サマルカンドの風 —草原の少年、のちに“最強の征服者”と呼ばれる—

@Samarcand

【プロローグ】 蒼き都に吹く風

 青の都、サマルカンド。

 世界に名を轟かせた建築家たちが造り上げた蒼いタイルの壁は、太陽の光を受けて宝石のように輝いていた。


 その中心に立つ男の姿がある。

 年老いてなお背は伸び、瞳には鋭い光が宿っている。

 大陸の王たちが震え、数え切れぬ都市がその名の前に頭を垂れた男——

 ティムール。


 集まった将たちが静かに彼を見守る。

 遠征を告げる太鼓が鳴り、軍旗が風に揺れた。


「これより、東方の大地へ向かう。

 まだ我の知らぬ地が残っているのなら——征く価値がある。」


 老いた声はなお力強く、軍を震わせた。


 この男は、無数の敵を打ち破り、幾多の都市を統べ、

 世界の半分をその手中に収めてなお、歩みを止めなかった。


 だが——彼にも、始まりがあった。


 蒼いタイルの都を夢見ていた、

 草原の片隅の、名もなき少年の頃が。


 サマルカンドの風が、静かに吹く。

 その風こそが証人だった。


 大陸を揺るがす征服の物語は、草原の夜から始まる——。

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