第28話 些細な揉め事

 里親の法整備なんかはグレンさんへとお願いし、新しく受け入れた子供たちも加わり孤児院は賑やかになり始めていた。


 そんな時、元気な子供が増えればいざこざも起きるというもの。それが、預かるという難しさ。そして、心に傷を負っている子供達との共生の難しさだということを実感していた。


 俺は、孤児院の使用人をしながら時間があるときはミレイさんの手伝いで子供達のことを一緒に見ている。


「ボクがお世話するのぉ!」


「ルナがやりたいのっ!」


 今は五人ほどの子供を預かっているのだが、赤ん坊は最初の一人であとは二、三歳のヤンチャ盛りが多いのだ。そんな中での揉め事。


「あらぁ? 仲良く二人でしたらいいんじゃない? シオンはどっちにもお世話してほしいんじゃないかしら?」


 ミレイさんがうまく収めようと二人の肩を撫でながら宥めている。


「ボクは、いいけど……」


「ルナは一人でやりたい!」


 ここまで自己主張の強いルナは初めて見た。一体、何がそうさせるんだろう。たしかに、赤ん坊に固執している感じはあったが。


 ちょっと二人を一旦引き離そうと考えた。


「ルナ。ちょっとこっちで俺と話さないか?」


 小さく頷くと俯きながら俺について来てくれた。ここは素直について来てくれてよかった。これを拒否されたらどうしようかと思ったところだ。


 部屋の隅の方へと移動して、ルナと一緒に床へ座る。最近は子供達とよく遊んでいて明るくなってきたなぁと思ったところだったのだ。


「ルナ。赤ん坊のお世話をするのは凄くいいことだと思う。それを何かいうつもりはないんだ」


 優しく声を掛ける。ここで頭ごなしに怒っては心を閉ざしてしまうと思うから。


「でもな、他にもお世話したいって人がいただろう? 一緒にやったらいいんじゃないかなぁと思うけど、どうして一人でやりたいんだ?」


 俯いているルナの顔を見つめながら口調を優しくして声を掛ける。


「一人がいい」


 んー。これは参った。どうしても一人でやりたいけど、明確な理由を口で言えないのかもしれない。そういう時はどうしたらいいか。


 以前にサンが話していたな。ルナはここへ住むようになって弟か妹が欲しいというようになったと。


「ルナは、弟か妹が欲しいと思う?」


 それにはコクリと頷いた。まだ下を向いたままで唇を尖らせている。


「シオンが弟だとすると、ルナはもちろんお姉さんだな。でもさ、ここにいる他のリンク、ココ、レイラ、サンだってお兄さん、お姉さんってことになるんだぞ? 他の預かっている子供達もな」


 まだ唇を尖らせたまま納得していない様子だった。なんといえば納得してくれるのか。難しい。


「……ルナは、サンがお兄ちゃんだろう?」


「そうだよ?」


 少しこちらへ視線を向けてくれた。質問を変えて答える気になってくれたみたいだ。


「じゃあ、リンクは?」


「リンク兄は……」


 自分で兄と呼んでいることに気が付いていないのだろうか。最近、リンクのことをリンク兄と呼ぶようになったのだ。


 リンクは、薬草採りの冒険に出て俺と話をして以来、少しずつ話すようになったのだ。顔も少し明るくなったと思うし、なによりみんなとよく遊ぶようになった。


「お兄ちゃん?」


「二人お兄ちゃんがいるっていうのは、どう思う?」


 首を傾げて少し考えている様子だ。「うーん」といいながら指を触ったりして考えている。自分なりの答えをひねり出そうとしているんだろう。


 考えて自分の答えを見つけようとすることは良いことだと思う。


「なんか、得した気分」


「ぷっ! なんで得した気分なの?」


 思わず吹き出してしまった。どういう得した気分なんだ?


「だってぇ、二人とも優しくしてくれるし、なんでも言うこと聞いてくれるから」


 これはいけないな。ルナが魔性の女みたいになってしまいかねない。兄二人をいい様に使っているということだろう。


「なるほどな。そっか。じゃあさ、シオンもそう思うんじゃないか?」


 これには、目を見開いて驚いているルナ。

 自分がどうしたいかということだけを考えていたと思う。

 シオンはどう思うかな?


 赤ん坊だから、まだ気持ちを聞くことはできない。

 でも、自分がそう思うんだから、シオンもそう思うのではないかという逆の立場で考えることはルナならできると思う。


「そっか……私一人より沢山の人にお世話された方が得か……」


「シオンもそう思うかもな?」


「わかった! じゃあ、みんなでお世話する!」


 立ち上がって太陽のような笑みで言い放ちシオンの元へ駆けて行った。ミレイさんがウインクしてくれた。よくやったと褒めてくれているのかもしれない。


「凄いですよ。よく、ルナを納得させられましたね」


 横から見ていたのであろう。エミリアさんが近づいて声を掛けてくれた。

 フローラルのような甘い香りが鼻を抜けていく。

 花のお世話をしていたからかもしれないが、自分の顔が熱くなっている。


「い、いやぁ……この前、サンとみんなこの家で過ごしている人は家族だって話をしたばかりですし、みんな兄弟なんだよってことを言いたかっただけなんですけどね」


「自分の子供のように思っているから。そういう優しい気持ちで接しているから、気持ちが届いたんじゃないですか?」


 微笑みがらそう言われるとなんだか照れるなぁ。


「そうでしょうか。それなら、嬉しいです。もう、自分の子供のように思っていますから……。子育てしたことないんですけどね」


「ふふふっ。それは、私もです。そろそろお昼ご飯作りましょうか」


「あっ。やります!」


 一緒に厨房へと歩きだす。


「ゴホッゴホッ……ゴホッ」

 

 前を歩きながら咳き込んでいるエミリアさん。


 顔色悪い気がするし、なんだか最近よく咳き込んでいる。

 

 嫌な予感が過ぎったが、今は昼ご飯を作ろうという考えで塗りつぶしてしまったのだった。

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