第16話 S級剣士がクランを脱退して「24時間おそばで仕えます(奴隷として)」と重い誓いを立ててきた

《アリシアSide》


 ……ゴローさんの作った、すっごく美味しいラーメンを食べた。ほんとに美味しかった……。


 やっぱり、料理上手な旦那様っていいな……。

 って! 何を考えてるのアタシっ。旦那様ってっ!


 ああもうっ、つるぎさんの影響を受けてるじゃあないのよっ!


「はぅ……♡ 旦那様……♡ 素晴らしく美味しかったぞ……♡」


 キャンプ地にて。

 剣鬼つるぎさんは、うっとりとした表情で、ゴローさんにくっついてるっ!


《剣鬼が完全に骨抜きになってて草》

《ちくしょおぉおお! ソロキャンおじなんでモテるんやぁ……!》


《そら強くて料理上手やからやろ、おっさんだけど》

《おっさんはどうやったって10代と付き合えないもんなのに!》

《くそぉおお! ワイもソロキャンおじになりてええ!》


《お、そのためにはまずS級をハンマーで軽く倒し、ソロで魔物うろつく恐ろしい迷宮を一人で踏破できるようにならんとな》

《おまえできるかそれ?》


 ……ソロキャンおじ、そして剣鬼つるぎ。二人の超有名人のおかげで、同接数はとんでもないことになっている……。

 一億五千万っていう、なんかもう……なんかもうなんだこれって数字になってるっ!


 登録者数もガンガンのびていくし、コメント数も増えまくり……。

 もう、最高……って言いたいとこなのに……。


「あ、あのっ。つるぎさんっ。ゴローさん嫌がってるじゃあないですかっ。離れてくださいっ!」


 アタシはつるぎさんに近付いて、彼女の肩をつかむと、べりっと彼から引き剥がす。


「……ア゛?」

「ひっ……!」


 こ、こわ……。さっきまで、乙女モード全開だったのに……。


《ぶち切れで草》

《おじ(旦那)との交流を邪魔されてぶち切れてんやろ》

《ああ……ワイ悲しいで……推し探索者がおじのもんになって……》


《これ炎上するんやない?》

《まあ剣鬼って配信もSNSもやってへんから、そういうんはないやろ》


「なんだ貴様。邪魔をするな」

「あ……う……」


 だ、駄目だ怖いよぉ……。S級だもん、相手は……。怖くて当然だよ……。

 で、でも……でもっ!


