第2話 同接100万人!? No.1ギャル配信者は、おっさんを逃がさない
《アリシアSide》
アタシの名前は、アリシア・
アタシのお母さんは、世界的有名な歌手【アリッサ・洗馬】だ。
そのせいで、幼い頃から、いっつも比べられてきた。
お母さんは、すごい【のに】ね。
お母さんは、有名人【なのに】ね。
のに、なのに、と……付く。いや、面と向かっては言ってこない。でも……言葉の外で、みんなそう言っている。
アタシはそんな凄いお母さんの娘なせいで……全然、褒めてもらえなかった。
褒めてもらっていたのかもしれないけど、でも……その言葉を、純粋に受け止められないでいた。
褒めてもらえるために、頑張っても、あの人の娘だから。
あの凄い人の娘だから、これくらいできて当然だよね……と。
……そうやって、アタシはずっと誰からも、ちゃんと褒めてもらえなかった。
……そのせいで、アタシは承認欲求に、飢えていた。
褒めてもらいたかった。沢山の人から。
世界的歌手の娘としてではなく、アリシア・
……その結果誕生したのが、ダンジョン配信者アリシアってわけ。
アタシには強い、動機がある。ただのちやほやじゃあない。
超弩級のちやほや、どちやほやされないと、満たされないのだっ。
……でなければ、ダンジョンなんて、危険な場所、女の子が入るわけないでしょ。
このアリシア・
アタシは、ちやほやされるためにやっている……!
視聴者数を稼ぎ、ネット上で騒がれて、承認されるためにやってる!
そのためなら……命くらい、かけられる!
それが、配信者アリシアたんの、矜持……!
……深淵竜に襲われたくらいで、死んでたまるもんですかぁ……!
☆
「はっ! はぁ……はぁ……って、ここ……どこ?」
アタシが目覚めると、妙な場所に居た。
なんというか……そう、普通の天井があったのだ。
「見知らぬ天井だけど……なに、これ。どうなってるの……これ……」
おかしい。普通の天井だ。周りを見渡す。なんだか、普通の、洋室のようだった。
ベッドもある。ソファも、ある。あと、デカい本棚もあった。
「ダンジョンの外……なの……ここ……?」
《あ、アリシアたん起きた!?》
《心配したよぉお!》
「……!? 配信……まだ終わってなかったの?」
頭上を見上げると、小さな……球体が浮かんでいた。
あれが、ダンジョン・ドローン。
ダンジョン配信を行ううえで、必須アイテムだ。
そしてダンジョン・ドローンをはじめとした、特別な道具は、ダンジョン内部でしか使えない。
「ダンジョン・ドローンが使えてるってことは……ここ、ダンジョンの中!?」
《せやな》
《なんでアリシアたん驚いてるの?》
《いや、どう見てもマンションの一室みたいな場所に、アリシアたんがいるからでしょ》
《あ、そっか。ここダンジョンの中のはずなのに、こんな立派な部屋があるのおかしいか》
「ね、ねえ……あんた達、一体何があったのか教えてくんない?」
《今北産業》
《アリシアたん深淵竜に襲われる、ソロキャンおじ現る、ソロキャンおじにテントの中に連れ込まれる》
《???????》
《お前は一体何を言ってるだ……?》
《ばかおまえ、今から配信見始めたのかよ》
《こんなトンデモ注目配信を今から? おっくれてるー》
……トンデモ注目配信……?
アタシは視線を動かし、コンタクト型コンパクトモニターを見やる。
コンタクト型コンパクトモニター……通称、【CC】。
ダンジョン・ドローン……通称【DD】とともに、ダンジョン配信に使われるマストアイテムだ。
CCはARグラスと同じようなもんだ。視界の中に、パソコンモニターが表示されている。
ネット配信は、継続中。
注目すべきは……。
「はぁ……!? ど、同接……ひゃ、100万人ぅう!?」
普段の同接は5万行けばいいところだ!
でも、今はその20倍も! 同接数が、の、延びてる……!
う、うわぁあああ! すっごぃいい!
《で、ソロキャンおじって何よ》
《アリシアたんを助けた、ダンジョン深層に現れた謎のキャンプおじさんだよ》
《なんでキャンプなんだよ》
《アリシアたんがいるのがそいつのテントの中なんだよ》
「!? て、テントの中……つまり、その、ソロキャンおじが、気絶したアタシを助けてくれたって……わけ?」
《せやな》
《エックシ(旧ツブヤイター)でもトレンド入りしてるで》
「まじ!?」
CCを操作する。CCはスマホやパソコンと連動させられ、念じることで操作し、ネット検索ができるのだ。
エックシ(旧ツブヤイター)を開く。
「日本トレンド……い、1位!? 【ソロキャンおじ】!?」
しかも2位が【ダンジョン配信者アリシア】になってるし……!
