第2話 影に触れた光
悠真は、結衣と歩いたあの日の商店街を思い返していた。
笑い声が街に溶け、温かい日差しが二人を包んでいた――
そんな幸福な日常の陰で、ふと頭をよぎる出来事があった。
駅前の自販機脇で、肩をすくめて座る青年の姿
25歳前後の男。薄汚れたジャケットに、整っていない髪。
顔には疲労と孤独が刻まれ、誰からも温かさを受けたことがないような瞳をしていた。
(寒そうだ……)
悠真は迷わず近づき、声をかける。
「大丈夫ですか? よろしければ、温かい飲み物でもいかがですか?」
青年は顔を上げ、初めて目が合った。
その瞳には感情が欠けた冷たさがあるが、奥には長く続く孤独の影が潜んでいた。
悠真は自販機で温かい缶コーヒーを購入し、差し出す。
「こちら、どうぞ。少しでも温まればなと思います。」
青年は一瞬動きを止め、震える指で缶を受け取った。
湯気が顔を温める。
「……ありがとうございます」
低く、かすかな声。戸惑い混じりの響き。
悠真は微笑む。
「寒そうでしたので、よろしければこれもお使いください。」
自分のマフラーを外して青年に差し出す。
黙って首に巻いたその姿に、わずかに肩の力が抜けたように見えた。
「……なぜ、こんなことをしてくれるのですか?」
ぽつりと呟く青年。
「困っている方を見かけたら、助けたいと思っただけです。」
その答えに、青年の瞳がわずかに揺れた。
無表情の奥で、初めて光を見た心が反応している。
「……そんなこと、言われたことがなかった」
小さく呟く声。誰にも届かない。
悠真は頷き、立ち上がる。
「では、失礼します。どうか温まってください」
青年はその背中を見つめ続けた。
感謝と混乱、理解できない衝動――
そして、これからの歪んだ未来の片鱗。
(――この方は、特別だ)
孤独な心に、初めて火が灯った。
しかしその火は、やがて影を落とす光でもあった。
そして今。
悠真は結衣の笑顔を思い浮かべ、胸が温かくなる。
『明日も、遊びに行こうね!』
「うん、楽しみだな」
結衣には自然にタメ口で話す。
日常の温かさはここにあって、善意の行為も、静かに未来へとつながっている――
まだ、何も知らずに
あとがき
読んでいただきありがとうございます。
今回は、悠真の善意が誰かの心に届く瞬間を描きました。
小さな光は時に影にも変わります。
結衣との日常と、静かに動き始める影――
その対比を楽しんでいただければ幸いです。
次回も、ぜひお付き合いください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます