第10話 S級魔物の焼き鳥(全種盛り)を完食。あと同行許可

《アリシアSide》


 ……ゴローさんの作ってくれたレバー串のおかげで、石化が解除できた。

 死なずに済んだことで……ほっと力が抜ける。


 ぐぅううう……。


「あう……」


「……まだ腐るほどある。食うか?」


「はいっ!」


 ああ……ゴローさん……優しいな……。ほんと、優しくて、いい人……。素敵だなぁ……。


「……顔が赤いぞ?」


「え!? いやその……す、炭火のせいじゃあないですかねっ!」


 か、顔が赤かったらしい……。や、やだ……なんでだろう。なんでだろうねっ!


「……そうか。串はいろいろあるぞ。砂肝、ぼんじり、ハツ。どれがいい?」


 いつの間にか、トレー(多分リュックから取り出したんだろう)の上には、大量の串が並べられていた。

 レバーであれだけ美味しかったのだ。

 その他の部位も……きっと……。


 じゅる……。


「ぜ、全部っ!」


 空腹感と取れ高。それらを満たすため、アタシは……全部食べてみることにしたっ。

 だ、だって美味しそうだしっ! 二重の意味で!

 ……け、決して、一口で終わりにしたら、ゴローさんともうお別れになっちゃうかも、とか……思ったわけじゃあない……よ。


「……まずは、ハツ」


《ハツってなんや?》

《心臓やろ》


 コンタクト型コンパクトモニター、通称『CC』に、リスナーたちのコメントが流れている。

 あ、そ、そうだ!


「あ、あのゴローさん……実は今配信中で……」


「……わかってる。DDダンジョン・ドローンは入った瞬間起動するからな。なんかもう……お前を助けたときに、覚悟はしてたよ……」


「ご、ごめんなさい……」


 ゴローさんは粛々と串を焼いて、アタシの前に出す。

 ハツ串。食べたことないや。


 ぱくっ、とアタシは口の中に……入れる。おおっ! こ、これは……!


「さっきより歯ごたえが……ありますね!」


「……心臓だからな。全身に血を回すポンプだ。だが固すぎないだろ?」


「はいっ!」


 レバー以上に歯ごたえがある。

 けど、不快になるほどの堅さじゃあないっ!


