第14話 ミストレイの背に乗って

『ドラゴンは飛翔に風の魔力を用いる、だから大きな巨体でも自由自在に大空を駆けることができる』


 デーダス荒野の一軒家、暖炉の前でわたしはクッションを抱えてグレンの話を聞き、彼は安楽椅子を揺らしながらそんな話をしてくれた。


 それからわたしはガタガタと、デーダスのあばら家を揺らす風の音に耳を澄ませた。


 竜王がその翼を大きく広げると、力強い羽ばたきひとつで魔素を帯びた風が巻き起こり、広場の周りで見物していた人たちは慌てて、自分の帽子や服を押さえていた。


 あっ、風圧で屋台ひっくり返ってる。大丈夫かな?


 ミストレイの背から地上に向かって手を振ると、みんなも歓声をあげて手を振り返してくれた。


 ドラゴン大人気だね、そうだね圧巻だよね……まさしく大空の覇者。もしもあっちの世界でブルーインパルスが空を飛んでいたら、わたしだって歓声をあげるもの。きっとそれぐらいの感動。


 浮かび上がったミストレイたち三体に、上空の二体も合流して竜王を中心に左右に展開する。


「空を飛んでいた白竜は、魔導列車についてきたドラゴンですよね」


 ライアスが教えてくれた。


「ああ。どちらも俺よりふたつ年上の、竜騎士が騎乗している。茶髪のヤーンが乗るのがクレマチス、水色の髪をしたアベルが乗るのがリンデリカだ」


 紺色の髪をしたベテラン竜騎士のレインが乗るアマリリスと、ヤーンのクレマチスがミストレイの上を飛び、緑髪の副官デニスが乗るツキミツレと、アベルのリンデルカが下を飛んだ。


 ドラゴンたちがきちんと隊列を組み、大空を飛翔するさまは圧巻で……うわぁ、わたし本当に護衛されているんだ。


 わたしとライアスが乗るミストレイを中心に、ドラゴンたちはぐんぐんと空を上っていく。


 見下ろせば人々がどんどん小さくなり、赤レンガ作りのウレグ駅の周りに広がる街並みは、まるで模型を見ているみたい。それすらあっという間に、後方の点になった。


 わたしがさっきまで乗っていた魔導列車も、見えたと思ったらあっさりと追い越してしまう。速い。スピードは速いけれど、ドラゴンが持つ風の守護のおかげで、感じる風圧は心地いいそよ風が髪を揺らす程度。


 眼下には民家がぽつりぽつりと点在する、田園地帯が広がっている。ウレグ郊外の田園地帯を抜けて、マール川を渡ればすぐに王都シャングリラだ。


 わたしが読んだ本に、王都は高い城壁に囲まれた巨大な都市だと書いてあった。マール川の支流が王都に流れこみ、船を使った輸送も盛んらしい。


(魔導列車からの王都も見てみたかったな……)


 ドラゴンの背に乗れるなんて貴重な体験だけれど、魔導列車を降りてしまったのがちょっとだけ残念。車窓からみる王都はすごい迫力だろうと、楽しみにしていたから。


 高度を上げたドラゴンの背から、遠くの山並みがキレイに見える。雲が落とす影がゆっくりと田園を移動していく。


「苦しくはないか?」


 景色に夢中になっていたら、ライアスの少しかすれた声が頭の上から降ってきた。


 彼の吐息が髪を揺らし……うわぁ……意識すると距離が、距離が近すぎる。背中が胸板にあたる。うん、びくともせず抜群の安定感だね。


「だいじょうぶ、空をだれかと一緒に飛ぶのって楽しいです!ミストレイの乗り心地も最高だし!」


 ホント、楽しい。ミストレイの背中は広くてゆったりしている。


 それに飛行も安定していて、もしかしたらすごく気を遣って飛んでくれているんじゃないかな。


 ライガに乗るのと違って、ひとりじゃない。一緒にこの素晴らしい景色をともに見てくれる人がいる。


(同じ体験を共有できる相手がいるって、いいな……)


 いつかライガに乗って、ドラゴンと一緒に空を飛んでみたい。ミストレイと追いかけっこしたら楽しそうだけど……飛んでくれるかな?


 気になってライアスを振り返ると、目が合ったライアスはとろりと微笑んだ。


「楽しんでくれてよかった」


(うわぁ、まぶしい。至近距離のイケメンの笑顔がまぶしすぎるよ!)


 急に心臓がドキドキして、わたしは慌てて顔を戻す。赤くなった顔が見られませんように。


「ありがとうございます、ライアスさん」


「ライアスでいい、団長同士なのだし。俺も『ネリア』と呼ばせてもらっても?」


「はい、ライアス」


 わたしとライアスは再び目を合わせて、ほほえみ合った。





 竜騎士たちはミストレイに追尾して飛びながら、こんなやり取りをしていた。


『こちらレイン。さっきから団長の百面相が面白くてしかたない』


『こちらヤーン。おい、どうなってる?あの団長が甘々なとろけるような笑みを見せるとか!あり得ないだろ!』


『こちらアベル。遮音障壁なんか展開しちゃって、何話してんだかねぇ』


『こちらデニス。おかげで俺たちがこうやって会話できているんだ。団長に聴こえてたら間違いなく殺されるぞ』


『こちらレイン。今度は見つめ合っちゃってるよ!あっ!彼女赤くなった!』


『こちらヤーン。脈ありか⁉︎脈ありなのか⁉︎』


『こちらアベル。俺は今猛烈に感動している!団長にもついに春が!』


『こちらレイン、ちょっ、アマリリス!落ち着けって!』


『こちらデニス。お前ら全っ員!落ち着け‼︎今は任務中だ‼︎』


『『『これが落ち着けるかよっ!』』』


『…………』

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