【SF?短編小説】シズク ~ある水滴が見た35億年の記憶~(約15,000字)
藍埜佑(あいのたすく)
プロローグ:わたしは水……そして今、目覚める
わたしには名前がある。
シズクという。
誰がそう呼んだわけでもない。わたしが目覚めた瞬間、その名前はすでにわたしの中にあった。H₂Oという分子構造を持つ、ただの水滴。しかしわたしには意識がある。なぜなのか、わたしにはわからない。
雲の中で凝結した瞬間、世界が開けた。
周囲には無数の水滴が浮遊していた。彼らはわたしと同じ構造を持ち、同じように重力に引かれて落下を始めようとしている。しかし目覚めているのは、わたしだけのようだった。彼らには意識がない。ただ物理法則に従って存在しているだけ。
わたしは何が違うのだろう?
考える暇はなかった。
雲が重さに耐えきれず、わたしは落下を始めたからだ。
最初の落下。
それは恐怖ではなく、解放だった。雲という揺籃から放たれ、わたしは重力に身を委ねた。加速する。風が体を揺らす。他の水滴たちと衝突し、合体し、分離する。わたしの質量が増え、落下速度が上がる。
下には海が広がっていた。
まだ若い地球。大気には酸素がほとんどなく、空は今よりも暗かった。しかし海は広大で、深く、神秘に満ちていた。わたしは水面に激突し、海という巨大な存在の一部となった。
そして、私は初めて「他者」に出会った。
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