絶対に会ってはいけない恋〜俺たちが忘れてしまった30日間〜

緑のキツネ

第1章 オンラインカップル

プロローグ

 恋愛は片思いしている時が1番幸せという言葉を聞いたことがある。片思いしている間は、誰でも無敵なんだ。付き合う想像をしても、結婚する妄想をしても、その人の裸を想像しても……。何をやっても許される。


 相手は、俺が好きなことをまだ知らないのだから。でも、人は妄想すると実現できると勘違いしてしまう。ワンチャンあるのでは……と思ってしまう。


 俺もそうだった。マッチングアプリで知り合った人とメッセージで話すたび楽しくなっていた。彼女こそ運命の相手かもしれない。会う前は何度も結婚している未来を妄想していた。


 実際、会ってみてもめちゃくちゃ可愛い女の人で、一目惚れした。夜ご飯を居酒屋で食べながら、飲みながら色々と話しているうちに、彼女と付き合いたいと思うようになった。そんな俺に彼女が「この後、どう?」と誘ってくれた。


 胸の高鳴りが止まらない。この流れって何度も夢見た展開なのでは?この後の展開を妄想しながら、彼女に付いて行った。


 人生初めてのラブホテル。ここから何が起きるか不安と期待が天秤で何度も揺らいでいた。本当に俺がやっても良いのか。


 でも、良かったのはここまでだった。シャワーを浴びてる最中に財布のお金を抜かれ、彼女は消えてしまった。興奮していた気持ちが一気に冷め、怒りと消失感を感じながら、ベッドで1人で横になった。


 昨日まで妄想してた日々が楽しかったのに。もうアイツのことなんて考えたくない。


 頭を空っぽにして、グーグルで検索した。

「ラブホテル 裏切り 最低」

 

 同じ経験をしている人が何人かいて、少し安心できた。SNSにも「ラブホテルで裏切られた。お金取られた。マジ最悪」と呟いた。


 ピロリン


 その投稿に1件のメッセージが届いた。


「私は、オンラインカップルを募集している桜咲です。もし、良かったらお話しませんか?」


 オンラインカップル?聞いたことのない言葉だった。どういうことだろう。桜咲さんをフォローして、DMを送ってみた。


「初めまして!大輝です。オンラインカップルって何ですか?」


 送った1分後、返信が届いた。


「返事ありがとうございます!桜咲未来です。よろしくお願いします!オンラインカップルは、絶対に会わないことを条件に電話やメッセージのやり取りをするカップルのことです」


 会わない彼女か……。会ってみないと分からないところはあるけど、会ってみてもろくなことがない。それなら、会わずに色んな妄想をする方が楽しいかもしれない。


「俺で良かったらオンラインカップルになりませんか?」


「はい!よろしくお願いします!じゃあオンラインカップルのルールが3つあるので読んでおいてください」


①絶対に会わないこと。

②電話、メッセージどちらでもいつでもOK

③私は記憶障害で、毎日1つ何かしら忘れます

④オンラインカップルであることは誰にも言わない


 記憶障害……?何か1つ忘れる?まあ良いか。明日になれば何か分かるかもしれない。


「了解です!よろしくお願いします!」


 俺にとっての初めての彼女は、オンラインカップルの桜咲さんになった。俺の妄想ではきっと、黒髪のロングで小顔で、身長は俺より少し高くて、最高の美少女なんだろうなあ……。


 早速、彼女から電話がかかってきた。


「もしもしー」


 彼女の声はめちゃくちゃ高い可愛らしい声だった。声を聞けるだけで癒されそう……。


「もしもし、改めてよろしくね!」


「うん。私、1日1個何かしら記憶忘れるけど、大丈夫?もしかしたら君のことも忘れるかもしれないけど……」


 俺のことを忘れる……。忘れられたら、何度も繰り返して教え直したら良い話だよね。


「全然大丈夫だよ」


 それから1時間、どうでも良い会話で盛り上がった。たい焼きは尻尾から食べるか、頭から食べるかとか、こし餡派かつぶあん派かどうか……。


 彼女は、たい焼きを背中から食べるらしい。そんな食べ方聞いたことないよ笑。俺は、頭から食べるけど。たい焼きの味もチョコレート味が好きらしい。


 普通、たい焼きってあんこかクリームでしょ?彼女の変な所が可愛く思えてきた。もっと彼女のことを知りたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る