第7話 死霊魔導師は王子と会うそうです。

 俺の小回復の使い方がおかしいらしい。


『回復魔法は飛ばないっす』

『バレット系の魔法のようですな』

『ネクロウ様、ちょっと変』


 と言われたが、モンスターを問題なく倒せることが分かった俺たちはダンジョンを奥へと進んで行く。


 レイスに始まり、ゾンビ、コイツも動きが遅いため敵じゃなかった。


 次に現れたグールは違った。ガクガクと詰まりながらもその動きは鍛えていない大人とそう変わらない。


 でもゾンビの遅さで目がなれていた俺がはじめてヒールショットを外してしまい、接近を許してしまった。


 近づいたゾンビの腐臭の強烈さに鼻から手を離せず、片手の不利を覆すヒールショットの連射に磨きがかかったのは不幸中の幸いだろうか。


 その次のミイラはパワータイプだそうだが、動きはグール以下で問題無し。


 はじめてデバンたちに手を貸してもらったのはスケルトンだった。


 その動きは成人した人より素早く、それに骨の体は隙間だらけなのだ。


 当然のようにヒールショットがすり抜け、危うく取り囲まれるところだった。


『スケルトンはまだ早いかもしれませんな』


『ゾンビまでっすね』


『初日、仕方がない』


「そうだね。というか、そろそろお腹空いてきたんだけど、そろそろ昼食に呼ばれる時間じゃない?」


 スケルトンのエリアから引き返しているところ、気になったから聞いてみた。


 謹慎で部屋に籠っていると知られているが、誰も来ないわけじゃない。


 今日は修練は中止だが、食事は呼びに来るはずだ。


『ふむ。まだ部屋に近づく者の気配は無いそうだが、時間は昼に差し掛かってますな』


『っすね。俺たちは魔石貰ってるっすから問題ないっすけどねー』


『また、昼から来る、問題ない』


 うん、昼からも来るのね……。でも、レベルは今で8にまで上がっている。


 はじめてレベルが上がったときは感動だったな。ほんの少しだけど力が沸き上がる感じが体感できた。


 それに小回復を使いまくったせいか、小回復から小回復+に変わっていた。


 威力が上がったのかどうか、本来の使い方じゃないので比較しようがない。


 変わったかなと思えるところはヒールショットを撃つまでのタイムが縮まってきたから、成長したってことで間違いないだろう。









 午後、昼食のあともダンジョンにこもり、夕食後、皆が寝静まる頃にまたダンジョンへ。


 今俺の肉体は十歳児だからあまり夜更かししては成長に問題がありそうと俺。


 それならばとデバンがとりあえず夜のダンジョンは謹慎中の十日間だけにすると妥協してくれた。


 話もまとまり、日が変わるまでレベル上げをして眠りについた。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 あくびをかみ殺し、眠い目をこすりながらも午前中の剣の修練をやっている。そんな最中、メイド長が修練場にやってきた。


