第1話 ロスト:名前

 次の日、朝8時に起きて、身支度を済ませて、学校に行く前に彼女に電話をした。


「もしもしー。学校行く前に電話しちゃった!」


「もしもしー。全然良いよ。大輝くんは、法律を勉強してるんだよね?めちゃくちゃ大変だよねー」


「まあ全然分かってないけどね笑。桜咲さんは、何歳なんですか?」


「桜咲?誰のことですか?私は……。あれ?私の名前って何だっけ?」


「なにとぼけてるの?君は……」


 その時、昨日送られてきたルールを思い出した。


 ③私は記憶障害で、毎日1つ何かしら忘れます


 もしかして、記憶障害の影響で、彼女は自分の名前を忘れたのかな。こういう時、どうすれば良いんだろう。


「名前忘れちゃった!私って桜咲未来って言うの?良い名前だなあ……。でも、やっぱり覚えにくいかも。また、新しく覚え直すから、大輝くんの好きな名前つけても良いよ。できれば覚えやすい名前が良いなあ」


 彼女に名前を付けれる……。最高かよ!!何度も子供が生まれたときにどんな名前をつけるか妄想していた。


 陽奈とか、彩奈とかはありきたりすぎるなとか、そんな妄想ばかりしていた。もっと分かりやすい覚えやすい名前か……。

 

「苗字をとって、さくらでどう?俺もさくちゃんってこれから呼ぶよ」


「さくら!覚えやすいかも!ありがとう!大輝くんから良い名前貰っちゃったなあ……」


「さくちゃんが、喜んでくれて良かったよ」


「うん!ちなみに私の年齢は秘密!30歳より下とだけ伝えとくねー」


「そっか……。じゃあ25歳っていう絶対にしとくわ」


「もっと若いかもよ?本当にそれで良いの?」


「じゃあ16歳とか?」


「高校生と交際しちゃダメでしょ!ちゃんと私は成人だから、18歳から30歳の間のどれかだよー」


「そう言われるとめちゃくちゃ気になるなあ」


「女の子に年齢聞くのは良くないよ」


「まあそうだよねー。じゃあ大学行ってくるわ!」


「行ってらっしゃい!」


 大学に行く間も心が落ち着かなかった。早くまた話したい。もっと色んなことを話したい。教室に着いて、気持ちを落ち着かせようとしていると、後ろから馴染みのある声が聞こえてきた。


「おはよーー大輝!昨日はどうだった?卒業出来た?」


 いつもより楽しそうに俺の顔を見てくる。中学からの友達の周平だ。周平には、俺のことは全て話している。マッチングアプリで彼女と会う約束をしたことも。ラブホテルに行くことも伝えていた。


「いや……まだ。結局裏切られた」


「うわーー。そりゃードンマイだわ。まあ、またチャンスがあるよ」


「うん」


「なんかフラれた割には楽しそうな顔してるな?新しい彼女候補見つけた?それとも宝くじが当たったとか?」


「別に……そんなんじゃないよ」


 俺は嘘をつくのが苦手だ。すぐに顔に出るタイプだ。逆に周平は勘が鋭い。きっと俺が嘘をついてることもわかっているはず。


「まあ良いや。それより、今日の3限の日本国憲法の授業、テストだよな?」


「え?マジで?全然勉強してないわ……」


「仕方ねえな。この授業終わったら教えてやるよ」


「ありがとう!」


 授業後、憲法について色々と教えてもらった。テストは何とかなりそうな気がする。気がつけば12時を過ぎていた。


「お腹すいたし、お昼ご飯にするか」


 周平が勉強を辞め、財布とスマホを持って、教室を後にした。俺も急いでノートを閉じて、周平の後を追いかけた。俺たちはいつも学食でお昼ご飯を食べている。


 学食で人気のメニューが1つある。それが、鳥ポンからあげた。唐揚げの上からポン酢がかかっていて、さっぱりしてめちゃくちゃ美味しい。


 その鳥ポン唐揚げを目当てに今日も長い列が出来ていた。俺たちも1番後ろに並び、その瞬間を待ち続けた。


 ピロリン


 さくちゃんからメッセージが届いた。


「大輝くんはお昼ご飯、何食べるの?」


「鳥ポン唐揚げかな。さくちゃんは?」


「えー!?私も全く同じだよー。列が長いから少し待ってる。早く食べたいなあ……」


 え……??鳥ポンからあげ?まあ鳥ポン唐揚げぐらいどこの大学にもあるか。レストランにも置いてありそうだし、同じ大学なわけないよなぁ。


「お前、何楽しそうにしてるんだよ?誰とメッセージしてたの?やっぱり彼女候補?」


「いや……ただの友達だよ」


「ほんまに?」


 鳥ポン唐揚げを取り、お金を払って、席に座った。今日も鳥ポン唐揚げは美味しそうな匂いと見た目をしていた。


「私も今から食べ始めるよー。うわーめちゃくちゃ美味しそう!!」


 メッセージと写真が添付された。その写真に写っていた食器は、今目の前にある食器に少し似ていた。


「俺も今から食べるよー。めちゃくちゃ楽しみ」


 やっぱり同じ大学なのかな。でも、絶対会ってはいけないというルールがある。会わないから、色んな妄想ができる。また、会ったら辛い目に遭うだけだ。


 頭を空っぽにして、鳥ポン唐揚げを食べ始めた。めちゃくちゃ美味しかった。目の前の席に座ってる周平は、カツカレーを食べていた。


 日本国憲法のテストは、50点中30点。まあ半分は取ることが出来た。周平は満点だったらしい。周平は、頭もいいし運動神経も良い。顔もカッコいいからみんなからモテていた。今も彼女がいる。毎日のように会っているらしい。

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