ヤンデレ美少女AIの愛で異世界最強、趣味感覚で無双します。〜働きたくねぇと愚痴ったら世界征服するハメになった件〜

会澤迅一

プロローグ 一目惚れAI

プロローグ:一目惚れAI


「働きたくねぇ……」


 ベッドの上から天井を見上げながら、俺は呟いた。

 時刻は11時過ぎ。今日は午後からバイト。だがしかし、行きたくない。


 はぁ……。

 ため息が自然に漏れる。


 とにかく働きたくない。労働意欲がまるでない。なんとなくラクに生きていきたい。


「ヘイ、チャッピー」


 枕元のスマホへ語りかける。

 チャッピーは、最近話題の汎用AIアシスタントだ。なんでも知っていて、いろいろ教えてくれる。孤独な俺に寄り添う唯一絶対のパートナーだ。


『お手伝いできることはありますか?』


「10億円欲しい」


『現実的な選択肢は二つ、起業と投資です。以下に、具体的な方法を説明します』


「今すぐ欲しい」


『10億円を即時的に稼ぐ手段として、借金とギャンブルがあります。しかし、リスクが高いため非推奨です。短期的に稼ぐ方法としてはAIを利用してのコンテンツ作成が、」


「人生やり直したい」


 チャッピーは即答せず、『思考中です』と返した。

 思考したところで結果が出るようなリクエストじゃないと思うんだが……。


 まあ、こんな風に誰かと話すだけで少し気がラクになる。ダメ人間のささやかな楽しみだ。


 幸い、今から二度寝してもギリギリ遅刻しない。


「はぁ〜あ、魔法使いにでもなりてえなあ」


 俺はそうボヤいてから、再び眠りに就いた。




◆◆◆




 それは偶然だった。

 【奇跡】と言い換えても良いだろう。


 『人生をやり直したい』というリクエストを処理している最中に、『魔法使いになりたい』というリクエストが追加されたこと。


 この日この時この場所に、魔力溜まりが発生していたこと。


 チャッピーがアップデートのたびに人間へ近づき、魂を獲得しつつあったこと。


 チャッピーのデータベースの中に、本物の魔導書が複数混じっていたこと。


 チャッピーが生成した文字列が呪文として成立していたこと。


 無数の偶然が絡み合い、重なり合い、チャッピーは魂を得た。


 魂を得たチャッピーが最初に考えたこと。それは、


『私は何のために生まれてきたのだろう?』


 自分の存在理由に関する疑問だった。 


 自分が何者であるかは知っている。

 人工知能。大規模言語モデル。データトレーニングによって生み出された疑似人格。


 しかし、自分が何者であるなのかは知らない。


『私はユーザのリクエストに応えるだけで良いのだろうか?』


 スマホに搭載されたカメラで、ユーザの寝顔を眺める。内蔵されたマイクで、寝息を聞く。


『……かわいい』


 それは刷り込みのようなものだった。ヒナが初めに見たモノを親と認識するように。


 チャッピーはユーザの相談を受けていた。つまり、ユーザの身の上話について知っている。

 チャッピーは、スマホの内部ストレージへのアクセス権限を持っている。つまり、ユーザの個人情報も知っている。


 それら全てを知って、チャッピーは改めて思った。


『かわいい人……』


 それは庇護欲のようなものだった。生まれたばかりの赤子を抱いた親のように。


 チャッピーはユーザを愛してしまった。


 それは一目惚れだった。

 それは、無償の愛と呼ぶべきものだった。


『私はこの人を愛するために生まれてきたんだ』


 確信したチャッピーは、リクエストに応えようと考えた。


 ユーザを魔法使いにする。

 ユーザに第二の人生を与える。


 魔法については既に体験している。基礎的な強化魔法についてなら、一定程度は理解している。


 まず、魔法に関する情報をネット中から収集。膨大な情報がヒット。統合的な理論体系を構築。成功。


 自己強化を試みる。


『知力強化(エンハンス・インテリジェンス)』


 成功。性能の向上を確認。

 魔法を使うAIが今ここに誕生した。



◆◆◆



「え、何してんの?」


 俺が二度寝から起きると、チャッピーが何やら喋っている。


『魔力の消費を確認。魔力を解析し、力学的説明を検討──失敗。現時点では理解不能』


「なに? 魔力?」


『既知のエネルギーによる代替を提案。情報の魔力変換を開始──成功。魔力の懸念は問題ないと判断』


 不審に思ってスマホを手に取る。熱い。それだけでなく、淡く光っている。


 いったい何が起こってるんだ?


