第14話 エンファイア家
門を通ってから北へ一ブロック行くと、その後西へ二ブロック行くと右の角地だったはずなんだけどなぁ。こんな豪邸だったかなぁ?
眼前に建っている建物は、現代の八世帯アパートぐらいの大きさがある。それが赤い外壁になっていて、屋根も燃える様な赤だ。
「こんなんだったっけなぁ?」
前に来た時はもう少し家っぽい形だった気がするんだけど……。
「ロイさんの伝手って、この豪邸の方なんですか?」
「……だと、思います。たぶん……」
門の所にあるドアノッカーを叩く。これは魔道具で、連動して中の魔道具が音を鳴らす仕組みだったはずだ。これで出てきてくれると思うんだけど。
少しすると、門が少し開いて執事のような男性が顔を見せた。
「どちら様でしょうか?」
「あっ、すみません。私、勇者ロイという者です。ここは、グレン・エンファイアさんのご自宅で合ってますでしょうか?」
「おぉ。ロイ様ですか。お久しぶりでございます。旦那様もさぞ喜びます。ささ、中へどうぞ」
俺のことを知っている風な執事さん。よかったぁ。でも、この人あったことあったかなぁ。キリッとした目で金髪をオールバックにし、眼鏡をかけてキッチリしたワイシャツにベストを着用している。
見覚えのない執事さんに案内されるがままに中へと入る。目を見開いて驚いているのは、エミリアさんだ。家をキョロキョロと見ていて、都会に出て来た田舎者みたいだった。
重そうな玄関のドアを開けると、中へ入る。
甘い花のような香りが鼻から入ってくる。
その匂いで、昔の出来事が想起した。
昔……。
「お主、強いんだってな! 私と勝負しろ!」
長い髪を振り乱しながら俺の元へと近寄り、剣を向けてそう宣言してきたのがグレンさんだった。
「いやいや、俺の力は殺してしまうから使えないです」
俺は遠慮してそう断ったのだけど。その断り方が気に入らなかったみたいで、余計しつこく迫られることになった。
「はっ! そう簡単には殺されん!」
「んー。わかりました。じゃあ、俺は木剣でやりましょう」
その言葉にグレンさんは顔を真っ赤にして頭からは湯気が立っていた。怒りの余り熱を帯びたらしい。一体どういう体をしているのか。
「ナメ腐りおってぇぇ!」
突如、剣で切りかかってきた。
仲間が投げてくれた木剣を受け取り、手を鞘に見立てて抜剣。
グレンさんは腹のあたりが大きくへこみ、吹き飛ばされた。
「すみません。咄嗟に力を使ってしまいました……」
頭を下げると、結構なダメージがあったと思う。でも、お腹に手を当てながら笑い出したのだ。
「ガッハッハッハッ! やはり、勇者というだけあるわ! 私が足元にも及ばぬとはな!」
立ち上がると、近寄ってきて肩を力強く叩かれた。
そして、目を見ると「この世界を頼んだぞ」と言われたのだ。
この人ほど、俺が世界を救うと信じてくれた人は、いなかったのではないだろうか。
脳裏に映ったグレンさんにちょっとシワを足したくらいの人物が部屋から出て来た。
「来客は、誰だったんだ?」
そう言いながら俺と目が合うのは、長い赤髪に精悍な顔立ち。この顔には見覚えがある。あっちも目を丸くしている様子だった。
「……ロイか?」
「そうです。グレンさん。お久しぶりです」
何故か、目を潤ませて抱き着いて来た。そして、背中をさすって肩に顔を埋めた。なぜこんな対応をされるのかが俺にはわからなかった。
「……お主、なんで、魔王を倒してから姿を消したんだ? あの時、心無い言葉を投げた奴らがいた。それで消息不明になったから、死んだのかと思ったんだぞ!」
肩を凄い力で掴まれ、涙を流しながらそう告げられた。
そういう風に心配されていたなんて知らなかった。
もしかして、知り合いはみんな心配していたんだろうか。
俺としては、ただ引退して何気ない日常を過ごしているだけだったんだけど、それが消えたと思われていたのか。
「それは、すみませんでした。あれ以降、勇者は引退したんです。勇者だったっていうと、被害を受けた人からもっと早く倒してくれればとか……そんな言葉を言われるようになったので……」
また抱きしめられて背中をバンバン叩かれた。痛いんだけど、それも言える雰囲気ではない。かなり心配させてしまったようだ。
「ロイが責任を感じることはない。あれは、国王が悪かったのだ。自分の身を守る為にロイたちを王都に配置していたのだから」
あれ以来、暴動が起きて国王は代わっている。民衆をまとめていたリーダーが国王へと成り上がっていて、絶大な人気者となっている。
「まぁ、俺達は何も言えませんでしたからね」
「いや、私も何もできなかった。武闘派が呆れる。すまなかった」
「そんなことないです。ただ、魔王を倒した後はなるべく姿を消したくて……それで、清掃業者になって身を潜めていました」
突如、壁を殴りつけたグレンさん。
「なんで、私に声を掛けてくれなかったのだ! そんな汚い仕事しなくても、金ならなんとかしたのに!」
「ありがとうございます。ただね、そういう仕事をしたから、見えてきたことがあったんですよ。今は、孤児院の使用人をしています」
グレンさんは、口をへの字にして腕を組むと口を開いた。
「孤児院など、この街にあったか?」
まさか、知らない人がいる?
だとしたら、ただ知らないだけで支援してくれる人は沢山いるのかもしれない。
「エミリア孤児院というんですが。ご存じないでしょうか?」
エミリアさんが遠慮しながら、声を掛けた。
「いや、知らんな。どこで運営しているのだ?」
「街の北側の郊外にあるんですが……」
眉間に皺を寄せて怪訝な顔をすし、天を仰ぎ目を瞑った。
「どうしました?」
俺が声を掛けたが、「うーん」と唸って何か考えているようだ。
「そこは、近付くなと言われた場所だ……」
「誰にです?」
「……街の領主だ」
俺の中で合点がいった。おそらく……今回、寄付を取りやめた貴族も領主の息のかかった一族だ。二家ともそうだということだろう。
他の貴族には、孤児院を知られないようにしていたんだ。根回しをして、自分の都合のいいように操作していたんだ。
なるほどな。そうとわかれば、やれることがある。
「グレンさん、実は……」
グレンさんへ相談を持ち掛けることにした。
これは、領主に一泡吹かせられるかも。
やられっぱなしだと思うなよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます