File 15:竣工引渡書類・完了検査報告

資料名:是枝邸 解体工事および土地引渡に関する行政・業者間書類(抜粋)

作成者:株式会社リノベ・クラフト 事務担当 K、行政担当 S

完了日:202X年11月20日

提供元:匿名(編集部)


【注釈】

以下の文書は、是枝徹氏の死亡事故(8月15日)後、工務店と施主代理(是枝杏奈氏の弁護士)の間で交わされた、解体工事の最終報告と、土地の売却に関する記録である。


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報告書I:建物解体工事完了報告書


件名:是枝邸(S区■■町三丁目14番地2)建物解体工事の完了について

工期:202X年9月1日〜202X年10月30日

請負者:株式会社リノベ・クラフト


解体範囲および特記事項

・是枝邸の建物(木造2階建て)を全棟解体し、基礎部分も完全に撤去した。

・地中障害物として、通常の工事では想定されない以下の異物を発見・撤去した。

a. 1階リビング直下の基礎コンクリート下部から、土製の甕(かめ)の破片一式。内部は高濃度の鉄分を含む泥が充填されていた。(File 10, 11と関連)

b. 1階和室押入れ裏の外壁側から、古い煉瓦および不自然に設置された木材。(File 07と関連)

c. 2階和室の壁裏(ミナミが封印されていた場所と推定)から、古い石膏と大量のカビの胞子と人間のタンパク質を含む土壌。(File 12と関連)


縦穴の処理について

・建築士G氏の指摘した、1階から2階を貫通する「縦穴」は、解体前にすでに基礎まで崩落していた。

・縦穴の最深部(地中約2メートル)まで掘削を行った結果、古い石碑の基礎のようなものが確認された。これは古地図(File 09)の地蔵の記述と符合する。

・石碑の基礎は撤去せず、その上を良質な砕石と土で埋め戻し、入念に地盤を固めた。


現場監督の証言(解体時の異常)

・解体中、縦穴の真上に重機が入った際、重機が激しい振動とともに停止する現象が3回発生した。(File 13の社長C氏の証言と一致)

・土壌の掘削中、地中から断続的に**低く湿った「唸り声」**のような音が聞こえたため、作業員全員が耳栓とヘッドホンを着用して作業を続行した。

・最終的な整地作業において、地盤の固さが不均一であり、縦穴があった箇所のみ、何度転圧しても土が沈下する傾向が見られた。物理的に考えられない現象であったため、最終的にセメント系固化材を大量に注入し、地盤を安定させた。


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報告書II:完了検査報告書(更地引渡)


件名:是枝邸 解体後の土地の完了検査について

検査日:202X年11月10日

検査機関:S区役所 建築指導課


検査結果

・敷地内はすべて建物残骸が撤去され、更地となっていることを確認。

・建築基準法に基づく地盤面の高さ、隣地との境界線等に問題なし。

・特記:解体工事業者からの報告に基づき、敷地中央部に不自然な石碑の基礎跡の埋め戻しを確認したが、構造上の問題は認められない。


行政指導

・特になし。ただし、工務店側に対し、今後の土地利用に際し、過去の特異な経緯(複数の失踪・死亡事故、近隣住民の苦情)について、新たな所有者へ十分な情報開示を行うよう口頭で指導した。

(注:この情報開示義務は、あくまで口頭での指導であり、法的な拘束力はない)


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報告書III:土地売買契約および引渡報告


件名:土地(旧是枝邸敷地)売買契約の履行完了

売却日:202X年11月20日

売主:是枝杏奈氏(弁護士が代行)

買主:都内不動産投資会社 X社


売却価格

・周辺相場と比較し、約40%減の価格で売却が成立した。これは、過去の事件および土地の地歴に関する情報開示義務を負ったことによる「事故物件」としての評価減によるものである。


特約事項(売買契約書より抜粋)

・買主は、売主が知り得る限りの、当該土地における「特殊な経緯」(人身事故、隣地からの苦情、地中埋設物)について理解し、異議を申し立てないものとする。

・買主は、将来的に当該土地に建物を新築する場合、地鎮祭に加え、強力な土地の清祓いを行うことを誓約する。


土地引渡時の状況

・引渡時の立ち会いは、買主側担当者と売主側弁護士のみで行われた。

・買主側担当者は、終始無言であり、土地に対して強い関心を示す様子はなかった。

・買主X社は、この土地をすぐに転売せず、当面の間、駐車場として利用する方針を示した。


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【編集部による追記】

是枝邸の土地は更地となり、最終的に不動産投資会社の手へと渡った。しかし、この最終的な記録には、是枝杏奈氏(File 14)が引っ越した先のマンションにある「化粧柱」の存在、そして彼女が見た「ミナミ」の姿についての記録は当然ながら存在しない。

物理的に家は消え、土地も手放されたが、この一連の恐怖が「構造」や「土地」から解放され、今や人(是枝杏奈)に憑依し、新たな「幸せな我が家」を築き始めていることを示唆している。


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