吸血鬼と取材

水嶋

第1話 丑三つ時

「先輩、有難うございました。頑張ります!」


「元気だせよ!それじゃあまた来週な。」


今日は会社の後輩と飲んでつい遅くまで飲み過ぎてしまった。


この後輩がちょっと大きめのミスをしてしまってかなり落ち込んでいたので飲みに誘った。


今時だと、若い子は先輩や上司が下手に飲みに誘ったりするとハラスメント扱いしたりするが、この後輩は何かと普段から頼ってくれて可愛げがある。


まあ、良いように使われてるだけかも知れないが。

俺は厳しく叱ったりとか苦手なんで、皆から舐められてる自覚はある。

寂しい中年にはそれでも良いのだ。



最初はミスをどう挽回するかの話から段々恋愛相談になって行き、気がつけば閉店時間となって店を追い出された、


こんな俺でも頼ってくれるのは正直悪い気はしない。

恋愛相談に関しては…


俺は一応既婚者だったが、今は独身となっていてアドバイス出来る事が無い。

ただ愚痴を頷きながら聞いてあげてる状態だったが、多分解決させると言うより話をするだけで満足なんだろう。


しかし…

今は深夜2時過ぎだ…


終電は終わってる。

後輩はタクシーを拾って帰ったが…


そもそもなんで居酒屋とかの閉店時間は2時とかが多いんだ。

終電間に合う時間に終わってくれよ。

それか始発が始まる4時位までとか…


2時ってなんなんだよ…

誰がスタンダードにしたんだ?

誰得設定なんだ。


こんな時間殆ど店なんて開いてないし

コンビニに2時間以上居座る図太さもなく…

カラオケや漫喫に1人で入る気にもなれず…


ファミレスや牛丼チェーンやたまに有る24時間マックなんかは治安悪そうだし、第一腹一杯だ。中年の胃袋舐めんなよ。


と言うより金を使えない、と言うより使いたく無い。タクシー代ですら出したくなかった。


来月でやっと卒業だが大学生の一人娘に金がかかる。しかも医学部と来た。

恐らく大学の中でも1番金がかかる。

その前に薬学部も行って卒業した。

奨学金だが下手したら一生借金生活かも知れない…


何とか医者か薬剤師にでもなってくれればまだ返す目処も有るかもだが、お銀になるとか訳の分からない事を言っている。

頭の良い人の考える事は全く分からない。


そんな訳で多分歩いて帰るにしても始発始まる時間にも家につかないだろうと算段して、公園で休んでいく事にした。


深夜の公園…

何か不良にでもなった気分だ。

中年なのに。

多分オバケとかはいないだろう。

そんな物を怖がる年頃はとっくに過ぎた。

中年だから。



ガラが悪い若者とかいたら嫌だなあと思いながら公園に入った。


ベンチを探して遊具のある辺りに来ていた。




キィッ…キィッ…キィッ…



何か音がする…


誰か居たか…


不良かな?でも騒がしくはないな…



そう思って見渡した。


ブランコが揺れていて、多分子供…?中学生位の多分男の子…?


がブランコを立ち漕ぎしていた。


黒いフリルがついたゴシックな感じのブラウス、膝下位の中途半端な長さのズボン、黒いハイソックスに革靴…


髪は黒くてやや長め

夜の街灯のせいかも知れないが全体的に青白く、体も細い。


有る意味不良より恐ろしい光景に見えた。


立ち尽くして居ると、その子が此方に気付いてブランコを漕ぐのをやめた。


「君、こんな時間に何してるの?」


「遊んでるんだよ…」


「まだ君、子供だろう?ダメじゃないかこんな時間に遊ぶなんて。」


子供がいるので、つい親目線で叱ってしまった。






「僕、214歳だから大丈夫だよ…オジサン…」


何言ってるんだ?この子は…

しかし、夜の公園の街灯に映し出されたその子の姿は思わず信じてしまいそうな怪しさがあった。





「僕、吸血鬼だから…昼間出歩けないの。夜しか遊べないから…ゆるしてね」





そう言ってその子はにいっと笑った。


八重歯にしては長い…牙の様な歯が見えた。

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