『予感』クリスマスストーリー(2025)

推奨 本編1章2話あたりまで読んでる



――本編(高校)開始の約1年前――



「な…。な…ぎ……おい、凪聞いてるか?」

「ん?あ、ごめん聞いてなかった。なんの話だっけ?」

「受験だよ。さすがに中三の12月にせざるを得ない話題だろ。面接の練習、俺たちそろそろだから手伝ってくれね?」

「特にやることないし、わかったよ」


 クラスメイト2人と協力して、教室内の机を移動させ、面接の練習に最適な形にした。

 その後、10分間ぐらい俺ともう一人は面接官役として練習に付き合った。


「ちゃんと練習してたんだな」

「もちろん。行きたい高校だからな。地味に偏差値高いからガチでやんねーとな。で、こん中じゃ凪だけ進路知らないんだけど、どこ行くん?」

「俺かぁ…」


 正直な話をすると進路のことはあまり深く考えていなかった。

 

「そういえば凪って、身体能力はほぼ無双状態だもんな。もしかしてハンターになるのか?」

「んー、ハンターか。考えたことがないわけじゃないけど…そこまでなりたいものって認識はないかも」

「へー、意外…。凪?どうした?」

「えっ?何が?」

「いや、顔が怖くなってたぞ?」


 思わず自分の顔に触れた。

 ポーカーフェイスは得意な方だったが、感情が顔に出てしまったか。

 まだまだ感情の抑制が下手なんだな。


「ごめんごめん、ちょっと難しく考えすぎてた」

「それならいいんだけどさ。俺これからデートだから、先行くわ。お前らは?」

「ん?僕はバイトかな」

「藤本…なんて悲しいやつだ…バイト…か。それも今日…」

「僕はそれ以上に今日が登校日になっている現実に悲しさを覚えてる」

「「それは言えてる」」


 そればっかりは、この学校の生徒のほぼ全員が共感できるだろう。


「で、凪は?デート?」

「俺に彼女いないの知ってて言ってんだろ?別に、普通に家帰って適当に過ごすかな」

「そうか、じゃあここで解散だな」


 そう言って俺たちはそれぞれ帰路についた。

 家に帰ると、玄関で亜優さんが迎えてくれる。

 

「あ、凪君お帰り」

「ただいま」


 亜優さんの声が聞こえていたのか、時雨と舞花が姿を現す。


「お兄おかえり!」

「おかえりなさい」


 二人のテンションが普段に比べ高い。

 クリスマスを堪能できているようだ。





 クリスマスパーティーはあっという間に終わった。 

 俺は一人「外出てくる」と言い残し、家から出た。


「ふぅ…」


 吐き出した白い息が空中に霧散していく。

 その様子を眺めながら、ゆっくりと地面に落ちる雪を見る。

 クリスマス、時雨や舞花が楽しめているようでよかった。

 俺はやっぱり――


「楽しめない?」

「っ!?」


 突然、声を掛けられ驚く。


「亜優さん…どうしたんですか?」

「凪君…。やっぱり楽しめない?」


 亜優さんのどこか落ち込んだ声に、反射的に振り返り顔を見る。

 その顔はどこか悲しそうだった。


「いいや、楽しかったよ」


 咄嗟に出たのは嘘だった。

 

「…やっぱり、まだ楽しめない?」


 どうやら、俺の嘘は簡単に見抜かれたらしい。

 

「…本音を言うと、あまり…。でも、俺って多分、こういう季節のイベントとか全力で楽しむのが苦手なのかもしれない。だから、亜優さんたちが悪いわけじゃないんだ」

「ふーん…」

 

 亜優さんの表情が、少しだけ普段通りに戻る。

 それには一安心だが、その反応…嫌な予感がした。


「メリークリスマスっす、亜優さん」

「メリークリスマス、ハル君」

「え?なんで?」

「ほら…中学3年にもなって、クリスマス家族とって、やっぱり退屈かな?って思った私からのサプライズ。ハル君、凪君を頼んだよ」

「了解」


 見事なほど立派な敬礼をすると、ハルは俺の後ろに回り背中を押してくる。

 