「ん~♡ ぷりぷりっとした弾力が最高!」


《うまそうや……》

《ハツなんてコンビニじゃうってないしなぁ~》

《うらやまぁ~!》

《って、あれ? ワイの見間違いかな。アリシアたんちょっと光ったような》


《はぁ~? 光るってなんだよ》

《わからん……見間違いかもしれん》


 ゴローさんが、次の串を出してくれる。


「……次は砂肝だ」


《砂肝? 食ったことない。どこぞ?》

《鶏にある消化器官、砂嚢のことだ。あいつら歯がないやろ? 食ったものをそこにいれて、押しつぶすんや》


《ははん、さてはおまえ焼き鳥博士やな?》


 アタシは砂肝を……パクッ。


「ん~! さっきとまた違った食感! コリコリってしてるっ。あっさりしててこれもまた美味しいっ!」


「……砂肝には塩があうが……どうする?」


「お願いします!」


 ゴローさんはリュックから何かを取り出す。

 ……なんか、赤い鉱石? みたいなものを取り出した。


《ふぁーーーーーーーーーーー!?》

《なんや? 何驚いてるん?》


《ひ、緋緋色金ひひいろかねやぁ……!?》

《なんて読むん?》

《ヒヒイロカネ》


《それなん?》

《太陽のように輝く赤い鉱石や! 裏でめっっっちゃ高く売られてるで! 億はくだらんとか!》

《そ?! ま!?》


《億w やばw》

《つーか、ソロキャンおじ、鉱石を普通にごりごりけずってるんやが……》

《やwめwやw》


 ……えっと。


「ゴローさん……これって、金属なの?」


「……岩塩だ」


「は?」


《岩塩w》

《ちげーよ億はする緋緋色金っていうめちゃレア鉱石だよ!》

《なにをどう見間違えたら岩塩にみえるんや……》


《いやまあ、たしかに赤い鉱石だけどさ……》


 えーっとえーっと……どうしよう……。

 もしかしてギャグで言ってる……のかな。


「……食わないのか?」


「あ、いえ! いただきます!」


 ……金属って食べられるのかな。わからないけど……作ってもらっておいて、残すのはよくない。

 どれ一口……ぱくっ。


「ん~~~~~~~~!? なにこれ……やっばぁ……! コリコリの砂肝の食感に、しょっぱさが加わって、さらに美味しいよ!」


《しょっぱさが加わってるて笑》

《塩と同じ効果があるってことなんやろか》

《そんなの聞いたことあらへんわ……》

《つか、緋緋色金もったいなさすぎだろ。このおっさんさっきからごりっごり削ってるけど?!》


《つかさ、まえからおもってたんやが、なんでおっさんダンジョンの物を、こんな風に無駄遣いするん? 普通に売れば良くない?》

《アホか。ダンジョンの外にダンジョンの物を持ち出せないんだよ》


《? でも取引されてるって……》

《裏で、な。いちおう抜け道があるんだよ。ダンジョンの品を外に持ってくルートがな。でもそれは闇取引……違法だ。おっさんはそれわかってんだろ。だから、売らずに使ってるんだよ》


《そこまで深い理由やろうか……》

《単に緋緋色金の価値を解ってないだけに、花京院の魂をかけよう》

 

 アタシはそんな風に、次々と、コカトリス焼き鳥を食べていく。


「ん~♡ 皮おいひ~♡ 表面カリカリ、なかとろっとろ♡」


「ぼんじりって初めて食べたけど、噛んだ瞬間に脂の爆弾がはじけて美味しいー!」


「王道のもも肉もおいしい! 噛むごとに肉汁があふれて最高~!」


 ……そんな風に、アタシは焼き鳥を堪能しまくった。


《ええなぁ~アリシアたん……うらやま……》

《魔物食ってゲテモノ食いと同じ類いだとおもって避けてたけど……これはうまそうやな……》

《いや、よい子はマネしちゃだめやで? おっさんは特殊な、魔物の毒を取り除く調理法ができるから、食えてるだけやで》

《つまりソロキャンおじにしか、魔物ご飯が食べれないわけか》

《くぅ~! ワイも迷宮めし食べたい~!》


 ……増えていく、コメント数。そして、リスナーたち。

 当然のように同接数が、指数関数的に延びていく……!


 なんてこと……。

 美味しいものを食べているだけで、こんなに『美味しい(利益のある)』思いができるなんて……!


 これも全部、ゴローさんの、ソロキャンおじの力だ。

 すごい……ゴローさんって……ほんとに……すごいわ!


《つかアリシアたんなんか体めちゃ光ってない……?》

《ほんまや……気付いてへんのかな……?》



《吾郎Side》



 ……ダンジョン配信者、アリシアがまたピンチになったので、しょうがなく助けてやった。

 ……しかしこの子……ほんと良く食うな。


『おいひ~♡』『おいしー!』『しゅごーい♡ おいしすぎるぅー!』とまあ、俺の作ったソロキャンご飯を次々と食べていった。


 ……まあ、悪い気はしない。やっぱり作った物に対して、感想やリアクションがつくと、うれしいもんだ。

 賛辞なら言うまでもない。


 ……だが。

 俺にとっては飯を褒めて貰うことよりも、一人静かに、ソロキャンを楽しむほうが、いい。


 だから……ちゃんとしておかないといけない。


「アリシア。真面目な話をしたい」


「……アタシも、です」


 ……口に焼き鳥のタレをつけながら、そんなことを言われてもな……。

 俺はリュックからウェットティッシュを取り出して、アリシアに渡す。


 彼女は一瞬首をかしげ、何かに気付いたような顔になり、いそいそとティッシュで口周りを拭う……。


「しゅみましぇん……」


 噛んだ。めっちゃ噛んでた。そうとう恥ずかしかったのだろう。まあいい。


「……改めて確認なんだが……おまえ、ここには俺を追いかけてきたってことでいいんだな?」


「……はい。ぜひ、ゴローさんと、配信したくて」


 ……配信。今、世の中ではダンジョンで配信する、【ダンジョン配信】なるものが流行ってる。

 理由は、二つ。


 たくさんの人に見られることで、承認欲求が得られること。

 そして……配信による収益を得られること。


 現代ダンジョンにおいて、魔物の死骸、拾ったアイテム(遺物アーティファクト)は、金にならない。

 そもそもダンジョン外に持ち出せない。売ろうと思うと闇ルートでの販売となる。お偉いさんに見つかればしょっ引かれるうえ、探索者許可証を失う。


 唯一、魔力結晶だけを持ち出せるのだが、役人に取られるうえ、そこまで高く買ってくれないのだ。

 そこで……配信が台頭してきた。


 配信ではスーパーチャットや、配信を動画化して、その収益を得るという方法がある。

 それは別に、政府も制限していない。


 政府の見解としては、ダンジョンでの動きを配信することで、初心者探索者の講習を兼ねるから、一石二鳥。だから許す……ってことらしい。


 ……話を戻して。


「ダンジョン配信者ってのが、今いるのは知ってる。別に嫌悪するわけでもない」


「なら一緒にやりましょうよ! ダンジョン配信!」


「だが断る」


「ど……どうして?」


 どうして?

