超能ワールド
@Calbo
第1話 始まりの旅路
俺の名前は、エキルノ・ビティー。
みんなからは、確かキルノと呼ばれていた気がする。
気がつくと、ほとんどの記憶が消えていて、謎の港にいた。
俺が分かるのは――記憶を失っていること、そして別の世界からやってきたこと。
この二つだけは、確かだ。
ぼんやりと海を見ていると、足音が近づいてきた。
振り向く前に、少し柔らかい声が耳に入る。
「ねぇ、君……大丈夫?」
視線を向けると、青い羽を持つ女性が俺の顔を覗き込んでいた。
穏やかな目をしているが、どこか“ただ者じゃない”空気をまとっている。
「アナタは…誰ですか?」
気づくと、俺はその女性に問いかけていた
「僕の名はフレムだ!君はどこから来たんだい?」
フレムの問いに、俺は答えようとして――言葉がつっかえた。
「どこから……?……すみません。思い出せないんです」
フレムは一瞬だけ驚いた顔をしたが、すぐに優しい笑みを浮かべた。
「そっか。じゃあ無理に思い出さなくていいよ。
ここは貿易の国クエリオン。港に倒れてる旅人なんて珍しくないしね」
そう言って、フレムは俺の肩にそっと手を置いた。
触れた瞬間、胸の奥のざわつきが少し和らぐ。
「それにしても……君から変な“気”を感じるなぁ。
普通の旅人じゃなさそうだけど……当たってる?」
......多分、そうだと思います。
俺はーーこの世界の人間じゃないみたいなんです」
フレムの目が、わずかに細くなる。
驚きではなく、興味と普戒の中間みたいな表
情だ。
「なるほど。やっぱりね。
じゃあまずは......君自身のことを少し調べようか」
フレムはそう言うと、港の奥にある大きな建物を指さした。
「クエリオンの管理局。旅人でも迷子でも、みんな最初はあそこで手続きをするんだ。
記憶がないならなおさら、保護の申請もしなきゃ」
そう言いながらフレムは軽く羽を広げ、俺に背中を向けた。
「あ、そういえば君の名前をまだ聞いてない」
「エキルノ・ビティーです」
フレムは振り返り、にやりと片眉を上げた。
「エキルノ。ふむ、良い名前じゃないか。じゃあエキルノ君、行こう」
フレムは港の石畳を歩き出した。
その後ろ姿は軽そうで、けれど羽音の一つすら無駄がない。
見た目以上に"訓練された何か"を感じる。
俺は、建物へ視線を向けた。
巨大な白い塔が象徴的だ。
するとフレムは口を開く
「良い街だろう?あの白い塔は、取引と交換の記録を扱ってる場所さ。
エキルノの素性確認から、どのような力を保有しているのか、生活区域の割り当てや、交易路のルート変更、ありとあらゆる決め事は、あの白い塔クエリオンタワーで行われているよ。」
クエリオンタワーの内部は、外見以上に広かった。
白い壁は金属のように滑らかで、中央には太陽のような巨大な照明が吊られ、全体を淡い光で満たしていた。
フレムが受付に軽く話を通すと、職員は無言のまま俺を検査室へ案内する。
「緊張しなくていい」
フレムが肩を軽く叩く。
「ここではエキルノ君の能力を“見える形”にするだけだ」
検査室の中央には黒い球体が浮かんでいた。
脈動し、まるで心臓のようにドクドクと鼓動している。
職員が淡々と告げる。
「手をかざしてください。
あらゆる能力は、この《深層核(シン・コア)》が読み取ります」
俺が手を伸ばした、その瞬間――
「エキルノ君、ちょっと待った」
フレムがすっと前に出る。
「念のため、僕が監督するよ。
君の“気”は普通じゃない。
失敗したら爆発するタイプの機械だからね」
「……それ言うタイミング遅くない?」
「爆発と言っても、まぁ……そこまで影響はないよ」
(そこまでってなんだよ)
心の中でツッコむ間もなく――
黒い球体が震え、眩しい閃光が迸った。
バチッ!!