「ほら行くぞー」

「ちょっ、待てよ。外出って言ってもお金が――」

「――それは心配いらないよ。ハル君にお金は渡してある。思う存分使って、楽しんでよ」


 という流れで連れ出された結果、街中まで来ていた。

 あたり一面、派手にイルミネーションが飾られ、歩く人だかりはカップルが散見される。


「で、何するんだ?」

「んー、何しよ」

「考えてなかったのかよ」

「凪は俺の親友だ。でもさ、凪との付き合いはまだ2年もたってないし、俺自身も凪の5割も理解できていないと思う」

「……」


 確かに、ハルの言う通りだ。

 俺は中学に編入してから、周りとの人間関係を持つことには集中してきたが、深い関係は作っていない。

 だからこそ、自分の本音に近い部分は漏らさない。

 なのになぜ、浅い付き合いしかしてないはずのハルとこんなに親しくできているのだろうか…

 …なんで、ハルは俺を親友と表現しているんだ? 


「なんで俺が親友って表現をしてるか疑問?」

「なんでわかんだよ」

「わかるよ。凪って顔に出やすいから」

「は?」


 スマホのカメラを使って自分の顔を確認するが、特に変化は感じられない。


「じゃあさ、今日…本音を漏らすわ。正直、お前のこと最初は嫌いよりだった」

「……そうか」

「でもさ、ある時気づいたんだよね。凪も俺と同じなんだって」

「どういうこ――」

「――何もないってこと。心が…というより目的がないところ」


 ハルは普段見せないような真剣な表情で俺を見つめていた。

 というより、彼の発言は今の俺の核心をついてきた。

 

「別にさ、詮索はしないよ。お互いそれが一番いいんだろうし。でもさ、もし話したいときは話せよ。俺も勇気ができたら、一番に凪に言うから」

「ずいぶん信用されてるんだな」


 なぜハルはここまで俺を信用するんだろう。 

 疑っていないわけじゃない。 

 でも、どこか俺自身も進まなければならないという気持ちがあった。

 だから、今ある俺の勇気を振り絞って、一つハルに悩みを言ってみることにした。


「あのさ…進路、決まらないんだ」

「おっと、いきなりか」

「あ?悪かった?」

「ごめんて。全然悪くない、ってかこんなに早く行ってくれるとは、うれしいな。そうか…進路か…」


 ハルは真剣に考えるそぶりを見せた後、トートバックから何か取り出した。


「あった、これこれ。凪が進路の希望がないなら、誘ってみようとは思ってんだぜ」

 

 彼が見せてきたのは『国立英雄育成専門学校』の資料だった。

 確か以前、学内で希望者のみに配布されていたもののはずだ。

 表紙に大々的に書かれた『英雄』という文字を見て、自然と目を細める。


「凪ってどこかハンターとか英雄に対して思う部分があるように見えたからさ、親友としてのアドバイス的な?」

「お前洞察力が優れてんのか、心を読めるのかわかねーよな」

 

 ハルから資料を受け取る。

 すると彼は立ち上がり、気分を切り替えるように深呼吸をする。


「ふぅ…ほら、行くぞ。今日楽しみに来たのに、重い話メインになっちまった。そろそろパーティーといかないか?あぁ、凪は食べたんだっけ?」

「…いいや、適度に腹が減った」

「大食い選手かよ。さて…何食べる?」


 二人並んで歩きだしてすぐ、目の前に怪しげな着ぐるみが立ちふさがった。


「ん?ナニコレ?」

「知らん」

「ふたりとも!」


 どこか聞いたことがあるような声だった。

 思い出そうにも、着ぐるみのせいで声がこもっていて、なかなか記憶の中の声と一致しない。


「あー、クソ!」


 着ぐるみの人はそう悪態をつきながら、頭を強引に取り外した。

 その瞬間、俺もハルも声を出して驚く。


「あ!藤本、バイトってここだったのか。まさか出店とは、運がないな」

「そうだよ。って、そんな状況じゃねーんだ。頼む!凪と晴馬!手伝ってくれ!!」


 どうやら、クリスマスは俺と相性が悪いらしい。

 次々に疲労がたまる出来事ばかり起きる。

 でも、今年のクリスマスはなぜかそこまで嫌な感じはしない。

 

