ブルースターは神様を知らない。

夜澄透

第1話

 あなたはまた人生をやり直せるとしたら、やり直すだろうか。決まっている運命に抗えることができるなら抗って戦うだろうか。

 私はもう諦めた。この世界をただの娯楽として見ることしかできていない。私をこの世界に放り込んだ神と私もおんなじになってしまった。その私を見て大きい口を開けて笑っているであろう神はこの世界に調味料をつけて味付けをして別のものに変えてしまった。

 何年後になるかわからないが、いつかこの壊れた世界を正して神を殺しに行く。それが私の夢だ。

 そして私は今回、1199回目は東山睦月という女性にお世話になるらしい。



 

「俺たちでさ、世界で一番幸せになろうよ。」2人で植えたブルースターの香りが暑苦しい夜に開けられた窓の隙間風で鼻を刺激している。そんな部屋に響いた西山優舞の声は東山睦月の耳の奥にまで届いた。「うん。だから優舞はいなくならないでね。」と隣に座る優舞の肩に手を置いた。「もし睦月の記憶がなくなっても俺は会いにいくよ。」優舞は記憶がなくなるよりももっと酷い事があっても助けに来ると思うし、二人で幸せになろうとすると思う。睦月にとってそれが付き合っている理由であった。「ありがと。」睦月の返事を聞いて颯爽と立ち上がり、上からでも同じ高さにいるみたいに睦月の目を見た。「俺買い物行ってくるわ。なんか欲しいものある?」「じゃあプランター買ってきて。」「わかった。」優舞が家を出ていくと同時にテレビをつけると衝撃のニュースが流れた。『内閣総理大臣が行方不明となっており、まだ捜査中とのことです。』「え、やばいじゃん。」と一人で盛り上がった睦月の声が変に部屋に響いて寂しくなった。

       


 この夜西山優舞は車に轢かれて記憶を失った。

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