魔力ゼロの『外れ聖女(男)』、 追放先で知識を武器に国を改革したら、孤高の獅子王に「お前は俺の宝だ」と唯一無二の番として激しく求められる

藤宮かすみ

第1話「外れ聖女(男)と厄介払い」

 光の渦に飲み込まれ、次に目を開けた時、俺――ミコトは知らない場所にいた。高い天井、ステンドグラスから差し込む荘厳な光、そして豪華な衣装をまとった人々。彼らは口々に俺を『聖女様』と呼び、ひれ伏した。


 図書館の閉館作業をしていたはずなのに、何がどうしてこうなったのか。混乱する俺に、神官長と名乗る男が尊大に告げた。この世界は魔物の脅威に晒されており、それを浄化する力を持つ『聖女』を異世界から召喚したのだ、と。


 しかし、儀式の結果は無情だった。聖女に必須とされる魔力が、俺には全くなかったのだ。


「魔力ゼロだと……? なんということだ、失敗召喚か!」


 手のひらを返したように、周囲の態度は冷たくなった。『聖女様』という呼び名は『役立たず』『外れ聖女』に変わり、俺を見る目は侮蔑と失望に満ちていた。


 それからつらい日々が始まった。神殿の片隅にある物置同然の部屋をあてがわれ、食事は一日一回、パンとスープだけ。すれ違う神官たちは俺をいないものとして扱うか、聞こえよがしに悪態をついた。


 俺はただの図書館司書だ。特殊な力なんてあるはずもない。元の世界に帰してほしいと訴えても、「方法はない」と一蹴されるだけ。絶望的な状況に、何度も心が折れそうになった。


 そんな日々が二週間ほど続いたある日、神官長が俺の部屋を訪れた。その顔には、隠しきれない愉悦の色が浮かんでいた。


「ミコト、お前に新たな役目が与えられた。光栄に思うがいい」


 告げられた内容は、俺をさらなる絶望の淵に叩き落とすものだった。


 人間国であるこのアルバ王国は、隣国の獣人国・ライオネル王国と同盟を結んでいるらしい。その同盟関係をより強固にするため、俺を『贈り物』として獣人国へ送るというのだ。


「贈り物、ですか……?」


「そうだ。もっとも、魔力なしのお前では聖女としての価値はない。せいぜい、珍しい異世界人として、かの国の王の慰みものにでもなるがいい」


 要するに、厄介払いだ。それも、最も屈辱的な形で。


 獣人国――その名が示す通り、獣の特徴を持つ人々が暮らす国。噂によれば、武力至上主義で文化的には停滞した、荒々しい国だという。そんな場所に何の力もない俺が一人で放り込まれて、どうやって生きていけばいいのか。


 神殿から引きずり出され、質素な馬車に乗せられる。その道中、俺の頭を占めていたのは恐怖と絶望だけだった。


 しかし、馬車の窓から流れる見知らぬ景色を眺めているうちに、ふとある思いが胸に湧き上がってきた。


(このまま終わってたまるか)


 俺には魔力はない。腕力もない。この世界で生きていくための特別な力は、何一つ持っていない。


 でも、俺には知識がある。図書館司書として何万冊という本に触れ、その内容を整理し記憶してきた知識が。歴史、化学、農業、医学、文学……ジャンルは多岐にわたる。それらは俺が元の世界で積み上げてきた、俺だけの財産だ。


 獣人国が文化的に停滞しているというのなら、俺の知識が役立つ場面があるかもしれない。


 そうだ、武器がないわけじゃない。俺の武器は『知識』だ。


 絶望の淵で、か細い一本の光を見つけた気がした。


 俺は馬車の揺れの中で、強く拳を握りしめた。生き抜いてやる。どんな場所であろうと、俺の知識を総動員して必ずこの世界で自分の居場所を作ってみせる。


 それは役立たずの烙印を押された、元図書館司書のささやかで、しかし確固たる決意だった。

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