「来年はもう何人か友達を誘ってクリスマスパーティーでもするか」

「お!いいね!」

「凪!?聞いてた?僕の話!手伝い必要なんだ!」


 藤本の懇願の声を聴きつつ、空を見上げた。


 結局、藤本のバイトに付き合わされることになった俺たちは、着ぐるみを身に着け、チラシ配りとケーキ販売の手伝いをする羽目になった。

 

「ありがとうございましたー」


 着ぐるみを着た状態で俺と藤本はケーキを販売を、ハルは周辺でチラシ配りをしていた。

 店長らしき人は別の場所でもケーキを販売しているらしく、そちらに顔を出しているみたいだ。

 面倒ではあるが、俺たちにもちゃんとバイト代が出るらしいから、一応やり遂げるつもりだ。

 最初の方はお客が多く、慌ただしくしていたが、今となっては客足がかなり減少し、余裕どころか暇ですらある。

 

「暇だなぁー」

「あぁ、そうだな」


 実質カカシと化した俺と藤本。

 唯一の救いといえば、着ぐるみのおかげで寒さは凌げてる部分か。

 どうせ暇ならと藤本に話しかける。


「なあ、藤本」

「ん?」


 墨の方に置いてた、資料を藤本に手渡す。


「この学校、どう思う?」

「ん?あー『英専』か。凪っぽくていいんじゃね?ただ、そこすごい名門だよ?」

「いや、入るとは言ってないんだけど…」

「え?そうなん?凪なら入りそうだって思ったんだけどな」

「……」

「……」


 お互いを見つめるが、着ぐるみのせいでよく見えない。


「なぁ…脱いで話さない?」

「…いや、一応バイト中だし、完全に見えないわけじゃないだろ?」

「そりゃそうだけどさ。ってか、凪って勉強できるん?」

「勉強?できるように見えるのか?」

「だよね。ここ、確かに身体能力とか魔力量とかを重視するらしいけど、試験問題がこれまた難しくて合格ラインが高いって有名なんだ」


 藤本が資料を返してくる。

 確かに、想定していなかったわけじゃなかったが、勉強か…。

 ハルはああ見えて勉強はできるほうだし…。


「すいません」

「あっ、はい!」


 聞き覚えのない女性の声がして、慌てて接客に戻る。

 その際、慣れない着ぐるみのせいで、手から資料を滑り落してしまう。

 着ぐるみの手の部分が比較的薄めな手袋だったから、ものなんて落とさないだろうと油断していた。

 しかも、運悪くお客さんの方へ落ちていった。


「あぁ、すいません」

「いえ、大丈夫ですよ」


 着ぐるみの中から見えたのは、長く綺麗な黒髪だった。

 身長と声からして、俺たちとそう年齢は離れていないように感じる。

 女性は資料を拾ってくれた。

 

「これは……『英専』。目指すんですか?」

「え?あ、っと。目指すというか希望というか。はっきりとは決まっていないです」

「私と似てますね。それにしてもクリスマスなのに、バイトですか」

「ちょっと友達に巻き込まれちゃって」

「災難ですね」

「友達真横にいるんですけど…」


 横から小さく藤本の声が聞こえた。


「そうですね…ショートケーキを二つください」

「ショートケーキ二つで1400円です」


 代金を受け取り、藤本が運んできたショートケーキ2つを女性に手渡した。


「では、バイト頑張ってくださいね」

「はい。ありがとうございました」

「ありがとうございましたー」

「おっ、3人ともちゃんと仕事してるね」


 女性の客の背中を見送っていると、急に背後から声を掛けられる。

 振り返ると、赤いエプロンを身にまとった大男、店長がいた。


「店長、戻ってきたんですか。ハル、店長が戻ってきたぞ!」

「マジ?」


 少し離れた場所からハルの声がしたことを確認し、店長の話を聞いた。


「だいぶ売れてるね」


 かなり在庫が減ったケーキの山を見て、店長はつぶやく。

 その間に、看板を持った着ぐるみが隣に立った。


「ハル君も宣伝ありがとう、看板重くなかった?」

「よゆーですよ」


 着ぐるみの頭を取り外し、ハルは笑顔で親指を立てた。


「3人ともよく働いてくれた。これ、バイト代ね」


 店長から手渡された、三千円を見て驚く。


「え?こんなに…。藤本は六千円も…。店長これ…」

「私からのクリスマスプレゼントだ。クリスマスのこんな時間に君たち中学生の手を借りたんだ。当然だろう?本当なら、まだまだ働いてほしいんだけど、そろそろ8時だからね。さすがにそれはアウトになるからね」


