第4話 過去の挫折

「あれは、冒険者として旅に出て二年経った頃のことだったかな……」


 あの頃のことを思い出すと、今でも胸が苦しくなってくる。


「冒険者でパーティを組んだのは、それが初めてだったんだ」


 脳裏にその時の光景がよみがえる。


 冒険者ギルドでパーティ募集の張り紙を見ていると、後ろから声を掛けられた。


「ねぇねぇ、剣を下げているってことは剣士だよね?」


 振り返ると、ピンクの肩まである髪を揺らしながらこちらへ近寄ってくる魔導書を持った女の子。目がクリッとしていて、背の低いかわいい子だった。


「あ、あぁ。そうだ。次の獲物は、ちょっとソロだと厳しいって言われてさ……」


「私たちね、前衛探してるの!」


 んー。”私たち"か。ということは他にもいると。


「あぁー! アンナがナンパしてるー!」


「ちょっ! 違うよー! 剣士だから、パーティに入ってもらおうと思って!」


 必死に否定している顔が赤くなっていて、かわいいなと不意に思った。これは、俺の初恋だったのかもしれない。


「ウチはレイ! こっちは、ゾンドだよ!」


「よろしくなんだな」


 後ろからやってきたのは、赤い短髪でキリッとした目の活発そうな女だ。ローブを被っているところを見ると、魔法士のよう。その後ろには体格のいい盾を持ったタレ目で坊主頭の男。


「三人でパーティ組んでるのか?」


「そうなの。でもね、中々息の合う前衛の人がいなくて……」


 その三人は地元が一緒で、仲が良いんだそうだ。そんなところに俺が入ったら、邪魔になるんじゃないだろうか。


「俺も、ソロでしかやったことないから、パーティ初めてで……」


「そっか。よかったら、やってみない? 私、アンナ!」


「……俺は、ロイ」


 何の依頼を受けようとしていたのかと聞かれて、自分の受注しようとしていた依頼の掲示を確認する。そこに張られていたのは、ゴブリン村の排除だった。


「まだDランクなんだけど、この依頼に成功したらCランクへ上がれるんだ。排除するだけならDランクだと思うんだ。それなら俺だけでもいけそうだったんだけど……Cランクになってて」