 散々言ってるのに、解らないのか……この子は……。


「俺は、ソロキャンをするために、ダンジョン深部へと潜ってるんだよ」


 この俺、上高地かみこうち 吾郎ごろうは、別に金に困って探索者をやってるわけじゃあないのだ。

 一人静かな場所で、静かに過ごす……。このためだけに、探索者として潜ってる。


「あ、もしかして……ゴローさんの探索者ランクがFなのって……役所に討伐報告してないからですか?」


「そうだ」


「やっぱり……! 道理でオカシイと思ったんだ……」


 どうやら、探索者は、魔物を倒すと、その事実が体に情報として刻まれるらしい。

 役所へ行って、手のひらからその情報を抜くことで、その探索者が「いつ、どこで、どんな魔物を倒したのか」政府に報告される。


 それに応じて、探索者ランクが決められる……のだが。


「別に報告してランクを上げても、なんも意味もないだろ」


 ネット小説だと、冒険者ギルドに報告すれば、討伐に応じて金がもらえるといった描写が見られた。

 でも、現代ダンジョンでは、そういうのはない。

 

 なぜなら魔物は、ダンジョンにしかでないからだ。

 ダンジョンの外に魔物が出ない以上、政府は討伐依頼なんて出さない。ゆえに、魔物を倒しても政府は金をくれないのだ。


 ただ、奴らは探索者をカテゴリー分けして管理したいらしい。

 だから、ランク制度なんてものを作っている。


「探索者ランクなんて自己満もいいとこだろ」


「……ゴローさんって、ほんと人間?」


「失礼な。ちゃんと人間だよ」


「S級だよ? 凄いって周りからちょーちやほやされるんだよ? されたくない?」


「全然。俺は一人が良い」


「……そっか。ゴローさんって、全然違うんだね、アタシと」


「当たり前だろ」


 誰一人として、同じ人間なんていないのだ。


「……話を聞く限りだと、アリシアは承認欲求のためにやってるんだな」


「うん……。アタシ、たくさんの人に見てもらいたい。ちやほやされたい」


「そのせいで命を落としても?」


「うん。だって、それがアタシだから」


 ……クレイジーだ、と断じることは容易い。

 だがまあ、そういう奴は、たしかにいるんだ。

 S級の連中がそうだろうと、俺は思ってる。

 ネット小説に出てくる冒険者ランクと違い、探索者ランクなんて、形だけのものだ。

 でもそれを欲して、目の色を変えて、ランクを上げようともがいてる連中もいる。


「……おまえ、今後も俺につきまとうつもりか?」


「うん。着いてく。ゴローさんが駄目って言っても」


「……迷惑以外の何者でもないんだけどな」


「わかってる。でも、アタシは……ゴローさんの、ソロキャンおじと一緒に、配信したい」


 ……断っても、こいつはついて行くといった。

 置いてっても、今回みたいに、着いてくる。で、こいつは弱いから今回みたいに、魔物に襲われてピンチになるだろう。


 ……その度に、救助に向かうほうが……面倒だし、ストレスがたまる。

 目を離すとこいつはトラブルに巻き込まれてしまう。それはまあ、自業自得ではあるんだが……。


 でも、俺という存在がいなかったら、トラブルには巻き込まれなかったとなる。

 ……心から、ソロキャンを楽しめなくなる。

 勝手にうろちょろされて死なれる方が迷惑だ。だったら、俺の目の届く範囲に置いておく方が、まだまし。


「はぁ……わかった」


「え?」


「同行を許可する」


「ほ、ほ、ほんとっ!? ほんとにっ?!」

 

 アリシアは目に涙をためて「やったぁーーーーーーーーーーーー!」と叫ぶ。

 ああ……五月蠅い……。


「ただし条件が……」


「ありがとうっ! ゴローさんっ!」


「条件がある。ちゃんと聞け」


「うん!」


 俺は、同行に際して、次のルールをあげる。


1.「俺の静かなキャンプを邪魔しない」


2.「自分の身は基本自分で守れ。無理なら逃げろ」


3.「1,2を守れず俺が『帰れ』といったら素直に帰ること」


「わかりました! 守ります! ……多分!」


 ……多分じゃあ困るんだが、まあいい。

 こうして、俺はアリシア・洗馬せばとともに、ダンジョン配信することになったのだった。


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