第5話 気づかない影
午後の光が街を柔らかく照らしていた。
悠真は結衣の手を握り、商店街を歩いている。
笑い声が風に混ざり、すべてが穏やかに見えた。
「ねえ、今日はあのカフェに寄ろうよ」
「うん、いいね」
二人は小さなカフェに入り、窓際の席に座った。
結衣がパンケーキをほおばる姿に、悠真は微笑む。
(この時間が、ずっと続けばいいのに……)
しかし、その幸せは一瞬で破られた。
店の外から静かに近づく足音。
悠真が顔を上げた瞬間、黒川陽介が立っていた。
目の前にいる――かつて悠真の善意を受けた人物。
その瞳には感情が欠けているが、決意だけが静かに宿っていた。
「結衣……?」
悠真は声にならない声を漏らす。
陽介は何も言わず、一瞬のうちに凶行を行った。
結衣は驚きの声も上げられず、悠真の目の前で倒れる。
血の匂いが、午後の光に混ざる。
「結衣……!」
悠真は立ち上がろうとするが、体が言うことを聞かない。
(どうして……どうして目の前で……)
結衣の手の温かさ、笑顔、優しさ――
すべてが、今や消え去った。
悠真はその場に膝をつき、ただ呆然と立ち尽くす。
心の奥で、何かが崩れ落ちる――
優しさで世界を守れると思っていた自分が、
ただ無力であることを痛感する瞬間だった。
(もう、何もかも変わってしまった――)
午後の光は、いつも通り二人を包むはずだった。
だが結衣はもうそこにいない。
悠真だけが、永遠に孤独な世界に取り残されたのだった。
あとがき
読んでいただき、ありがとうございます。
今回は、悠真の目の前で結衣が失われる――
物語の大きな転換点を描きました。
優しさがもたらす結果と、避けられない悲劇。
この瞬間から、悠真の世界は静かに、しかし確実に変わり始めます。
次回からは、永遠に生きる存在としての苦悩と孤独が、物語を動かしていきます。
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