「えっ? 女性の救助も⁉」


 アンナは依頼書を見て驚きの声を上げた。それはそうだろう。同時に救助と排除が一つの依頼になっていることは珍しい。だけど、それだけ緊急性が高いということだろう。


「そうなんだ。だから、女性がいないパーティにしようと思ってたんだ」


「そんなの関係ないよ! 私たちだって、Dランクだよ? 四人で行けば依頼達成できるよ!」


「いいの?」


 アンナは頷いて、レイとゾンドへ視線を送ると同じように頷いた。三人の了承を貰ったから、この依頼を四人で受けることにした。


「目標地点へ行く前に、連携を確認するよ!」


 ギルドを出て街の外へと移動している最中にレイが元気よく宣言する。それにアンナとゾンドはちょっと呆れたような顔だ。


「そんなに張り切ってぇ。私たちっていうより、ロイがやる気ないと意味ないんだよ?」


「むー。そうだけどさぁ、やる気あるよね⁉ ロイ⁉」


 俺に近寄って顔を近づけて来る。顔が近くて体を仰け反ってしまう。


「あ、あるよ……」


 顔が熱い。ヤバい。絶対赤くなってる……。


「近いよ! レイ!」


「えっ? あぁ。ごめん」


 頬を膨らませているアンナが怒鳴り、俺も慌てて離れた。


 ちょうどいい具合に、離れたところにブラックウルフがいる。あれはDランクだが、素早いだけに連携が大事になる。


「あれを狩ってみようか?」


「よぉーしっ! 行こう!」


 レイが勢いよく駆けて行ったが、彼女は後衛職のはず……。


 俺とゾンドが慌てて追いかける。

 接敵したレイは、ファイヤーボールを放つ。

 気づいたブラックウルフが横っ飛びで避ける。


 レイの方を向くと駆けて来る。

 間に合わないかもしれない。

 体を縮めるレイ。


 咄嗟に俺は剣を投擲する。

 ブラックウルフは一旦止まって避けた。

 ただ、その数瞬だけでよかった。


 ゾンドが盾を持ってブラックウルフへ突進する。

 鈍い音と共にキャンッと声を上げながら吹き飛んだ。

 着地するとまたこちらを向いて警戒する。


 ゆっくりと近づいて投げた剣を拾う。


 剣を構えて、後ろの様子を窺う。

 レイはまだいけそうだった。

 体を少し横にずらす。


「ファイヤーアロー!」


 すかさず速度のある魔法を放つ。

 魔法に意識が言っているうちに肉薄する。

 炎の矢がブラックウルフに掠ったところで、俺の剣が首に叩きつけられて絶命する。


 足に激痛が走る。

 崩れ落ちて確認すると、足を噛まれていたようだ。

 紙一重だった。危なかった。


「ヒーリング!」


 魔導書をもって手をかざすのはアンナ。

 仄かなピンク色の光が足の傷を治してくれている。


「ありがとう。アンナ」


「ふふっ。いいよ。気を付けてね?」


「うん」


 こんなんで怪我してちゃだめだな。しっかりしないと。


 そこから目的地までは問題なく行けた。目視でゴブリンの村があることを確認する。


「あそこね! 魔法をぶっぱなしてやりましょう!」


「レイ、攫われた人を助けてからだぞ?」


「わ、わかってるわよ!」


 村の入り口にはゴブリンが見張っている。側面に行くと穴が空いている箇所があった。そこから侵入する。


 四人は目立つ。俺とアンナ。ゾンドとレイにしよう。二組で攫われた人を探すことにした。


 一つ一つ、小屋を開けて確認していく。

 真ん中あたりの小屋に手足を縛られて服が乱れている状態の女性を見つけた。

 アンナが上着をかけて上げると俺が急いで担ぎ、村の外へ駆ける。


「キャーッ!」


 村の外へと丁度出た時だった。レイの悲鳴が聞こえた。アンナに女性を任せて中へと戻る。


 目に入ったのは、腹を抉られているゾンドだった。その目の前には二回り位大きな体のゴブリンロードが大きな鉈をもって立っていた。


 夢中になって駆ける。

 ゴブリンロードは単体でCランク。

 ゴブリンも加わるとなればBランクに相当するかもしれない。


 鉈を振りかぶったゴブリンロード。

 それに合わせて飛ぶ。


「おぉぉっ!」


 剣を上段から振り下ろして鉈と交錯する。

 鍔迫り合いが拮抗する。


「ゾンド大丈夫か⁉」


「だいじょう……ぶ。なんだな」


 鉈を振り回して弾かれた。

 よく動きを見て攻撃すれば当たるはずだ。


 鉈をまた振り上げた。

 これなら、横へ移動して回り込む。

 その時、俺は鉈しか見ていなかった。


 ゴシャッという音が耳元で響き、左顔面に激痛が走った。


「がぁぁ!」


 微かに拳の裏が見えた。

 裏拳をくらったらしい。


「ロイ!」


 甲高いレイの声が響き渡る。

 微かに見えるのは、鉈を振り上げるゴブリンロード。

 目を瞑ってしまう。


 何かが切られる音が耳に入るが、痛みがない。

 恐る恐る目を開けると、肩をザックリ切られたゾンドだった。


「ゾンドォォォ!」


「逃げるんだな」


 こちらをチラッと見ると、前を向くゾンド。


「そんな!」


「早くするんだな! 助けを求めるんだな!」


 俺は、何もできないのか……。


 レイを連れて下がる。

 それを嘲笑うようにゴブリンロードが、ゾンドを盾ごと上下真っ二つに切り裂いた。


「ゾンド。く……くそがぁぁぁぁ! ぜってぇゆるさねぇぇ!」


 体に力が漲ってくるのがわかった。得体の知れない何かから力が湧いてきている。


 腕から剣まで、青い湯気が出ている。

 それを認識すると、振えばいいと直感で合点がいった。


「うおぉぉぉらぁぁぁ!」


 がむしゃらに剣を振り回した。


──ザンッ


 何かが切れた。

 そう思って周りを確認すると、見渡す限り後ろも全て真っ二つになっていた。


 そう、なにも、かも。


 それから自死を考える程落ち込んだが、それではアンナ達に申し訳が立たないと、力を必死に制御した。

 その時のような惨劇を起こさないために。


「俺は、自分が強いと思っていたんだ。なのに、誰も救うことができなかった。調査不足もあったしな。冒険者ってのはな、魔物を倒してカッコいいってだけじゃないんだ」


 頬を伝う涙を拭きながらサンへ伝える。


 こういう思いをする職業だということをわかって欲しかった。


「自分の命を懸けるのはもちろんだが、仲間の命も預かっている。そういう重い職業なんだ」


 サンは下を向きながら、何か考えているようだった。


「その後、ロイさんはどうしたの?」


「力を制御して、新たに仲間を迎えた。それでなんとか強敵を倒したが、全員を守ることはできなかった」


 こちらを向くと、目を射抜かれるかと思うくらい見つめられる。


「それなら、死んでいった仲間は無駄じゃなかったね?」


「えっ?」


 サンの目はキラキラしていた。なんでこの話を聞いてそんな目ができるんだ。


「だって、能力が目覚めて、制御できて、強敵を倒せたんでしょ? それなら、死んだ人も浮かばれるよ」


 この子は、一体何歳なんだろうか。

 冒険者が何たるかを教える為に話したのに、逆に俺が教えられた。

 死んでいった人に支えられて生きている限り、その人たちの死は無駄じゃないんだと。

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