俺が彼女を口説いた理由(鷹取蓮 視点)

俺、鷹取蓮は、チャラいと言われる。


まあ、否定はしない。


女性関係は派手だし、告白されることも多い。付き合ったことのある女性も、正直数えきれない。


でも、俺には俺なりのルールがある。


「相手が本当に嫌がっていたら、すっぱり諦める」


無理に口説いたりしない。相手の気持ちを無視したりしない。


恋愛は、お互いが楽しむものだと思ってる。


だから、相手が興味なさそうなら、すぐに引く。


それが俺のスタイルだ。


---


大学4年の秋。俺は就活も終わり、残りの学生生活を満喫していた。


法学部の講義を終えて教室を出た時、誰かとぶつかりそうになった。


「おっと、ごめん」


顔を上げると、可愛い女の子だった。


「こちらこそ、ごめんなさい」


彼女は頭を下げた。真面目そうな子だな、と思った。


「文学部の子?見ない顔だけど」


「2年です」


「俺は法学部の4年、鷹取蓮。よろしく」


「瀬田梢です」


その時、彼女のスマホが鳴った。


画面をチラッと見ると、男の名前。彼氏からかな。


「彼氏?」


軽く聞いてみた。


「...はい」


彼女の表情が、一瞬曇った。


彼氏からの電話なのに、嬉しそうじゃない。


むしろ、憂鬱そうだった。


「出なくていいの?」


「あとでかけ直します」


彼女はそう言って、電話を無視した。


へえ。彼氏からの電話を無視するんだ。


何かあるのかな。


まあ、深入りする理由もないけど。


「じゃあね、瀬田さん」


俺はそう言って去った。


でも、その時の彼女の表情が、妙に気になった。


---


数日後、またキャンパスで瀬田さんを見かけた。


廊下の窓際に寄りかかって、辛そうな顔をしていた。


「大丈夫?」


声をかけると、彼女は驚いたように顔を上げた。


「...大丈夫です」


「顔色悪いけど。保健室、案内しようか?」


「大丈夫です、本当に」


でも、全然大丈夫そうじゃなかった。


俺は少し考えて、ポケットから紙を取り出した。


「これ、俺のLINE ID。もし何かあったら、気軽に連絡して」


「え...」


「別に下心とかじゃなくて、なんか心配でさ」


実際、下心がなかったわけじゃない。可愛い子だし、気になった。


でも、それ以上に、彼女が本当に困ってるように見えた。


「彼氏さん、ちょっと束縛強そうだなって思って。余計なお世話だったらごめん」


彼女は驚いたような顔をした。


「ありがとうございます」


彼女は紙を受け取った。


きっと捨てるだろうな、と思った。


彼氏がいるんだし。


でも、もし連絡が来たら、話くらいは聞いてやろう。


---


一週間後、瀬田さんからLINEが来た。


「先輩、相談したいことがあります」


おお、本当に連絡してきた。


「いいよ。いつでも」


そして、カフェで会うことになった。


彼女は俺に、彼氏との関係を話してくれた。


毎日何回も電話がかかってくること。


LINEの即レス要求。


スマホのチェック。


友達との予定も全部報告させられること。


男友達とは連絡を取るなと言われていること。


話を聞いていて、俺は驚いた。


これ、完全に異常だ。


「それ、束縛っていうレベルじゃないよ」


「そうですよね...」


「別れたいって思ってる?」


彼女は頷いた。


「でも、怖くて言えないんです」


「そっか」


俺は彼女の目を見た。疲れきっていた。


「無理に決断する必要ないよ。でも、自分を大事にね」


「はい」


この時、俺は思った。


この子、本気で別れたいんだな。


でも、別れる勇気がないだけだ。


だったら、俺が支えてやろうか。


---


それから、俺たちは図書館でよく一緒に勉強するようになった。


俺は卒論を書かなきゃいけなかったし、彼女もレポートがあった。


一緒にいる時間が増えると、彼女の笑顔も増えていった。


