俺は内緒でパチンカス。彼女も内緒でパチンカス。

エンザワ ナオキ

第1話 まさかのテンパイ

 春の暖かい日差しが窓から室内に入り込む。

 その日差しを浴び、俺は背伸びをした。


 俺の名前は〈猪狩いかり啓司けいじ〉。

 

 上場企業に勤める、新卒2年目のサラリーマンだ。

 最近1人暮らしも板につき、社会人として順調なスタートを切った自負がある。

 そして、俺には付き合って2年になる自慢の彼女がいる。

 

 名前は、〈松風まつかぜまどか〉。大手IT企業で働くOLで、とにかく可愛い。

 もう一度言うが、本当に可愛いんだ。


 誰もが、他の人には言えない秘密を抱えているものである。


 例えば、家族に内緒でヘソクリを貯めている、誰にも言えないコレクションがある、言いづらい性癖がある、大きな夢を持っている等々……。


 俺にだって、彼女にだけは絶対に知られたくない秘密がある。


 ◇


 休日。俺はいつもの「」に立っていた。


 そして、俺は朝から開店を待ち望み、ある列に並んでいた。

 この静かさは、まるで嵐の前の静けさだ。


 運命を分ける抽選ボタンをタッチする。


 表示されたのは……〈230番〉


「はぁ、この番号じゃ目当ての新台は座れないかもなぁ」


 俺は、彼女に内緒でパチンコ屋さんに通っている。

 彼女は、徒歩5分のところに住んでいるので、よくお互いの家に遊びに行く。


 しかし、お互いシフト勤務や残業もあり、1人の時間は意外と多い。

 そこを狙って、ホールへ足を運ぶのだ。

 

 なぜ隠すのか? 

 

 世間体が悪いからだけじゃない。

 付き合い始めた頃、彼女が言っていた『元カレと別れた理由は、相手がパチンコにハマりすぎていたから』という言葉が脳裏に焼き付いているからだ。

 だから俺は、彼女の前では「趣味はアニメ鑑賞とスポーツ観戦」という誠実な男を演じ続けている。

 

 まぁその趣味は、本当に好きなので、苦労はしていないが……。


 しかし、1年前……いつも通り、俺はパチンコを打っていた。

 この日は人気シリーズ〈山物語〉の新台入替。

 朝イチで座れなかった俺は、別の台を打ちながら、空き台が出るのを待っていた。


(うーん、なかなか空かないな……って、うん??)


 どこか見覚えのある後ろ姿。

 見覚えのあるショートカットに水色の眼鏡。

 

(あれ? まどか??)


 間違いない。独特の、ちょっと前屈みの座り方。

 俺の彼女の、松風まどかその人だった。


(まどかが、パチンコを打っている……!?)


 いや、たまたま打っているだけかもしれない。

 昔少しだけやったことがあるとは言っていた。

 ましてや、この台は人気シリーズの〈山物語〉。

 新台が出たから、来ただけだろう……。

 俺はそう自分に言い聞かせて、その場を離れた。


 ところが……3日後の午後。


 俺は、仕事終わりに、明日何を打つかの下調べに来ていた。


(さて、明日はまどかはお仕事で、俺は休みだからゆっくりパチンコを打てる……何を打とうかなー?)


「キュイーン! キュイーン!!」


 ホールに景気のいい告知音が響き渡る。


(ほぉ……この台調子良さそうだな……って、あれ??)


 その台に座っていたのは、またしてもまどかであった。


(あれ? また来てるの??)


 なかなかの頻度で来ている。

 これは、常連に違いない。座り方にもどこか貫禄がある。


(これは、声をかけるべきか? いや、何か面白い……)


 お互い「パチンコ嫌い」を装いながら、裏ではホールに通い詰める恋人同士。

 俺は、知っていることを内緒にして、この「化かし合い」がいつまで続くのかを検証することにした。

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