「うえっ!? な、なに……!」
「……超系統か」
フレムの声が低く響く。
しばらくして――ようやく結果が浮かび上がった。
【能力詳細】
名前: エキルノ・ビティー
分類: エネルギー・超系統
能力: 超電能(エレキ)
概要: 強い電圧と電力を力に変換し放出する能力。
フレムが微笑む。
「君の力は、これからもっと強くなる。
だから、焦らなくていい。まずはここで生活に慣れることが先決だ」
俺は黒い球体を見つめながら、小さく頷いた。
「……わかった。まずは、この世界で自分の居場所を見つけるところからか」
フレムが軽く羽を広げ、部屋の出口に向かって歩き出す。
「じゃあ、さっそくクエリオンの街を案内しよう。
君の旅は、今、ここから始まる」
街の石畳を歩くと、賑やかな声が聞こえてくる。
商人の呼び声、子どもたちの笑い声、遠くで鐘が鳴る音。
クエリオンの街は活気にあふれていた。
しかし、角を曲がった瞬間、騒ぎが耳に入る。
「キャーーッ!」
「危ない!」
見ると、小さな馬車が制御を失い、通行人を巻き込みそうになっていた。
子どもや老人が逃げ惑う。馬車を止める手段はなさそうだ。
「……まずいな」
フレムの目が細くなる。
「エキルノ君、やってみるか?」
フレムは微笑むが、どこか真剣だ。
俺は少し躊躇ったが、体が自然と動いた。
手を前に突き出すと、空気がピリッと震えた。
掌から電気が放たれ、馬車の車輪にそっと触れる。
バチッ!
馬車の動きが止まる。
音も振動もなく、まるで魔法のように馬車は静止した。
通行人はほっと息をつき、子どもたちは拍手した。
「すごい……!」
フレムが笑う。
「君の能力はまだ未知数だ。けど、こうやって人を助けることもできるんだよ」
俺は肩の力を抜き、少し笑った。
「助けられてよかった……」
フレムは羽を広げて言った。
「この街も、君の力も、まだ始まったばかりだ。
でも、君がここで学んでいくことは、必ず未来に繋がる」
馬車の騒ぎが収まった街角で、俺は初めて少しだけ安心した気持ちになった。
これが、俺の――新しい旅の始まりだ。
「うっ!?」
空気が異常に重くなる。視界の端で、黒いマントが滑るように動く。
「……ふむ、これが噂の“超系統”か」
冷たい声が耳を貫く。振り向くと、そこには青年が立っていた。
「俺はロイヤード…なぁ俺と遊ばないか?キミ」
キルノは息を呑む。
「……誰だ、お前は」
ロイヤードは微笑むわけでもなく、無表情で前に進む。
「キミの力、面白そうだな。少し遊ばせてもらおうか」
そして、その一言と同時にロイヤードは眼前まで迫っていた。
「冒険(キラー)!!」
その瞬間、本能的に死を予見し、咄嗟の判断で電撃を放ち、足止めに成功する。
「ちょーっとストーップ…ここでの争いは禁止だよ」
フレムはロイヤードを片手で受け止めた。
「くっ…なんて怪力娘だ」
「おチビちゃんが弱すぎるだけ…とりあえずここでの争いは犯罪だよ」
フレムがこの場に居なかったら今頃死んでいただろう。
「そんなに争いたいんだったら"戦の国九刻(キュウコク)"にでも行くんだね」
「フレムが居て本当に良かった助かったよ」
フレムは羽を軽く揺らしながら言う。
「エキルノ君。君はやっぱり、この世界で“普通”じゃない。あ〜悪い意味じゃなくてね。むしろ期待したくなるタイプだ」
その言葉が、ほんの少しだけ背中を押した。
通行人たちのざわめきが収まり、街の空気が戻り始めた頃。
フレムが俺に手招きする。
「さ、行こう。アイツは警察に任せて、今日はまだ案内する場所がいっぱいある」
〜つづく〜
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