File 11:施主(夫)からの深夜の留守番電話
資料名:是枝杏奈氏の携帯電話に残された留守番電話メッセージ
発信者:是枝 徹氏(夫)
発信時刻:202X年8月15日 23:54:55
記録時間:40秒
提供元:是枝杏奈氏(編集部へ提供)
【注釈】
このメッセージは、File 10の監視カメラ映像記録が途切れる直前、是枝徹氏が「頭蓋骨のように見えるもの」を取り出して自身の顔に押しつけ、激しく痙攣し始めた瞬間に発信されている。音声には、現場の崩壊音、叫び声、そして正体不明のノイズが混入している。
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(音声記録開始)
(ノイズ:微かな水の滴る音、土を削るような音、そして低く響く唸り声)
(徹の声:)
「…………杏奈!……杏奈、聞いてくれ!俺だ、徹だ!早く、早く警察を呼べ!いや、やめろ、来るな!お前は絶対に来るな!」
(声は興奮と恐怖で完全に裏返っている。呼吸が荒い)
(ノイズ:子供の甲高い笑い声が短く、鋭く記録される。直後に「ゴンッ」という鈍い衝撃音)
(徹の声:)
「わかったんだ、わかったぞ!この家は、あの穴は……!あの甕は、水路の呪いを封じ込めるための蓋だったんだ!古い石碑の上に、生きたまま子供を……」
(ノイズ:木材が軋むような「ミシミシ」という高い音。風切り音)
(徹の声:)
「ミナミは、柱の子供だ!でも、甕の中にいるのはミナミじゃない!もっと、もっと古い、この土地そのものだ!泥水じゃなかった、あれは……あれは、誰かの血だ!」
(声の背後で、女性の低い呻き声が聞こえる。「 File 05、10」の記録と一致)
(ノイズ:携帯電話が床に叩きつけられるような「ガチャン」という音。音声が遠くなる)
(徹の声:)
「手を……手を掴まれた!助け……て……!ああ、俺も、俺も、柱に……」
(ノイズ:木材が縦に裂ける「バキッ」という巨大な破裂音。File 10のログ時刻23:55:10の音と完全に一致)
(音声記録終了:雑音と破裂音の中で、通話が強制的に切断される)
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【編集部による追記】
是枝徹氏が残したこの音声は、彼の死の直前の出来事、すなわち彼が甕から取り出したものが、単なる頭蓋骨ではなく、この土地にまつわる「呪いの核」であった可能性を示唆している。
「水路の呪い」「誰かの血」という発言は、File 09で判明したこの土地の地歴(水路跡、禁足地)と深く関連している。
「俺も、柱に……」という最期の言葉は、彼自身が、この家が求める新たな犠牲となってしまったことを示唆している。
この事件後、是枝杏奈氏は物件の所有権を放棄し、工務店は残された建物を完全に解体し、更地にした上で売却した。しかし、近隣住民によると、更地になった今でも、雨の日の深夜には、時折、土の中から何かが這い上がろうとするような、重く湿った「鼓動」が聞こえてくるという。
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