第11話 奇跡の生存者

轟音、揺れ、炎の匂い――機内での惨状が悠真の意識の奥に残っていた。

そのまま意識が遠のき、気づけば病院の白い天井が視界に広がる。

「……ここは……?」

目を開けると、頭上の蛍光灯がまぶしく、救急隊の声や器具の音が響いていた。

周囲を見回すと、医師や看護師、そして何人かの見知らぬ人々が慌ただしく動いている。

「よく生きていましたね……!」

声に反応し振り返ると、医師が悠真を見つめていた。

「あなた……一人だけの生還です。ほかの方は……」

医師の言葉はそこで途切れ、悠真は言葉を理解しきれず、ただ目を丸くする。

体に手を当てる。

皮膚も、骨も、血も、痛みも――何もない。

(……え……? 本当に……)

腕を少し動かすと、かすかな疲労感はあるものの、致命傷の痛みは全くない。

事故の恐怖と痛みを覚えていたはずなのに、体は何事もなかったかのように整っていた。

搬送中の記憶が蘇る。

救急隊の担架、悲鳴、煙と炎、振動――目の前で次々と倒れる人々。

その中で、悠真だけが担架に横たわりながらも生きている現実。

(……俺だけ……なんで……?)

医師たちは慎重に診察を続ける。

血液検査、X線、CT……どれも異常なし。原因不明の生存――ただの奇跡として扱われるだけだった。

看護師たちは安堵と驚きの入り混じった声で話す。

「本当に信じられませんね……」「誰も信じられないでしょう」

記者もスマートフォンを構え、奇跡の生還者として写真を撮っている。

悠真はその様子をただ静かに見つめる。

(……どうして俺だけ……?)

胸の奥に結衣や両親の面影が浮かび、胸が締め付けられる。

家族も、ほかの乗客も――もう二度と会えない。

世界は、静かに、そして確実に変わってしまった。

病室の白い光の中、悠真は天井を見上げる。

(……この体は……本当に……)

まだ答えは出ない。ただ、胸の奥に孤独だけが広がっていく。

そして、その孤独が、悠真に長く果てしない時間の始まりを告げていた。

あとがき

読んでいただき、ありがとうございます。

今回は、悠真が飛行機事故で奇跡的に生き延びる様子を描きました。

致命傷を受けても死ななかった自分――その事実を前に、悠真は衝撃と孤独を感じます。

しかし、まだ自分が年を取らないことは知らないまま。

未知の運命が、静かに動き始めています。

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