第4話:秋の深まり
季節は足早に過ぎ、古都の山々が鮮やかに色づき始める頃。11月9日。その日のデートは、僕たちの9ヶ月間の中で、最も穏やかで、そして完成された一日だった。
僕たちは少し足を伸ばして、紅葉の名所として知られる西の景勝地を訪れていた。有名な禅寺の庭園を歩く。赤や黄色に染まった木々が、池の水面に映り込んでいる。僕たちはしっかりと手を繋ぎ、時折立ち止まっては「綺麗だね」と笑い合った。
川にかかる長い木造の橋を渡る時、彼女が言った。
「私ね、この橋を渡るのが好きなんだ」
秋の風が、彼女の髪を揺らす。
「川風が気持ちいいし、なんだか背筋が伸びる気がして」
「うん、分かる気がする」
僕たちは欄干に寄りかかり、流れる川を眺めた。4月に出会った頃の緊張感はもうない。彼女の横顔を見ていると、ただただ愛おしさが込み上げてくる。この穏やかな時間が、これからもずっと続いていくのだと、僕は疑いもしなかった。週末になれば彼女の部屋に行き、こうしてデートをして、また部屋に帰る。そのサイクルが、僕の人生の「日常」として完全に定着していた。
帰り道、いつものように電車に揺られながら、彼女が僕の肩に頭を預けてきた。
「……眠い」
「寝てていいよ。着いたら起こすから」
「ん……ありがと」
彼女の規則正しい寝息を聞きながら、僕は幸せを噛み締めていた。彼女は僕を信頼してくれている。僕も彼女を守りたいと思っている。何もかもうまくいっている。そう信じていた。
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