第26話 一つ屋根の下

 子供達を伴ってミレイさんは女の子の部屋へと行った。その後、部屋に残ったのは俺とグレンさん。チラッと視線を向けると苦笑いしていた。


「非常に聞きづらいんですけど……」


「あの子のことか? あれは愛人の子だ」


 うわぁ。思った通りの答えで背筋が凍えた。ミレイさんのあの低い声はそういうことだったんだ。まぁ、この世界の貴族に愛人なんて沢山いるんだろうけど。


「オレはな、子孫を沢山残そうとしたんだ」


 開き直ったようにそう口にするグレンさん。俺は別に何も言っていないけど、完全に言い訳のような一言だけど、大丈夫だろうか。


「そうだったんですね。でも、それでミレイさんが納得したんですか?」


「するわけがなかろう」


「ですよねぇ」


 遠い目をしているグレンさんを憐みの目で見てしまった。


「そんな目で見るなっ!」


「すみません。つい……」


「ったく。わかってるさ。一筋なのがいいってのは、でもよぉ。アイツ、構ってくれないんだぜ? アイツも悪いだろう!」


 声が大きくなってヒートアップしてしまうグレンさん。ちょっと手で口を塞いでしまった。


「あんまり声大きいと聞こえますよ!」


 必死に抑えたが、入口から足音がして冷汗が流れる。足音の主が姿を現し、グレンさんの顔面も蒼白になる。


「あなた、聞こえてますわよ?」


「い、いやぁ。これはだなぁ。いや、オレが悪いです。すみません!」


 頭を下げるグレンさんを不思議そうに見つめる子供達。エミリアさんだけがクスクスと笑っていた。その様子を見るに、結構聞こえていたのかもしれない。


 ミレイさんはすました顔で子供をあやしながら部屋の椅子へと腰を下ろした。少し散歩したことで赤ん坊は眠くなったようだ。


 目を細めて眠そうにしている。その手を子供達が一人ずつ指で触って、握られてはキャッキャと嬉しそうに騒いでいる。


 赤ん坊と接するのもいいかもしれないな。自分より下の子供がいるっているのは、成長するのにはうってつけの環境かもしれない。


「グレンさん、ありがとうございます。子供達も喜んでいるし、成長するにはいい環境だと思います」


 頭を下げると、グレンさんは照れ隠しに頭を掻いて笑った。


「はははっ。ロイの役に立てたならよかった。それで良しとしてもらおう!」


 また最後の一言が余計で、ミレイさんから睨まれてしまっていた。

 赤ん坊へ頻繁にアプローチしているのがルナだ。

 そんなに面倒を見たがるなんて意外だった。


 いつもは引っ込み思案であまり話もしない。自分のことはしっかりやるが、他人にはそこまで関心がないような子だと思っていたのだ。


 少し離れたところでサンが微笑みながらルナの様子を見ていた。その顔は完全に兄の顔で、妹の幸せを喜んでいるかのような優しい微笑みだった。


 近寄って声を掛けた。


「サン、嬉しそうだな?」


「うん。嬉しいよ。ルナはずっと弟か妹が欲しかったんだ」


 そんな話は初めて聞いたな。親が亡くなっているし、兄弟はサンがいる。だから、そんなことを思っているとは考えもつかなかった。兄弟の中で一番下の甘えられるポジションが良いという子もいる。


「そうなんだな。それは昔からなのか?」


「うん。孤児院に来てからかな。みんなと出会って、なんか下の兄弟が欲しくなったみたいなんだ」


 環境が変わって考え方が変わったのかもしれないな。ただ、兄弟ってのは何も血のつながりが全てではないと俺は思う。


「これは、ルナに話した方がいいかもしれないがな……。兄弟ってのは、血の繋がりだけじゃないと思うぞ?」


「そうなの? でも、ルナとは兄弟だけど、他の奴らは違うよ?」


「考え方次第だと思うんだ。同じ屋根の下で何年も一緒に過ごしていたら、血のつながりがいなくてもそれは兄弟といってもいいんじゃないかなぁって。まぁ、それでもルナが一番下だけどな」


 俺の顔をマジマジと見るサン。首を傾げながら俺の言っていることを飲み込んでいるんだろう。少し考えると大きく頷いた。


「たしかに、そうかもしれないね。それは兄弟だ」


「だろう? リンク、レイラ、ココ。みんな兄弟だ。シオンも兄弟ってことだ!」


「うん! それじゃあ、エミリアさんも、師匠も家族だね!」


 突然の不意打ちに俺は、込み上げてくるものを抑えきれなかった。俺なんかが家族でいいんだろうか。剣を抜くと人が死ぬ俺なんかが。


「俺が、家族でいいんだろうか?」


「えっ? だって、一緒に暮らしてるじゃん。もうさ、エミリアさんがお母さんで、師匠はお父さんだよ!」


 声を大にしてそう話すサンを優しそうな目で見ているエミリアさんの目にも光るものがある。俺はと言えば、我慢できずに目から零れ落ちてしまう雫。


 グレンさんが近づいてきて背中をさすってくれた。


「ロイよ。子供がこう言ってくれているんだ。受け入れてもいいんじゃねぇか?」


「そうでしょうか。俺でいいんでしょうか。この子達の父親なんて務まるんでしょうか……」


「子供達を見て見ろ。みんなロイに心を開いている。それが何よりの証拠なんじゃねぇのか?」


 そんなこと言われたら嬉しすぎて泣いちゃうじゃないか。こんな俺でも、人の親になれるのだろうか。この子達の幸せを願っている。そうであれば、やれることはまだまだある。


「すごく嬉しいです。この孤児院の父親ということにします」


「どういうことだ?」


「実は、里親という制度を作りたいんです」


 初めて聞く言葉だからだろう。グレンさんは眉間に皺を寄せて首を傾げた。


「どういう制度なんだ? サトオヤというのは聞いたことがないな?」


「それはですね──」


 グレンさんへ里親の説明をすることになるのだが、ミレイさんもエミリアさんも興味深々に聞く体勢になっていた。


 これが、この世界の孤児を救う制度になることを願って、前世の知識を話す。

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