 聖人のような性格をした店長に俺たちは感謝した。


「「ありがとうございます」」

「あざっす!」


 こうして夜のクリスマスのバイトが終わった。

 


――女性視点――



「ふぅ…」


 出店でみせで購入したショートケーキ2つを手に持ち、ベンチに座る同行人に声をかける。


「紗優、買ってきました」

「ショートケーキ?結乃が私に?」

「はい」

「ありがとう。とても嬉しい」


 紗優にケーキを手渡し、隣に座る。


「まったく…白井に迎えの車を頼むように言ってたんだけど…」

「……」


 紗優が小さく愚痴を言う中、私の脳内では先程の『英雄育成専門学校』の表紙が浮かんでいた。

 多少興味はあるが、目指すつもりはない。


「そういえば結乃、進路は決めた?」

「進路、ですか?」

「そう、進路。目指す学校とか」

「そうですね…、まだなんとも」

「そっか…」


 そこで紗優との会話は途切れ、街中特有の喧騒にのまれる。

 

「なら、私と同じ学校にいかない?」

「……」


 声のトーンが明らかに落ちた紗優を見つめる。

 紗優も私を真っすぐ見つめていたが、その顔はどこか悲し気だった。

 その理由を、私は知っている。

 そして、彼女の発言の真意もなんとなくわかってしまう。


「『英雄育成専門学校』って学校なんだけど…私一人だと心細いの。できれば結乃も――」


 この誘いは今日が初めてじゃない。

 いや、ここまではっきりと言われたのは、今日が初めてだ。

 これまでは間接的に『英専』の話題につなげていた。

 多分、今日ここまで攻めたのは時間がないからだ。

 試験は2月、時期的にも目指すなら今日あたりに決める必要がある。

 いつも通り、断ろとした。

 その道に進む行為は私にとって、虚しさを作るだけのものになると思ったから。

 でも、なぜだろう…。

 どうしても、さっきの表紙が脳裏から離れない。

 まだ、私は憧れているのだろうか…。


「――どう?無理にとは言わない」


 紗優は真剣に、私の答えを待っていた。

 運命、そんな言葉が浮かんだ。

 もし、この先に待ち構える運命が虚しい結末だとしても、ここで踏み出す意味がある。

 そう、この瞬間だけは思うことにした。

 だから、私は――


「わかりました。私も目指してみます」


 答えを聞いた紗優は目を輝かせて、私に抱き着いてきた。


「ありがとう。嬉しい」

「大げさです」


 そんなやり取りをしていると、近くに車が止まり、助手席から白井が降りてきた。


「お迎えに参りました」

「あっ、白井!遅かったわよ!」


 家族や使用人だけの空間の紗優の人格が表に出ていた。

 もし、この場所に同じ学校の生徒がいたら、紗優は頭を抱えることになりそうだ。

 

「ほら」


 立ち上がろうとしたとき、目の前に手が差し伸べられた。

 見上げると、紗優が嬉しそうに私を見つめる。


「行こう、結乃」

「…そうですね」


 私は紗優の手を取り、立ち上がった。

 『英専』を目指すと決めたことに対しては迷いが完全に消えたわけじゃない。

 でも、紗優の嬉しそうな顔を見たら、言ってよかったと思えた。

 今年のクリスマスは、きっと良いものになる。

 そんな予感がした。

 


※遅くなりました。

 正直3000字程度のものを考えていたんですけど、思ったより長くなった…。

 かなり急ぎ目に書いたんで、おかしな部分があるかも…、温かい目で見てください。

 

 



 

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かつて存在した英雄たちへ ―ショートストーリー― Oとうふ @pinapokko

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