加護を持つ聖女の私に婚約破棄を突きつけた王子、世界に「ざまぁ」される

日和崎よしな

第1話 婚約破棄

 きらびやかな装いの貴族たちがグラスを片手に歓談している。


 私もその中のひとり。宝石が散りばめられてキラキラと輝く白いドレスを身にまとい、長いブロンドヘアーを揺らしながら、挨拶にやってくる紳士淑女に笑顔をふりまいていく。


 そう、今日は私が主役なのだ。


 ここは王城の大広間。

 第一王子による重大発表を聞くために貴族たちは集まっている。婚約者である私との正式な婚姻の宣言を聞くために。


 私は伯爵家の生まれだ。普通なら殿下と結婚できるような身分ではない。


 でも私は加護を持って生まれた。


 サーイント王国において、加護を持つ女性は数十年に一度しか現れない。

 加護の効果は人によって様々だが、いかような効果であれ一国の命運を左右するほどの絶大な力があり、加護を持つ女性は生まれながらにして王太子と結婚することが宿命づけられている。


 だから私は幼い時分から長きに渡って第一王子であるフィルス殿下と時間をともにし、親交を深めてきた。

 殿下はとても聡明で、気品があり、美しく、優しく、王家の血筋然とした立派なお方だ。

 そんな殿下だからこそ私は心からお慕い申し上げているし、加護を授かったことを女神レインに感謝していた。


 カツ、カツ、カツと甲高い足音が響いたあと、華やかな空間を一瞬の静寂が覆った。

 大広間の中央には赤い絨毯じゅうたんが敷かれた大階段があり、その段上にその人はいた。


 第一王子、フィルス・サーイント。


 彼の登場に歓声のごとき拍手が鳴り響く。

 金の装飾を散らした白い礼服とツヤのある白い靴が、巨大な窓から差し込む月光をキラキラと反射している。

 透き通るような金髪を揺らしながら、彼は階段をゆっくりと下りていく。


 王子は階段の中段で止まり、片手を上げた。拍手が鳴りやみ、ふたたび静寂が空間を包み込む。

 王子はフロアをひととおり見渡したあと、おごそかに口を開いた。


「今日は私のために集まってくれてありがとう。予告どおり、私の婚姻を宣言するためにこの場を設けさせてもらった」


 貴族たちが暗黙のうちに赤い絨毯から退しりぞき、中央に道を作る。残っているのは私だけ。私は呼ばれたらいつでも彼の元に馳せ参じる心構えで待った。


「ただ、そのまえにもうひとつ発表しなければならないことがある。私は伯爵令嬢グレイス・アシュルムとの婚約を破棄する」


「え……?」


 私が耳を疑っていると、赤いドレスを着た長い黒髪の女が階段を上がって殿下の横に並んだ。

 殿下が彼女の肩に手を回すと、彼女は殿下の肩に頭を預け、丸みのある顔に妖艶な笑みを浮かべた。


「諸君、紹介しよう。この人こそが私と結婚する真の聖女、リエイルだ!」

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