霊が見えない霊媒師と、未来の見える僕
かわい灯
第1話 霊感ゼロなのに霊媒師でお金を稼ぐ男、ギンボアイコウ
ギンボアイコウと出会ったのは、大学二年の夏
蝉が壊れたラジオみたいに鳴いて、街の空気がサウナにいるかのような息苦しく感じる季節だった。
僕は、未来の断片がふっと視えるという、とんでもなく扱いに困る体質を抱えていた。
「君、そのままだと三日後に事故るよ」
つい口にしてしまう。
僕が未来を言った瞬間に友達は引き、恋人は不機嫌になり、気味悪がられる。
だいたい未来が見えるなんて、まともに信じてもらえるわけがない。
僕自身だって信じたくないのに。
そんな僕が最後にすがったのは、駅前の雑居ビル三階にあった古びた看板
【霊媒師 ギンボアイコウの館】
看板の文字は手書きで雑。習字を学びたてでもこうはならないだろう。
横には色あせたポスター。
「的中率128%」
「成功しなかったら費用倍返し」
何もかも意味不明だ。
倍返しってなんだよ。
それでも、その日は誰かに話を聞いてもらわないと、胸の奥が破裂しそうだった。
階段を上がり、重いドアを開いた瞬間、濃い香の匂いが鼻をつく。
「なんだお前。予約は?」
奥の暗がりから聞こえたのは、いかつい声。
続いて姿を現したのが――ギンボアイコウだった。
黒い袈裟のような服をまとい、目だけ妙にギラついている。
腕には無駄に分厚い金の腕時計。
これが霊媒師?
いや、絶対違うだろ。
目つきは修羅場慣れしたチンピラみたいだ。
「未来が……見えるんです」
勇気を振り絞って言うと、ギンボは鼻で笑い、壁の料金表を指差した。
《相談料:一言 1万円》
「はい、まず座れ。金払え。話はそれからだ」
やっぱり帰ろう。
そう思ったが、脚が動かなかった。
たぶん暑さで弱っていたのと、どこかでもう限界だったんだ。
ギンボは僕の顔をじーっと見て、盛大にため息をついた。
「……今日は無料だ。お前、金の顔してねぇ」
「え?」
「ついでに言うと、お前、童貞の顔してる」
「……そんなことないです!」
「ウソつくなよ〜。その眉の角度がもう童貞だよ」
この男、絶対に友達になれない!
そう確信した。
――なのに、あの日を境に、僕の人生は静かに、けれど確実に変わっていった。
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