3



どうしよう、その長く形の良い脚を止めてしまった……!


やり直したい。 リセットボタンを……と思ったところで、今はそんなものはない。


「何か……?」


低く艶のある声が、その色気タダ漏れの視線が、私の身体を縛り付けて虜にする。


どうか、私のものに――!


「今、ちょっと、いいですか? お話、が、ありますっ!」

「急ぎ?」


抑揚のない声が、間髪入れずに返って来る。


「は、はい! あまり、猶予はないです(私の人生において)」


身体の半分だけでこちらを見ていた桐谷さんが、真正面から私と向き合う。


「ちょうど、そこに、カフェテリアが! そこで、お話、いいです、か」


あなたを手に入れるために、私は今日、生まれ変わります!


「あ……あぁ、じゃあ」


桐谷さんがカフェテリアに入って行くのに付いて行った。


自分の決意が揺らがないうちに――。


「で、話って――」

「私、桐谷さんのことが好きで。だ、だから、まずは、恋人から、どうでしょうか!」


すぐに言葉にして、勢いよく頭を下げた。


い、言ってしまった……。


遠回しでもない、なんとなくでもない、どストレートな言葉を。どんな他の解釈も許さない、どんな勘違いもさせない、”告白”するということにおいてはパーフェクトな言葉なはずだ。


……とは言え、間違いなく正しく伝わる言葉を放った今、桐谷さんの顔を真正面から見つめることができるほど、私は自信家でも強い心を持った人間でもない。だからこうして、必死に頭を下げたままお言葉を待つ。後頭部を桐谷さんに晒し続ける。


「……ちょっと、待って。そういう話?」

「は、はい。そういう、話です!」


少しの、いや、果てしなく感じた沈黙の後、桐谷さんの声が耳に届いた。それでもまだこの顔は上げられない。


――。


溜息……頭上から、溜息と思われるものが降って来て、打楽器と化していた身体が乱打された末に壊れそうになる。


「もう、いろいろとツッコミどころ満載で、どこから指摘していいのかもはや分からないんだけど……」


溜息交じりの面倒そうな声が、より一層私のいたいけな身体にずけずけと突き刺さっていく。


「それ普通、『友達から』って言わない? それに、“まずは”って、その後には何が待ってるの」


その後――そんなの、決まってる。


「結婚、じゃないでしょうか」


私は衝動的に顔を上げた。そこには、私をじっと見つめている桐谷さんがいた。


「……」


桐谷耕一がほしい。私が好きなのは、桐谷さんだからだ。


「よろしくお願いします!」


固く目を閉じ、もう一度頭を下げる。ここまで言ったのだ。自分の気持ちを伝えてしまったのだから、もう後には引けない。


変わりたい。変わるって、決めたのだ――。


「――ところで君、誰?」

「……え? あ……」


私の人生を懸けた決意なんて知ったことじゃないという問いを投げかけられた。


”君、誰?”


その言葉が、過去の自分をフラッシュバックさせる。


十年以上前に乗り越えて、自分という人間を知りわきまえて平和に生きている私に、生々しい痛みを甦らせようとする。


思わず胸に手を当てる。


でも、ここで逃げたら、私はまた同じ場所に戻ってしまう。何一つ変われない。変わらなければならないんだ。



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