プロローグ
二度目の人生。二度目の結婚──それも、同じ相手との。
そんな不可思議な状況では、何が起こっても不思議ではない。ルビィはそう思っていた。
けれど、夫の愛情表現が前世の時と比べて百倍増しだなんて、一体どうして想像できただろう。
「はい、あーんして」
目の前には、
「あの、えっと。自分で食べられます、アルセニオさま……」
膝の上に乗っているというだけでも落ち着かないのに、さすがに十六歳にもなって、幼子のように食べさせてもらうのは気恥ずかしい。
控えめに主張してみたものの、アルセニオは聞く耳を持たなかった。
「そんなに遠慮しないで。君が喜ぶと思って、君の故郷の料理を作らせたんだから」
にこやかに、けれど強引に。
一切引く気配のない彼の態度に、ルビィは観念して口を開く。
「うぅ……もう……っ。一回だけですよ」
──パクリ。
一口頬張ると、まろやかな魚の
「んんっ、
それを見て、アルセニオが
「ほら、もっと食べて」
続けざまにスプーンを差し出され、ルビィは小鳥の
「美味しい?」
「美味しいですけど! 一回だけって──!」
しかしアルセニオは、ルビィの
「こうしていると思い出すな。僕が風邪を引いた時、君がこうやってお
「それは、アルセニオさまが子どもの時の話ですよね!? 今とは状況が違いすぎます!」
「どうして? 子どもだとか大人だとかなんて関係ないだろう。だって僕は君の夫で、君は僕の妻なんだから」
ぎゅっと、ルビィの腹に回した腕に力を込めながら、アルセニオが言う。まるで聞き分けのない幼子に言い聞かせるように、ゆっくりと、けれどはっきりと。
「確かにかつて、僕は君よりうんと子どもだった。でも今は違う。君より年上の、君の夫だ。いくらでも、君を甘やかすことができる」
腰まである淡い金髪を指先ですくい上げたアルセニオが、髪の先にキスを落とす。そこには神経など通っていないはずなのに、なぜかぞくりと、
(なんだか……なんだか、思っていた展開と違うわ!)
大切にされ、甘やかされて。
新妻としてはこの上ない幸せな状況のはずなのに、ルビィは戸惑っていた。
なぜならアルセニオのもとに嫁ぐ際、彼女は覚悟していたからだ。冷遇され放置される、名ばかりの花嫁になることを。
それなのに──。
「大好きだよ。君のこの、朝霧に溶け込む光のような美しい色の髪も、
どうして、冷遇されるどころか熱烈に口説かれているのだろうか。
(き、きっとアルセニオさまは、罪悪感からわたしを大切にしているのね! 前世のわたしを死なせてしまった、罪悪感から……!)
そうだ、それなら納得がいく。
たとえその件に関して、アルセニオに一切の責任がなくとも。
彼はとても優しい子だったから、負い目を感じていても何もおかしくはない。
(ああ、あの時わたしが死んでしまわなければ、アルセニオさまに
話は十六年前──まだルビィがこの世に生まれる前、『ルビア』という名の少女として生きていた頃に遡る。
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