牛が来る
羽田恭
第1話
牛が来る。
こんな日でさえ、牛が来る。
いつも通りの顔、牛の顔。
好奇に満ちた顔で。
牛が死んだのだ。
クロストリジウムという細菌に感染し、あれよあれよとたった三時間。
何もできずに死んでいった。
消えていく。
何もできずに、消えていった。
今朝は普通に元気だった子牛が。
死んで行ってしまった。
堆肥を集めた場所に、子牛を連れていく。
動きを止めた子牛は、ひどく重く、重機に積んで持っていく。
ブルーシートをかけて、捲れないように重りを載せて。
カッと見開いた目はもう何も見る事はなく、横たわっていく。
業者を呼んだ。早く来てくれ。
カラスやキツネ、アライグマに荒らされる前に。
今朝元気な子は、永遠に眠る。
合掌
馬頭観音へ。家畜の守り神である、馬頭観音へ。祈る。
合掌。
牛の顔。
そんな亡骸をまたいで。
牛の顔。牛が来た。
牛が来る
牛が来る。
空気を読まずに、牛が来る。
何があれども、牛が来る!
牛が来る!!
無邪気顔で頭突きして。
足を踏みつけ、捕まえようにも逃げ去る。
スマホ鳴り、子牛産まれると連絡だ。
出産介助でてんてこまい。
「どうだ。牛だぞ」と子牛産まれ。
子牛をタオルドライで乾かしつつ。
大急ぎで餌の時間。
「お前何?」
そう言いたげな牛が集まって、わちゃわちゃと。
わらわらわらと、わちゃわちゃと。
「ミルクくれ」
「牧草足りん」
「餌まだか」
「お前誰だよ」
うしうしうしうしうしうしうしうし、とやって来る。
少し待ってよ。
牛が来る。牛が来る。牛が来る。牛が来る。
でも牛が来る。
やっぱり、牛が来る。
牛の世話、いつしか和む、牛の命よ。
気が付けば、「反芻するぞ」と牛が来て。
牛が来る。
こんな日でさえ、牛が来る。
いつも通りの顔、牛の顔。
好奇に満ちた顔で。
牛が来る。牛が来る。牛が来る。牛が来る。
でも牛が来る。
やっぱり、牛が来る。
牛の世話、いつしか和む、牛の命よ。
気が付けば、「反芻するぞ」と牛が来て。
どつきどつかれ、いつしか平穏を得ている。
頼むから、頭突きするな。
頼むから、足を踏むな。
頼むから、股間を狙うな。
頼むから、元気でいろよ。
それでいいから。
死んだ分まで生きてくれ。
牛が来る 羽田恭 @dabunkan
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