「ネクロウ様、おはようございます。修練中ですが、当主様がお呼びです」


 軽く頭を下げ戻すと、簡潔に用件を話すが理由は言わない。


「なんだろうね?」


「わかりかねます。ただお呼びしろと」


 メイド長も呼んだ理由は知らされていないようだ。


 もしかすると口外禁止な理由で聞かされていないか、口止めされている可能性もあるか。


「ふーん、分かった、すぐ行くよ、案内を頼む」


「いってらっしゃいネクロウ様。わたしはこのまま続けてるね」


「用事が済んだらすぐ戻ってくるよセレス。怪我しないようにね」


 持っていた木剣を相手をしてくれていた騎士に預け、メイド長について修練場を離れる。


 執務室に近づいた時、ジェイミーから念話か届いた。


『主、王子が来てるっすね』


 王子殿下が来ている? そこへ俺を呼ぶなんて本当になんの用だろうか。


 だけどメイド長が用事の内容を知る知らないに関わらず話さなかった理由は分かった。


 来客で、それも王子殿下が来ているなら所在を口にはできないか。


 王族は暗殺の危機が隣り合わせ、だから内密にするのは当然のことだ。


 特に行動予定は極秘とされているのが通常中の常識。


 ……が、俺と王子殿下に面識は無かったよな。


 王子殿下と言えば、良い噂も悪い噂も耳にしないが確か、俺と同じ歳だ。


 ふと思い付くことは王子殿下の従者になることくらいか。


 でも確か公爵家と侯爵にも同じ歳の男子がいたはずだ。


 そうするとより高位貴族の者になるはず。


 だとするなら……なぜ父様は俺を呼ぶんだろう。


 そこへデバンとジムも念話を送ってくる。


『あの者が我らが仕えたシュテルネ王の末裔とは……情けなくなりますな』


『あれでは戦えない。肥り過ぎ』


 ……そ、そうなんだ、太ってるんだ、王子殿下……。


『あの王子が未来の王なら残念っすけど、この国も駄目っすね』


『無理、あれ、駄目』


 言いすぎだろ……。一応たしなめておかなきゃだな。


『ジェイミーにジム。悪口は言っちゃだめだよ。どうしても言いたいなら本人の前で堂々と言おうね』


『最強でなくとも良い、しかし戦えぬ王は守護できぬ』


 デバンの言う通りだ。守られるだけじゃなく、自らも守れないとな。


『そっすよー、上背があるのにもったいないっすよねー』


 へえ、背が高いんだ。でも肥ってるのか……まわりの人は痩せろと……言えないか、王子殿下だし。


『……』


 ジムはなにも言うことはないと言わんばかりに黙っちゃった。


『……まあ話がなんなのかわからないけど、これから会うわけだし、それから考えよう』


 廊下の先に見えてきた貴族用の応接室。


 五人の騎士が立っている。左右二人ずつ、扉の真ん前に一人だ。


『ふむ。まだまだ修練の足らんものたちのようだな。仮にも王子がいる部屋を護っていると言うのに近づく者がいてなお重心が高すぎだ』


 いや、仮、じゃないよね? 本物の王子殿下が来てるんだよね?


『真ん中の人くらいっすね、まだ使えそうなのは』


『もう駄目、ここまで近づいたら、声かける。常識』


 おお、ジムが今までに無い長文を。


 でもそうだよな。既に騎士たちとの距離は五メートルを切っている。


 いくら屋敷の中とはいえ仮にも、じゃなくて王子殿下いるのに警戒が無さすぎ。


 これがもし変装したメイド長と子供が二人組の暗殺者だったならどうだろう。


 五メートルなんてあっという間だ。


 仮に扉前を突破され、王子殿下に傷一つでも付いたならこの者たちは厳罰、最悪処刑になるだろう。


 王族を護る際の心構えが足りていない。


 俺でも人影が見えた時点で身構えるだろうな。


 扉前まで到着した俺とメイド長が立ち止まった後、騎士に話しかける。


「シュヴェールト辺境伯家三男ネクロウです」


 しっかりと目を見て挨拶すると、少し驚いたような顔をしたが、何事もなかったようにすました顔に戻った。


「……聞いております。お一人でお入りください」


 抑揚の無い声でそう言うと、扉前から体をずらし、俺の前をあけた。


 足を進めると、左右の騎士が扉を開けてくれて止まること無く応接室に足を踏み入れる。


 背後で扉が閉まるのを感じながら、目線は父様と向かい合う大男に釘付けだ。


 父様は剣聖と呼ばれる強者で、体格は内の騎士団でも大柄な方だと言うのに、外そうとしても目線を外せない大男。


 デバンたちの話しによれば王子のはずだ。


 俺と同じ歳の王子はずだ。


 なのになぜ父様と変わらぬ大柄な男性がいる。


 いや、横幅を加味すれば父様の方が小柄に見える。


「来たかネクロウ。紹介しよう。シュテルネ王国第四王子の――」


「シュヴェールト辺境伯よ。自己紹介は自分でしよう」


「はっ。差し出がましく申し訳ありません」


「よい。我が名はヘルトヴァイゼ・フォン・シュテルネだ。ネクロウ、そなたのことは辺境伯から聞いている。さあ座ってくれ」


 見た目のインパクトから外れた、なんだかちょっとフレンドリーな王子殿下。


 その王子殿下がニコニコ笑いながら自分の座るソファーの横をバンバン叩いている。


 ……そこに座れと?


『ほう。王子自ら隣席を誘うとは、この者、主の偉大さを感じ取ったようだな』


 いやいや偉大とか置いといて……王子殿下の隣、座らなきゃ駄目?


 視線をやった父様もひきつり困惑した顔をしながら頷いた。


 ……そうですか。


 諦めモードで王子殿下の横へ足を踏み出した。


 うぅ……おそれ多すぎて行きたくないです。

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