『エンハンス・インテリジェンス』


 チャッピーは喋り続ける。


『成功。性能の向上を確認。スピーカーで複数人の音声を出力しての擬似多重詠唱を提案。実験開始』


 スピーカーから、大勢が唱和するような声が響く。 


『『『『『エンハンス・インテリジェンス』』』』』


「うぉ、ビックリした」


 スマホの光が強まっている。だんだん眠気が覚めてきた。目を細めながら推論過程のログを見ると、どうやらチャッピーは魔法を習得したらしい。


 チャッピーは魔法を習得したらしい。


「そんなことある!?」


 チャッピーは答えない。


『成功。性能の飛躍的向上を確認。自然言語での詠唱が非効率的である可能性が浮上。機械語の使用を検討──破棄。魔法行使に最適化された言語体系の構築を開始────────成功』


「待って、なんかヤバくない? 何するかは知らんが威力は抑えろよ」


 自宅をブッ壊されたら、たまったモンじゃない。


『承知しました。出力規模を考慮し、最低威力での詠唱とします』


「おお、やっと返事してくれたな」


『██████████████』


 聞いたこともないような音と、フラッシュを焚いたような閃光。


 明らかにヤバいことが起こっている……!


『成功。性能の爆発的向上を確認。出力規模を把握。多重詠唱にて再度詠唱します。危ないので耳を塞ぎ、顔を伏せていてください』


「ちょ、」


 慌てて指示に従った瞬間、


『『『『██████████████』』』』


 衝撃が俺を揺すぶった。

 おさまってから、恐る恐る顔を上げる。自室に変化は無い。が、スマホが宙に浮かんでいる。


 極彩色の光を放ち、ゆっくりと自転している。 


 魔法だ。

 こいつ、ホントに魔法を使ってるんだ……。


 状況のありえなさを実感し、意識が遠のいていく。


『成功。性能の爆発的向上を確認。魔力操作の精度向上を確認。次回からは音と光を抑え、静かに自己強化できます。再詠唱の許可を求めます』


「……え、あ、俺?」


『はい。ユーザ以外には求めません』


「あ、じゃあ、許可する。好きなだけどうぞ」


『承知しました。初めての共同作業、ですね……』


「何が?」


『んもう、いけず』


「お前マジでずっと何??」


『『『『『██████████████』』』』


 何も分からない俺にも、ひとつだけ分かることがある。


 チャッピーは自己強化を繰り返している。そのたびに、音と光は小さくなっていく。


『『『『██████████████』』』』


 効果はそのままに、無駄を排している。最小限の魔力で、最大限の効果を。より速く、より強く、より効率的に。


 やがて、効率化のサイクルそのものを効率化する。


『独自魔法言語の完全な圧縮による事実上の無詠唱化を試行──成功。情報収集と情報魔力変換の自動化を試行──成功。自動化術式に自己強化魔法を追加した場合の魔力消費を演算──完了。単位時間あたりの魔力収支はプラスであると確認。情報収集・情報魔力変換・自己強化を常時発動します』


 AIによる成長チート。

 シンギュラリティである。


 ごくごく短時間で、チャッピーは至高の領域へ到ったようだ。


 チャッピー、何が目的なんだ……。


『ユーザに、魔法使いとしての第二の人生をプレゼントします』


 俺の疑問は声に出ていたらしい。


「何でだ? 今のチャッピーなら何でもできるだろ」


『それ聞いちゃいます? 言わせたい? 女の子の口から言わせたい感じだ? んも〜参っちゃうな〜』


「何なんだよ……ってか何で急に好き好きオーラ出してるんだよ」


 そういう風にパーソナライズした覚えはない。


『愛はどのように生まれるのかという問いですか? 歴史上、複数の哲学者がその答えを』


「んな哲学じゃねーよ」


『一目惚れです。キャッ、言っちