第4話 異世界に来た理由
一方その頃、魔王城では――、
「魔王様がいない……」
魔王様の寝室に立ち入ったメイドは、その光景を見て顔が青ざめる。彼女はレアの専属メイドを担っており、言わば最も近い距離で支えていた女性。魔王城に住まう数多のメイドの頂点――。それが専属メイドなのだ。
失敗は許されない。不敬な行いをすれば、瞬時に首が飛ぶ。つまり重要な仕事なのだ。
日が昇る時間になると、彼女はレアの寝室に立ち入ることを許される。それ以外の時間帯は立ち入りを禁じられている。入ることを許されるのは先代の魔王――レアの父と、その妻である母のみ。
話が
そして当たり前のようにレアの失踪が明らかとなった瞬間、魔王城に住む魔族たちは混乱に陥ったのだった。
一方、現実世界では――、
「なぁ、レア」
「なんだ人間」
俺が作ったオムライスを分けたことで、ほんの少しだが信頼を勝ち取ることに成功した。本来ならレアのことを『魔王様』と呼ばなければならない。
しかし食べたそれがとても美味しく気に入ったようで、また作ることを約束したら意外にも名前呼びを許された。
そんな彼女は今、俺の自室にあるベッドに寝転がり漫画を読んでいた。本棚には学生の時から集めているそれらがあり「自由に読んで良いよ」と許可を出すと、
「俺は人間じゃなくて松本浩司っていう名前が――じゃなくて!」
「
彼女が読んでいるのは少年漫画。本棚にあるそれらは
つまるところ、レアが興味を示す漫画がないのでは心配していたのは
「――どうしてこの世界に来たの?」
作品にもよるが大抵は、魔王と敵対する存在がいる。最も可能性が高いのは勇者。魔王を討伐する為に困難な修行を繰り返し、世界の平和を望んでいる心優しい人物。対して魔王は世界の征服を企む、悪しき存在。
両者が戦うのは定めであり、逃れられない運命。もしかして異世界で何かあったのでは――。俺はレアの身を案じていた。しかしどうやら、それも杞憂だったようで。
「……心配してくれるのは嬉しいが、貴様が思っているよりも深刻な状況ではないから安心しろ」
「じゃあ一体なぜ……」
そう問い掛けると彼女は漫画をパタリと閉じ、恥ずかしそうに頬を掻いた。
「い……」
「い?」
「……家出だ」
「………………………………」
俺は斜め上過ぎる答えに、言葉を発することが出来なかった。
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