す、すっごーい! 見られてる……! エックシ(旧ツブヤイター)でこんな注目されるの、初めてじゃあない!?
「で、マジでこのソロキャンおじ……なんなの?」
《わからんw》
《深淵竜をペグ打ち用のハンマーでぶっ飛ばしてた》
《ペグ? 犬?》
《テント立てるときに、テントを固定する杭のことだよ》
《それでS級ワンパンできるってどうなってるんだよ!?》
《わからんが、おかしいことはたしかだ》
……たしかに、おかしい。
おかしいけど、いや、おかしいがゆえに、お、美味しい……。
今、ソロキャンおじは注目を浴びている。そして、その注目の人物のそばに、アタシは……居る!
ならばどうする?
お近づきになる以外に、ない!
アタシだってたしかに有名配信者だけど、上には上がいる。
特に、Sランクと呼ばれる探索者たちは、実力も、配信者としての登録者数も段違いなのだ(現代探索者は、ほぼ配信も一緒にやっている。ざっくり言うと金になるから)。
「今からちょっと、ソロキャンおじに、突撃インタビューしてみようと、思いまーす!」
《まじか!? ソロキャンおじにインタビュー!?》
《アリシアたんやめとけって。絶対まともなやつじゃあないって》
《なんでや?》
《こんなダンジョンの奥底で、キャンプやってるなんて、頭のおかしいやろがい!》
《そうかぁ?》
《お忘れのようですがダンジョンは魔物のうろつくヤバい場所で、深層っていえばとんでもない化け物がうろつく魔境だぜ? そこでキャンプとかアホの極みだろ》
よしよし、よーーーし!
話題性バッチリだ!
そらそうだ。アタシだって、ソロキャンおじヤバいと思っている。
でも、それよりも! アタシは……注目が欲しい!
同接数は今なお延びている。みんな……アタシのことを、見てくれている。満たされる……承認欲求!
そして数字!
それが、それこそが、アリシア・
「とりま……ダンジョンおじに、突撃してみまーす!」
《吾郎Side》
……やれやれ。カレー麺が延びてしまった。
ドラゴンはワンパンできたが、その後倒れてる女の子をここまで運んでくるのに時間掛かってしまったのだ。
「ま、カレー麺は延びてもうまいか……」
ずるずる……と麺を啜る。……カレー味じゃなかったら、あんま食べられないな。
「……仕方ない、調理するか」
ほんとは、キャンプ地で料理なんてしたくない。
洗い物が面倒だからな。
だが、俺は今、腹が減っている。カレー麺はない。
なら……調理するしかない。
俺は仕方なく調理に取りかかろうとした……そのときだ。
「あ、その……」
「…………」
……俺の張ったテントから、あの女の子が……出てきた。
ひらひらとした、服装。
キラキラの金髪。長い髪をシュシュでまとめている。
そして、とんでもなく短いスカート。……ギャルだ。
……俺が関わりたくない人種、No.1だ。
なぜって? ギャルは、騒々しいからだ……。
マクドや喫茶店に行くと(あんまいきたくないが)、一番……五月蠅くしているのが、ギャル。俺はそう思っている。
大抵、騒ぎの中心には、ギャルズ(複数形)がいて、騒いでいるのだ。
孤独と静寂を愛する俺にとって、ギャルは天敵。よって……。
「あの~。助けてくれてどうもありがとうござい~……」
「礼は、不要だ」
俺はきっぱりそう言った。
「起きたら、さっさと帰ってくれ」
……ギャルが固まる。まあ、向こうとしても、こんな見ず知らずのおっさんと、これ以上話したくはないだろう。
当然だ。俺が逆の立場だったら(男子高校生だった時)、知らん不審者(おっさん、つまりは俺)に、近寄ろうとしないだろう。
「いえ! 帰れません!」
「………………どうしてだ」
「だってアタシ……」
そうか、迷い込んだ探索者か。レベルが足りないから、地上に帰れない、か。面倒だな……。
「おじさんと、おしゃべりしたいんです!」
「…………??????」
俺と……おしゃべり?
「アタシ、アリシアっていいます。アタシ……おじさんに、すっっっっごく、興味あるんです!」
……変わった、趣味嗜好のギャルがいたもんだ。おっさんとしゃべりたいだなんて……。
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