天使の涙と禁断の愛
蜂鳥タイト
天使の涙と禁断の愛
ここは天界。
私はゆっくりとふわふわの雲の上を歩いている。
私は愛を与える大天使【慈愛の大天使】エラ・ミラエル。
目の前には大きくそびえ立つ転生樹が見える。
これから通常の天使から新しい大天使が生まれる儀式【エンジェル・レリアル】と悪い事をした天使を殺す【堕天】という儀式が行われるため、私は儀式に呼ばれ今向かっているところだ。
ちなみに、【エンジェル・レリアル】とは、私たちが司る世界で、新たな概念を生み出した天使にのみ与えられる特権で、【堕天】とは天使には絶対してはいけない決まりを破った際に、転生樹により、裁きを下されることである。
裁きは巨大な雷がその違反した天使に降り注ぎ、そのまま天使を殺してしまうというもの。
ただ、何億年後かは分からないが、堕天された天使は、完全に記憶を失い、私たち大天使が統括している世界の人間に転生する。
私達天使が絶対してはいけない行為というのは【殺戮行為】【天界転覆】【恋愛】【涙を流すこと】である。
一応天使まではギリギリ許されているのだが、大天使にまでなると、一回でも違反をしたら堕天送りになってしまう。
しばらく歩いていると、ようやく会場の入り口に到着する。
入口には、白銀の門があり、門の左右には天使の羽、門の上には円形のヘイローが浮かんでいる。
ゆっくり中に入ると、そこにはたくさんの小さな羽の生えた天使たちが集まって話をしていた。
どうやらこの天使たちが、今回の大天使候補らしい。
それぞれ可愛い容姿をしている。
私も初めて【慈愛の大天使】に選ばれた時もこんな感じだったのだろうか……もう覚えてない。
「こちらです」
私は広場に分かれている舞台の右側に案内される。
左側には大天使候補の天使たちが集まっていた。
そして、鐘のような音がこの空間に鳴り響く。
周りには、無数の天使たちが、座っている。
正面から一人の大天使が階段を降りてきた。
あの大天使の名前は、【執行の天使】リラ・リサエルという。
この天界においての儀式などを執り行う天使であり、私とは古くからの幼馴染なのだ。
そんなリラだが、私は目じりが赤くなっているのを見つけた。
まぁ、それはそうだろう。
【堕天】は天使を殺す儀式、どの天使だってしたくないし、リラからしたら相当嫌な相手だろう。
ちなみに私とリラが出会ったのは、今から千年前のこの【エンジェル・レリアル】だった。
そう、私とリラは同じ日に大天使へと昇格してもらったのだ。
その時の彼女はまるで、ツンツンしていたため、話しかけにくい雰囲気を出していた。
「おはようございます、リラさん」
「なに? あんた誰?」
これが私とリラの初めての会話だった。
この時のリラは周りから大天使になったことをひどく非難されていた。
大天使になったもの勝ちなのに本当にひどいと思う。
私はずっとリラの横に寄り添い、リラがいじめられていたら助ける。
それをずっと繰り返していくうちに、リラから私に話しかけてくる回数も相当増えた。
一緒にご飯を食べ、一緒に仕事の話で盛り上がったり……
「ねぇ、リラちゃん、私達これからもずっと一緒に居ようね!」
しかし彼女は答えてくれなかった。
そうしてしばらくの期間が開き、私は一通の手紙を受け取ることになる。
手紙を読んだ時ようやく私がリラが返事をしなかった理由が分かったのだ。
そうして今に至る。
リラは私の方を軽く見て、少し目を細めると再び天使たちの方を向く。
「それでは【エンジェル・レリアル】を始めさせていただきます」
リラが白銀の杖を持つ。
その瞬間、周りの天使が立ち上がり片膝を付く。
もちろん私と隣にいる天使たちも片膝を付いている。
そして軽く杖を振ると、奥の転生樹が光り輝き、優しい白い光が、隣の天使たちの周りをまわるように動き、やがてその光は巨大な白銀の手の形になった。
その手は、天使たちを包み込むと、天使たちの小さな羽は、きれいな六枚羽になり、頭上のヘイローも大きくて立派になった。
