07.バステト――依頼
「
アンノウンが端的に告げる。
「猫、ですか?」
「私の目には、そちらの
「人間だよ」
バステトは笑って応じる。ずいぶん
「あだ名みたいなもの。
「はあ。
よく分かっていない雰囲気で、
現在、バステトは成人男性の姿になっている。爽やかな好青年っぽい
「それじゃあ、改めて依頼内容を教えてもらえる?
「はい。
過保護に育てられてきた
妻の死をきっかけに束縛が激しくなった当主。
無断で決定されていた
その裏に潜む
「んー。事情は一通り、分かってきたけど……」
バステトは微妙な表情を浮かべた。
「ほんとに引き受けちゃっていいのかなぁ? この依頼」
「気乗りしないのか?」
アンノウンが
「まぁね。家族を引き離す手伝いをするって、ボクはちょっとごめんだよ」
と返すバステト。
「その
家族の縁というものは案外、あっさり切れてしまうものだとバステトは知っていた。
少し距離を置くだけのつもりが、永遠の別れになることもある。
バステトには、それがとても寂しいことであるように感じられるのだ。
「お嬢様は、何度もお話しなさろうとしました。ですが、旦那様はもはや誰の言葉にも耳を貸そうとしないのです」
「もし貴方の
「そっかぁ……」
バステトは腕を組んで考え込んだ。
「
「バステトの視点には重要な価値がある、と
すぐに答えるアンノウン。
(そんなこと言われても困るよぉ……。まあ、フィデリスちゃんも得意じゃないだろうし、仕方ないのかなぁ)
内心で思いながらも、バステトは諦めて口を
「現実的にさ、アンノウンが
「それは……、難しいと思います。正直、お嬢様はその困難さをあまり正確に理解できていません」
「ただ、その……。これは私個人の希望的観測ですが、旦那様の胸の内から、お嬢様に対する愛情が消えてしまったわけではないと、私は信じているのです」
一瞬、バステトはその言葉がどういう文脈で繋がるのか、よく分からなかった。
「なるほど」
アンノウンが納得した様子で言う。
「つまり、貴方とご令嬢も一枚岩じゃない、と。ご令嬢は外の世界で泥にまみれて生きていく覚悟だが、貴方は最終的に、彼女を桜園家に戻すつもりだ」
曇りのない目で、
「はい……。怪盗アンノウンを巻き込むほどの
(ボクが指摘したことなんて、とっくに織り込み済みだったわけか)
バステトは彼女の思慮深さに感心した。
「
アンノウンが話を進めていく。
「はい。持ってきました」
写真に収められた
「なんか、
バステトが指摘する。
「顔のパーツ一つ一つはあんまり似てないけど、雰囲気が似てるっていうか、骨格が近いのかなぁ?」
「そうなのでしょうか」
小首を
「あまり自分では意識していませんでしたが……、言われてみれば、確かにそうかもしれません。小さい頃、私とお嬢様は本当の姉妹のように、一緒に遊んでいましたから」
「生育環境が同一で顔立ちが似る、というケースは、血の繋がりがない他人同士においても実際にある」
アンノウンは言う。
「取り立てて珍しいことではないと、
「それと、こちらは
かくして、依頼人の目的と、盗み出す対象に関する情報は揃ってきた。
「さて。話はこれでいいだろうか、依頼人。
「特にないと思いますが……、あの、どうやってお嬢様を盗み出すのですか? 怪盗アンノウンは毎回、予告状を出すと聞きます。旦那様を警戒させてしまったら、お嬢様を盗め出せなくなってしまうのではないでしょうか?」
「
アンノウンの力強い言葉に、
(本当に
バステトは思う。
「ありがとうございます……。どうか、お嬢様を盗み出してください」
その後、バステトとアンノウンは廃ビルを出て、フィデリスと合流した。
「……お疲れ様」
「フィデリスちゃんもお疲れー。
確認するバステト。
「……ううん。本当のことしか言ってなかった」
彼女はそう言ったが、表情はやや
「どうしたの、フィデリスちゃん? 難しい顔しちゃって」
「……バステトが感じたほど、あの人は真面目じゃない。ここに来るまでずっと、眠ってたみたい」
フィデリスは呟く。
「……頭の中が、綺麗すぎた」
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