本来は明るい子なんだろうな、と思った。


彼氏に縛られていなければ。


ある日、カフェで話している時、俺は聞いてみた。


「瀬田さん、正直に聞いていい?」


「はい」


「俺のこと、どう思ってる?」


彼女は顔を赤くした。


「え...」


「いや、別に告白とかじゃなくて。ただ、瀬田さんが今どう感じてるか知りたくて」


彼女は少し考えてから、正直に答えてくれた。


「先輩と一緒にいると...楽しいです。ドキドキもします」


「彼氏がいるのに?」


「はい...ダメですよね」


俺は首を横に振った。


「ダメじゃないよ。感情は自由だから」


そして、俺は自分の気持ちを伝えることにした。


「俺はね、本当に別れたいなら、ちゃんと別れてから次に進むべきだと思う」


「はい...」


「でも、もし瀬田さんが彼氏との関係に本当に疲れてて、別れたいと思ってるなら...俺は、遠慮なく瀬田さんを口説くよ」


彼女の顔が真っ赤になった。


「先輩...」


「焦らなくていい。ゆっくり考えて。ただ、俺は瀬田さんのこと、気になってる」


これは本当だった。


最初は軽い気持ちだった。可愛い子が困ってるから、助けてやろうって。


でも、一緒にいる時間が増えるにつれて、本気で気になり始めてた。


彼女の笑顔。優しい性格。真面目なところ。


全部、好きだった。


---


数日後、瀬田さんから連絡が来た。


「先輩、相談があります。今日、時間ありますか?」


「もちろん」


図書館で会うと、彼女は決意した顔をしていた。


「別れようと思ってます」


「そっか。それがいいと思う」


「でも、怖いんです。蒼司くん、すごく取り乱しそうで」


「一人で別れ話するの?」


「たぶん...」


俺は少し考えた。


正直、彼氏が逆ギレして何かしでかす可能性もある。


「俺も一緒に行こうか?」


「え?」


「別に立ち会うわけじゃないけど、近くにいるだけでも違うでしょ。何かあったらすぐ助けられるし」


彼女の目が潤んだ。


「先輩...ありがとうございます」


「当然だろ」


そして彼女は、勇気を出して聞いてきた。


「先輩、一つ聞いていいですか?」


「なに?」


「もし私が蒼司くんと別れたら...先輩は本当に、私のこと口説いてくれますか?」


俺は真っ直ぐ彼女の目を見た。


「当たり前だろ」


その言葉は、本心だった。


---


週末。瀬田さんの別れ話に、俺は少し離れた場所で待機していた。


二人の会話は聞こえなかったが、様子は見えた。


瀬田さんが何か言った。


彼氏の顔が蒼白になった。


彼氏が瀬田さんの手を掴んだ。


その瞬間、俺は動いた。


「大丈夫?」


瀬田さんに声をかけると、彼氏が俺を睨んだ。


「誰だよ、お前」


「鷹取蓮。瀬田さんの友達」


「友達?こいつのせいか?こいつと浮気してたのか?」


「違うよ!」


瀬田さんが否定した。


「嘘つけ!」


彼氏が詰め寄ろうとした時、俺は二人の間に入った。


「落ち着けよ」


「どけよ!」


「瀬田さんが嫌がってるだろ」


彼氏は拳を握りしめたが、何もできなかった。


周りに人がいたからだろう。


「梢...お前、最低だよ」


彼氏はそう言って、走り去った。


瀬田さんはその場で泣き出した。


俺は彼女の肩を、そっと抱き寄せた。


「よく頑張ったね」


彼女は声を上げて泣いた。


俺は黙って、彼女を抱きしめ続けた。


---


それから数週間。


瀬田さんはだんだん笑顔を取り戻していった。


元彼は色々と騒いでいたらしい。


掲示板に投稿したり、周りに悪口を言ったり。


でも、誰も元彼の味方はしなかった。


俺の友達も言っていた。


「鷹取、お前が正しいよ。あの元彼、束縛ヤバかったらしいじゃん」


「まあな」


「むしろよくやったよ。彼女、救われただろ」


友達の言葉に、俺は少し照れた。


