File 04:現場写真No.12「屋根裏の遺留品」

資料名:是枝邸リノベーション工事 現場写真および解析レポート

撮影者:現場監督代理 B(推定)

日時:202X年3月5日(火)

提供元:匿名(編集部)


【注釈】

このファイルは、工務店が施主への報告用に撮影したデジタル写真と、それに付随する現場監督代理Bのメモ、そして編集部が独自に依頼した画像解析レポートで構成されている。File 03にあった「屋根裏の遺留品」に関する詳細な記録である。


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写真番号:No.12-1

撮影箇所:2階和室天井裏

撮影日時:202X年3月5日 13:45


(写真説明)

屋根裏の断熱材がほとんどない空間。埃と煤で黒ずんだ梁の上に、真新しいビニール袋(スーパーの袋と思われる)に包まれた、古いランドセルが一つ横たわっている。ランドセルは泥だらけで、表面には乾燥した苔のようなものが付着している。


監督代理Bのメモ:

まさか屋根裏からランドセルが出てくるとは思わなかった。子供のサイズにしては小さすぎる。

袋に入れてあったのは、単に埃を避けるためか、それとも外から持ち込まれたものが濡れていたからか。ビニール袋自体は新しいから、最近の持ち込み?

施主の是枝さんには、単なる「残置物」として報告済み。中身は確認せず、処分を依頼したが、社に戻る途中で気になって開けてしまった。以下がその中身。


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写真番号:No.12-2

撮影箇所:ランドセルの中身

撮影日時:202X年3月5日 14:10


(写真説明)

ランドセルの中に入っていたもの。


小さな鉛筆削り(赤。刃の部分に錆)


ぬりえ(動物の絵。塗りかけで、動物の目が赤一色で塗りつぶされている)


B5サイズのカセットテープ(ケースなし。油性ペンで「ミナミ」と手書き)


古い千社札のような和紙(「是枝」という名字と、もう一つの文字が墨で書かれている。後者は判読不能だが、力強く「×」で消されている)


監督代理Bのメモ:

中身はごく普通のもの。千社札みたいなのがあったのが気になるが、施主と同じ「是枝」の文字が入ってる。前の住人か、その親族のものだろう。

ぬりえの目の塗りつぶし方がちょっと怖い。全部、赤いクレヨンでぐるぐる塗りつぶしてあった。

このカセットテープは、なんだか妙に存在感があった。古くてボロボロなのに、テープそのものが光を反射してるように見えた。


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資料番号:04-C

件名:カセットテープ「ミナミ」解析レポート

実施機関:匿名編集部提携 音声分析ラボ

解析日:202X年9月10日


【概要】

当該カセットテープは、一般的なノーマルポジション・60分タイプ。経年劣化が著しく、カビの発生も見られる。再生には修復処置を要した。


【再生結果】

全編にわたって、一定のリズムで録音された単調な「音」で占められている。


トラックA面(約30分):

金属を削るような、耳障りな甲高いノイズ音。しかし、分析の結果、これはノイズではなく、何かの楽器を繰り返し叩いている音(トライアングルを非常に早く連続して叩いた音と酷似)であることが判明。そのリズムの間に、か細い子供の歌声がわずかに聞こえるが、歌詞は不明瞭。

再生速度を落とすと、子供の声が「あそぼうよ」と何度も繰り返しているように聞こえるが、これはノイズによる錯覚の可能性が高い。


トラックB面(約30分):

ほぼ全域が「ザーッ」というホワイトノイズ。しかし、そのノイズの奥から、複数の大人と思われる低い声が、何かを数えているような音が確認された。

「一、二、三……」と、日本の数え方ではない、独特のアクセント。数える速度が極端に速くなったり遅くなったりを繰り返す。

録音の終了直前、突然ノイズが途切れ、約3秒間の無音の後に、誰かが床に硬いものを叩きつけるような「ドンッ」という衝撃音が記録されている。


【結論】

このテープは、音楽録音用ではなく、意図的に「音響記録」として作成されたものと見られる。

ノイズ音は、一種の「目印」あるいは「壁」として利用されており、その内側に隠された音声を保護する目的があった可能性がある。

(特筆すべき点:テープ全体から、微弱だが通常の磁気テープには存在しない「特異な残留磁気」を検出。これは解析機関でも前例がない)


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【編集部による追記】

現場監督代理Bがこのテープの中身を知っていたかは不明である。しかし、File 03の私的メモにある「あの『ミナミ』って名前、誰なんだろう」という記述は、このテープの手書き文字と完全に一致する。

このテープは、是枝邸という「器」に封印されていた、過去の記憶の一部である可能性が高い。そして、これは施主である是枝夫妻が入居する前に、壁が剥がされたことで解放されてしまった。


(File 05へ続く)

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