04.僧正――勿忘草
商店街の隅に、小さな占いの館があった。
彼の占いはろくに当たらないと評判で、滅多に客が来ない。
だが、ごく
「それでね……。もう毎晩、悪夢を見るんです。夢の中の私は何か罪を犯していて、誰かに責められるの……。お前は魔女だ、火あぶりにして殺してしまうぞ、って……」
客の老婆はゆっくりと語る。
「失礼ですが、その夢の内容に心当たりは? 貴方自身は罪を犯していなくとも、例えば、理不尽に責められたような記憶はありますかな?」
「どうかしら……。そういえば、すごく小さな頃……、花瓶が割れて、お母さんに怒られたのをときどき思い出します。私じゃなくて弟がやったのに、言い出せなくて……。でも悪夢とは、さすがに関係ないですよね? もうずっと昔のことですもの」
「いえ、そうとも限りませんぞ。脳みそというのは不思議なもので、最近のことを思い出せなくなると、
「そうですか……。でもそれじゃあ、今さらどうしようもないんですか? 忘れられないものは、仕方ないわよね……」
「忘れたい、ですかな?」
「え?」
老婆は少し困惑した様子を見せる。
「ええ、まあ……。良い記憶でもないですし、できれば忘れてしまいたいですけど……、でもそんなこと、無理よねぇ……」
「――
老婆はきょとんとした表情を浮かべたが、すぐにまた喋り始める。
「えっと、どこまでお話ししたかしら……。ごめんなさいね、占い師さん。私ったら最近、すっかり忘れっぽくなっちゃって……」
「いえいえ。どうぞ、ご自分のペースで話してくだされば結構です。ところで、夢の内容に心当たりはありますかな? 例えば、誰かから理不尽に責められたようなご経験は?」
「どうかしら……。特に思い当たることはないですけど……」
異能『
他者の記憶を消すことができる能力である。
「ありませんか。では、そうですね。こちらを差し上げましょう」
と
「幸運のお守りです。寝室に置いておくだけで効果がありますからな。これで、今夜は悪夢を見ないでしょう。
自信満々に言われて、老婆はなんとなく心強く感じたようだった。
「でも、頂いてしまっていいんでしょうか……? 私、あまりお金は……」
「構いませんぞ。こちらは無料でお渡ししておるのです。まだ、こんなにある」
引き出しの中に入った数多くのネックレスを見せる
「ありがとうございます……。どうしてかしら? なんだか、肩の荷が下りたような気分です……。今夜は、安心して眠れる気がします」
老婆は丁寧に頭を下げてから、占いの館を出ていった。
入れ違いに、二人の男が入ってくる。
「おや。申し訳ないですが、今日はもう店じまいですぞ」
「
大柄な男――
「
もう一人の来客――
「
軽い調子で
「お迎えに来ましたよ。道中でうっかり事故にでも
「どいつもこいつも、
そう言ってから、
「どうしたんすか? 爺さん」
「せっかく迎えに来てくれたのに申し訳ないが……、さっきのお客さんに伝え忘れたことを思い出した。ちょっとばかし長くなるだろうから、先に行っといてくれんかな?」
「ふぅん……?」
それを受けて、
「分かった。気にするなよ、
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