別に正義感でやったわけじゃない。


ただ、瀬田さんが気になったから。


それだけだ。


---


そして、俺は瀬田さんに告白した。


「梢、俺と付き合ってくれないか?」


彼女は少し驚いた顔をして、それから笑顔になった。


「はい」


その笑顔を見て、俺は思った。


ああ、この子を守りたい。


この笑顔を、ずっと見ていたい。


それが、俺の本心だった。


---


俺たちが付き合い始めてから、俺は自分のスタイルを変えなかった。


束縛はしない。


毎日電話もしない。


LINEの即レス要求もしない。


梢には梢の時間があるし、俺には俺の時間がある。


それでいいと思ってる。


お互いを信じてるから。


ある日、梢が言った。


「先輩と一緒にいると、本当に楽」


「それは嬉しいな」


「お互いを信頼してるから、束縛する必要ないんだって思える」


梢の言葉に、俺は微笑んだ。


そう、それが恋愛のあるべき姿だ。


縛り合うんじゃなくて、信じ合う。


それが、本当の愛だと思う。


---


元彼は、その後も少し騒いでいたらしい。


でも、やがて諦めたようだった。


教授にも呼び出されたらしい。


俺と梢も、一応大学側に報告した。


「元彼がネットで誹謗中傷している」と。


大学側は適切に対応してくれた。


元彼には警告が出たらしい。


それ以降、元彼は何もしてこなくなった。


正直、同情もした。


彼なりに愛してたんだろう。


でも、愛し方を間違えた。


それだけのことだ。


---


俺が梢を口説いた理由。


最初は、軽い気持ちだった。


可愛い子が困ってるから、助けてやろうって。


でも、一緒にいるうちに、本気で好きになった。


梢の笑顔。優しさ。真面目さ。


全部、愛おしかった。


そして、元彼から梢を守りたいと思った。


俺はチャラいと言われる。


女性関係も派手だと言われる。


でも、俺には俺なりのルールがある。


相手が本当に嫌がっていたら、諦める。


無理に口説かない。


相手の気持ちを尊重する。


梢の場合は、彼女が本当に別れたがっていた。


元彼との関係に疲れていた。


だから、俺は遠慮なく口説いた。


それが、俺のスタイルだ。


---


数年後、俺は梢と結婚した。


弁護士として働き始めて、忙しい日々だったが、梢がいるから頑張れた。


結婚式の日、俺は思った。


あの時、梢に声をかけてよかった。


あの時、梢を口説いてよかった。


今、こうして梢と一緒にいられる。


それが、何よりも幸せだ。


梢も、本当に幸せそうだった。


あの時の疲れた顔は、もうない。


いつも笑顔で、いつも輝いている。


それを見るたびに、俺は思う。


この人を守りたい。


この笑顔を、ずっと見ていたい。


それが、俺の願いだ。


---


元彼のことは、たまに思い出す。


彼も今頃は、幸せになっているといいな。


次に誰かを愛する時は、相手を縛らずに、信じることができるように。


人は変われると、俺は信じてる。


俺も変わった。


昔は軽い恋愛ばかりだった俺が、今は梢一筋だ。


人生、何が起こるかわからない。


でも、一つだけ確かなことがある。


俺は梢を愛してる。


そして、梢も俺を愛してくれてる。


それで十分だ。


---


俺、鷹取蓮の物語は、まだ続く。


梢と一緒に、これからの人生を歩んでいく。


子供も生まれて、家族三人で笑い合う日々。


こんな幸せがあるなんて、昔は想像もしてなかった。


でも、今は確信してる。


梢と出会えて、本当によかった。


梢を口説いて、本当によかった。


そして、梢と結婚できて、本当によかった。


これからも、梢を大切にしていく。


束縛せず、信じて。


それが、俺の愛し方だ。

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