「……我の体から毒を消し、醜いこの身を治してくれるかネクロウ。成功の暁には――」

「小解毒!」


 治したい。心のそこからそう思った。


 同情もあるだろうけど、目の前で苦しんでるんだったら手を出さずにはいられないと、気がついたらスキルを発動させていた。

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