これが【エンジェル・レリアル】という天使を大天使に昇格させる儀式である。
リラはゆっくりと私に近づいてくると唇を噛みしめ私の顔を見た。
まるで悲しそうなそんな目で。
「……これより……慈愛の大天使、いえ……元慈愛の大天使エラ・ミラエルの【堕天】を……始めます。罪状は……私、リラ・リサエルへの恋愛行為です。最後にエラ・ミラエル……何か言いたいことはありますか」
リラの声が震えている。
そう、私があの時言った「ずっと一緒に」という言葉を転生樹に聞かれてしまったのだ。
リラは今でも泣きそうな顔で私を見ている。
正直、転生樹の決定は絶対なのでここで命乞いをしても無理である。
何なら……
「私のことは気にしないでいいよー! ほら笑顔にね! ……さようなら、ごめんね」
「謝るくらいなら……どうしてあんなことを……言ったの……私……」
リラの言葉を聞く間もなく、私の上空が明るく光ったのであった。
一人の男が教会前をウロウロしている。
「良ければ参拝されていきますか?」
教会のドアを開け小さなシスターが頭を下げる。
身長で言うと、八歳くらいだろうか。
男は小さく頷くとゆっくり中に入る。
教会に入ると、まず目に入ったのは奥に見える祭壇とその横にある二つの天使の像だった。
「改めて私の名前はリラ・ミラリーと申します。この教会は少し特殊でして、【慈愛の大天使】エラ・ミラエル様と【執行の大天使】リラ・リサエル様の二大天使がいます。ご存知ですか?」
男は首を横に振る。
「ではこちらをご覧下さい」
女の子が案内した場所には、何やら絵画が飾られてあった。
その絵には、奥に大きな転生樹があり、二つ天使が手前に描かれていた。
左の天使は何やら目から涙を、右の天使はその涙を流している天使に膝をつき手を伸ばしている。
何より、その間にはまるで隔てる壁のように、雷のようなものが描かれているのだ。
「この聖書曰く、天界では【殺戮行為】【天界転覆】【恋愛】【涙を流すこと】これを禁止しています。これを破ると、天使は【執行の大天使】によって刑を執行され、転生樹に裁きとして【堕天】されてしまいます。しかし、この二大天使はそれぞれ恋をしてしまったのです。しかし、エラ様は、リラ様とずっと一緒にいるためそのことを隠し続けていました……」
「やほー! お客さんかな!?」
奥から別のシスターが走ってくる。
このリラと同い年くらいの小さな少女だった。
「ちょっとエラお姉ちゃん……今仕事中だよ?」
「ごめーん! 改めて! 私はこの教会でシスターをしてるエラ・ミラリーだよ! いいよね! お母さんが私達にこの天使の名前をつけてくれたんだよ!」
男は笑顔でうんうん頷いている。
リラはため息をつきながら続きを話し出す。
「しかし、エラ様は……知らず知らずに【ずっと一緒】という禁句を、口に出してしまったのです。愛しのリラ様に刑を執行され裁きとして【堕天】されてしまいました。しかし、【堕天】というのはその天使が転生するという特徴があるので、リラ様は転生した先にエラと会えることを願い、涙を流し二大天使は転生樹により【堕天】しました。私たちはこの聖書を見つけて決心したのです。この大天使の愛は本物だと、だからこそ、教会と白銀の像を作り、ずっと一緒に居させているのです」
男は涙を流すとそのまま手を合わせた。
男はそのまま教会を出ていく。
「またお越しください」
「またねー!」
リラはエラに抱きつかれ、不貞腐れていながらも、必死に笑顔を見せようと男を見送る。
【堕天】された二大天使がいつ転生したのか、どこで何をしているのかは、誰も知らない。
「ちょっとエラお姉ちゃん! 毎回近いよ!」
「だってリラちゃんのこと好きだもん! ずっと一緒だよ!」
「全く……姉妹なんだから当たり前でしょ」
二人のシスター姉妹はこれからも、仲良くこの教会を守り続けて行くのだった。
天使の涙と禁断の愛 蜂鳥タイト @hatidori_taito
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