第9話「古代技術の復活」
カイゼルから「王城の書庫を自由に出入りする許可」を与えられた俺は、仕事の合間を見つけては書庫に通い詰めていた。そこはまさに知識の宝庫で、獣人国の歴史や法律、地理に関する書物が所狭しと並んでいた。
しかし、その一角に誰にも読まれることなく放置された区画があった。そこに収められているのは、分厚い羊皮紙に奇妙な文様のような文字で記された古文書の山だった。
「これは、古代獣人文字ですね。今では解読できる者が誰もいないと聞いています」
書庫を管理する年老いた司書が、申し訳なさそうに言った。
俺はその古文書の一冊を手に取った。文字の体系、文法の規則性、単語の出現頻度……。図書館司書として培ったスキルが、俺の頭脳をフル回転させる。異なる言語体系を解析するのは複雑なパズルを解くのに似ていて、俺にとってはむしろ得意分野だった。
俺はその日から、古文書の解読に没頭した。カイゼルは俺が書庫に籠っていることを知ると、執務の合間に時折顔を見せるようになった。
「またここにいたのか。飯も食わずに何をしている」
ぶっきらぼうに言いながらも、彼が差し出す盆の上には温かいスープとパンが乗っていた。
「ありがとうございます、陛下。今、面白いことが分かりそうなんです」
俺が夢中で羊皮紙を指差すと、カイゼルは呆れたように息をつきながらも俺の隣に腰を下ろし、その手元を静かに眺めていた。二人きりの書庫で過ごす静かな時間は、いつしか俺たちにとって当たり前のものになっていた。
そして数週間後。俺はついに、古代文字の解読に成功した。
解読できた古文書の内容に、俺は愕然とした。そこに記されていたのは、単なる歴史の記録ではなかった。
「陛下! 大変です!」
俺は解読した羊皮紙を手に、カイゼルの執務室へ駆け込んだ。
「どうした、ミコト。そんなに慌てて」
「これを見てください! この古文書に、失われたはずの技術が記されていました!」
俺が示した箇所を、カイゼルは訝しげに覗き込む。
「これは……鋼の精錬法、か?」
「ただの鋼ではありません。『高品質な鋼の精錬技術』です! 特殊な鉱石と独自の炉を使うことで、現在のものより遥かに硬く、しなやかな鋼を生み出す技術……。これが本当なら、この国の武具は飛躍的に質を向上させられます!」
獣人国は武力国家だ。武器の質は、そのまま国力に直結する。もしこの技術が復活すれば、他国に対して絶大な軍事的優位性を確保できるだろう。
カイゼルの目の色が変わった。彼はすぐに国中の鍛冶師を集め、古文書の記述を元に鋼の再現を命じた。
そして数日後。
城の練兵場で、試作品の剣と従来の剣を打ち合わせる実験が行われた。
甲高い金属音が響いた瞬間、従来の剣は半ばから呆気なく折れ、宙を舞った。一方、古代技術で打たれた剣には刃こぼれ一つない。
その場にいた誰もが息を呑んだ。
「……信じられん」
「これが、我らが祖先の技術だというのか」
鍛冶師たちの驚嘆の声が上がる中、カイゼルは折れた剣と無傷の剣を交互に見比べ、そして俺の顔を見た。
その黄金の瞳は、これまでにないほどの強い光を放っていた。それはもはや、興味や信頼などという生易しいものではない。
目の前のこの小さな人間は、食を満たし、病を退け、土地を蘇らせ、そして今、国の根幹である武力さえも劇的に進化させた。
ミコトは、もはや『使える道具』でも『賢者』でもない。
この国の未来そのものを左右する、唯一無二の『宝』だ。
カイゼルはそう確信した。そして、その宝を誰にも渡してはならない、自分の手元に永遠に繋ぎ止めておかなければならないと、強く、強く決意した。彼の内に燻っていた独占欲の炎が、はっきりと形を成した瞬間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。