 アタシはゴローさんを見やる。そうだ……あ、アタシは……ゴローさんの相棒なんだっ。

 ゴローさん、ものすごい嫌そうな顔をしている。

 あの人が望むのは静かなソロキャン。あの人はそれを邪魔してる……! ……アタシも人のこと言えた義理じゃあないけどもっ。


「あ、あの……ゴローさん嫌がってます!」

「何……? 嫌がってるだと……?」

「はいっ! あなたはゴローさんの望む、静かなソロキャンを邪魔してます! やめてください!」


《アリシアたん……》

《かっこいいシーンなんやろうけど、完全にブーメランなんよなぁ……》


《アリシアたんもまあまあおじの邪魔してるで》

《二人そろって仲良くソロキャンおじのソロキャンを邪魔しててウケる》


 ふんっ、とつるぎさんが鼻を鳴らす。


「旦那様が邪魔だと言ったなら、検討しよう。しかし……別にそんなこと一言も言っていない」

「邪魔なんで帰ってくれないか?」


《そっこーで言われてて草》

《たしかにソロキャンの邪魔しかしてないもんな剣鬼w》


 つるぎさんは「なん……なんだと……」と本気でびっくりしてる様子だった。


「わ、私が何かあなたの邪魔をしただろうか……?」


《こいつ鏡見たことないのかよw》

《ソロキャンおじの静かなキャンプ時間を奪ってるの、だーれだーれ?》


《剣鬼ってこんなポンコツ女やったんやな》

《何かに突出したやつっていうのは、たいてい、心がいびつだったりするからな》


《お、ワイをディスってんのか?》

《ソロキャンおじのことだよw》


 泣きそうなつるぎさんを見て、ゴローさんはため息をつく。


「帰ってくれ」

「うう~……。そうしたいのは山々だが……私は妖精の王オベロンの探索者として、貴方を舞子のもとへ連れてかないといけないから~……」


 はぁあああ……とゴローさんは深々とため息をつく。


「……わかった。ついていく」

「「妖精の王オベロンに入るってこと!?」」


「違う……。舞子にきちんと話をするだけだ。クランに入るつもりはないって」


「だ、だよねっ。ゴローさんは、あ、アタシとソロキャン配信するんだもんねー!」


《ソロキャン配信って二人でできるもんなんか……?》

《まあそういう漫画見たことあるけどもさ》


《アリシアたんもだいぶ剣鬼と同じ側だよね笑》

《ソロキャンおじ……不憫……ソロキャン邪魔されて……》


 た、たしかに……。ゴローさんの邪魔しないって約束した。

 うう~……。アタシのバカバカ……。どうしてアタシ、ゴローさんのことになると、暴走気味になっちゃうんだよぅ。


「片付けて、地上へ行くぞ」


 ゴローさんがリュックの蓋を開ける。

 すると、テントその他、キャンプ道具が、一瞬で収納された。


「な、なんだこれは!? アイテムボックス……ではないな。それ以上の……い、一体なんだっ?」


《S級が驚いてるのなんでなん? アイテムボックスなんて見たことあるやろ?》

《忘れてるようだけど、アイテムボックス自体超がいくつも付くくらいレアなスキル&遺物アーティファクトなんやで》


《しかもおじのリュックはWikiにも載ってないレベルの、超絶レアアイテムや》

《はえー、まじか。S級が驚くのも無理ないんやなぁ》


《つか平然とS級が持ってないものもってるおじってまじ何者?》

《迷宮でソロキャンするっていう、頭のおかしなことを平然とやってのける異常者だ。面構えが違う》


 ゴローさんは荷物を片付けて、迷宮主ボスモンスターの部屋へと向かおうとする。


「あ、あなた……そっちは迷宮主ボスモンスターの部屋だぞ……? まさか挑むつもりじゃあないよな……?」


「そのつもりだが」


「ば、馬鹿なっ。迷宮主ボスモンスター攻略は、S級でも手間取るんだぞ? 私だって、ボス討伐の際は、クランメンバーと一緒に挑むのにっ!」


《そういうもんなん?》

《せやで。たとえS級だろうと、ボスの強さは入るまで計り切れへん。相手が予想外の強さ、即死などのカードを持ってる可能性だってある。ソロだとそういった不測の事態に対応できない》


《おじはソロで挑んでますが?》

《それはソロキャンおじが頭オカシイだけや。よい子はマネしちゃあかんで》

《誰もまねしないわw》


 うん……やっぱりそういう認識だよね……。


「ゴローさんが居れば大丈夫ですよ、つるぎさん。それに、今回は探索者が三人もいますし」

「……まあ、三人居れば問題ないか」


 どうやら、つるぎさんはまだ完全に理解してないようだ。

 ゴローさんの強さの天井を。


 ふっふっふ……。


「……なんだ、小娘。その腹の立つ顔は」

「べっつに~。ゴローさんのことを理解してるのは、アタシだけだなぁって再認識しただけでーす」


「ふん! 勝手に女房気取りか。実に滑稽だな」


《この二人、まじお前らが言うな案件過ぎて笑うw》

《ソロキャンおじの周りって変な女しかおらへんな》


《見た目が麗しいからギリ許されてるけど、やってること完全に迷惑な人で笑う》

《ツラが良くて良かったなw》


《おじ……強く生きてくれ……》


 ゴローさんは迷宮主ボスモンスターの部屋のドアを、開けるのだった。



《吾郎Side》



 ……もうさっさとボスを倒して、外に出て、舞子に言おう。クランに入るつもりはないとな。


 俺たちが入ったのは、迷宮主ボスモンスターの部屋だ。

 天井のない、だだっ広い部屋。


 部屋の奥に、巨大な影があった。

 あれがこの部屋のボスかー。


「さくっと倒すか」

「だ、旦那様……さ、下がるんだ……今すぐ……」

「どうした?」


 かたかた……と剣鬼、そしてアリシアすら、震えていた。

 その視線の先には、巨大なモンスターがいる。


 体は獅子、コウモリのような翼をはやし、尻からは蛇。


「ま、翼獅子マンティコアだ……。そんな……こんな化け物が、ボスとして出現するなんて……」

「み、見たことあるんですか……つるぎさん……?」


「あ、ああ……。別の場所で。前に、妖精の王オベロンで、討伐しにいったことがある。精鋭が……あっけなく散った……。わ、私も……あわや、し、死ぬとこだった……」


 ……ふぅん。


「じゃ、倒そう」

「ま、待て! わ、私が……時間を稼ぐ! だからその間に……どうにかして外に救援を呼ぶのだ! 小娘はたしかDDダンジョン・ドローンで配信中なのだろう!? ならリスナーに呼びかけるのだ!」


 ……どうやら、このメンツじゃ力不足だと、つるぎは思ってる様子。

 そして、彼女は自分がおとりとなって時間を稼ごうとしてるのか。


 頭のオカシイバトルジャンキーかと思ったが、ちゃんとS級やってんだな。


「ガァオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」


 翼獅子マンティコアが吠える。空気が震え……それはつむじ風となり、俺たちめがけて襲いかかってくる。


「出し惜しみはせん! 【斬撃拡張】! プラス霧ヶ峰きりがみね刀操術とうそうじゅつ! 【百閃剣】!」


 つるぎが居合抜きからの、連続斬撃を放つ。地面を削りながらやってくる、つむじ風と……。

 つるぎの放った斬撃が、ぶつかり合う。


 ガキィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイン!


