蒐集家Kの未整理ファイル:ケース202X-08「笑う隙間」

@tamacco

【序章:Kの遺産】

 そのハードディスクは、異様な熱を帯びていた。

 都内某所、築40年の古アパートの一室。湿気と古本の匂いが充満するこの部屋は、先月まで「K」という人物が借りていた場所だ。

 Kは、オカルト界隈では知る人ぞ知るフリーのルポライターであり、同時に病的な「怪異蒐集家」でもあった。彼は幽霊やUFOといったロマンのある話を嫌った。彼が好んだのは、人の悪意が煮凝ったような呪物や、生理的嫌悪を催す未解決事件の証拠品だけだった。


 「君にこれを託すよ。僕が戻らなかったら、世に出してくれ。……いや、やっぱり焼き捨てたほうがいいかもしれない」


 そんな矛盾した留守番電話を残し、KはS県の山中で消息を絶った。

 警察の捜索は打ち切られ、大家からの依頼で私が部屋の整理をすることになったのだ。

 そして私は、机の上に粘着テープで固定された、黒い外付けHDDを見つけた。表面には白い修正液で、乱暴にこう書かれている。


『閲覧注意:S団地/感染案件』


 私は、震える指でUSBケーブルを自分のノートPCに接続した。

 画面に無数のフォルダが表示される。その中の一つ、「01_須田拓海_初期記録」というフォルダをダブルクリックした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る