第2羽
朝。鳩。
玄関から出る瞬間は無防備だ。『内』で守られていた自分を、『外』にさらけ出しているのだ。
ドアを開けるまで、その先に何が待ち伏せているかはわからない。外に出る瞬間を、外からずっと見られているかもしれない。
ドアを開いて、外に足を踏み出し、身体ごと振り向き、ドアを締めて、鍵をかける──この一連の動作の間に襲われたとしても、即座に反応できないかもしれない。鍵を閉めるときなんて、背中を外に見せている。危険だ。
──何か、身を守れるものはないだろうか。
玄関であたりを見回す。傘が目についた。これなら、急な攻撃を防げるかもしれない。見られることもない。
靴を履いたら、傘を少しだけ開く。ドアを少しだけ開いて、隙間から傘を出して、ドアを開けると同時に傘を広げる。これで守れる。攻撃から。視線から。
玄関を開けるときは、傘がないと無理になった。
一人暮らしで良かった。実家だったら、親に何か言われていたかもしれない。鳩がいるというのに。
建物の中は安心だ。家、大学、バイト先の本屋。壁と屋根が守ってくれる。電車も車内は安全だけど、駅前やホームは危険。危険な場所ばかり。
◇
大学に向かう途中、信号の柱にシールが貼ってあった。白い縦長の長方形で、手のひらに収まるくらいのサイズだ。
こんなふうに書かれていた。
【鳩鳩鳩鳩!鳩が大人気!】
(細い線で描かれた鳥の絵)
鳩と書かれているから絵も鳩なのだろうけれど、簡略化されすぎていて鳥ということしかわからない。目も描かれていない。横向きで、どこかのSNSのアイコンにもなってそうな鳥の絵だ。
問題はその上の文字だ。何が大人気?
見たところ、柱にぴったり貼り付けてあって剥がすのは大変そうだ。何より、触りたくない。でもこのままにしておくのも心が落ち着かない。
信号が青に変わった。行かないとゼミに遅れる。
後ろ髪を引かれれつつ、駆け足で横断歩道を渡る。背中越しにバサバサと音が聞こえた気がした。
次の日。
柱を見ると、鳥の絵がぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。
地面には羽根がひとつ落ちていた。
鳩鳩鳩鳩 花衣 龍 @hanairyuu
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