「な!?」

「どうしたんですか、つるぎさんっ?」


「あ、ありえん……わ、私の斬撃が、翼獅子マンティコアの攻撃を相殺した!? 以前は、全く歯が立たなかったのに!?」


「それは、ゴローさんのおかげです! ゴローさんのご飯は、パワーアップさせるんです!」


「な、なんだとー!?」


 ……どうでもいいが、戦いの最中にべらべらしゃべってていいんだろうか。


「おいつるぎ。後ろ」

「なっ!?」


 翼獅子マンティコアが接近していた。まあ避けられない速度じゃあない……。

 つるぎもすぐに対処……って、いや、違う。

 彼女は……目で、動きを追えていない。

 どういうことだ……?


 そこまで、翼獅子マンティコアは速いとは思わない。


「う、ぐ、ぉおおおおおおおおおお!」


 つるぎが居合抜きを、放つ。それは翼獅子マンティコアの攻撃が、自分に当たる寸前のタイミングだった。

 バキィイイイイイイイイイイイイイン!


 ……彼女の刀が、完全に……粉々になった。

 俺がハンマーで折って、半分しか残っていなかった刀身、そして……握り部分までもが。


「きゃぁあああああああああ!」


 吹っ飛ばされるつるぎを、翼獅子マンティコアが追い打ち。

 びょおおお……! と風が遅れて噴く。


 なるほど、風を操っていたのか、こいつ。

 風を吹かせて高速移動、爪をふるった際に鎌鼬を作り、それで刀を粉々にしたわけか。


 生身で受けたらバラバラになってしまうだろう。

 つるぎは……目を閉じる。いかんな。


「おい」


 俺はペグ打ちハンマーを持って、つるぎの前に立つ。

 そして……ハンマーを思いっきり振り抜く。


「女泣かせてんじゃあねえよ」


 ドゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 ……静寂が、訪れる。俺の放った一撃は、翼獅子マンティコアの顔面にぶつかった。

 そして、奴は吹き飛んでいって、迷宮の壁に激突。衝撃で、体は粉々になった。


「…………」

「大丈夫か?」


 腰を抜かしてるつるぎに、俺は手を伸ばす。まあキャンプの邪魔者であっても、その命が散りかけてるのに、助けないなんてことはできない。


 俺はソロキャンパーであって、悪人じゃあないからな。


「……はい、吾郎様♡」


「そっか……吾郎、様……?」


 はぁ……はぁ……と荒い呼吸を繰り返す、つるぎ。

 彼女は俺の前で……お座りした。


 犬が、そうするように。


「吾郎様……♡ 私……決めました……♡ 吾郎様の……メス奴隷になりますぅ……♡」


「…………は?」


 ど、奴隷!? 意味わっかんないんだけど!? なんでそうなるのっ!?


「貴方様を、旦那様、だなんて呼んでしまい、申し訳ありません。貴方様は私より遙か格上……♡ 圧倒的強さを持つ貴方様に、奴隷として尽くしたい……♡ メスとして……♡」


 ……あ、あああ……。

 ああ……なんで……こうなるんだ……。


「ど、奴隷!? 意味わっかんないんだけど!? なんでそうなるのっ!?」


 アリシアも困惑してる様子だった。そらそうだよな……。


「自分より遙かに強い男に出会ったら、尽くしたくなるのが武道を極めし女のサガだ。わかるだろう?」


「一ミリも理解できないんだけどっ。だいたい、奴隷って何するのよっ!」


「吾郎様のもとについて、吾郎様のために尽くし、吾郎様に身も心も捧げる……♡」


「! それって……じゃあ、ゴローさんの命令が何よりも優先されるってこと? 舞子ってやつより」


「当然だ。吾郎様が望むのであれば、舞子へ報告はしない。無理矢理、妖精の王オベロンに勧誘もしない」


 ! それは助かる……。

 正直、舞子とは会社以外で顔を合わせたくないのだ……。


「じゃあそうしてくれ」

「はい、吾郎様♡ それで……今後のことですが」


「今後……?」


 なぜだろうか、とても、嫌な予感がした……。


「私、妖精の王オベロンを辞めます」

「……は? クランを抜けるのか?」


「はいっ。クランを脱退し、これからは吾郎様のメス奴隷として、24時間、おそばに仕えさせていただきます!」




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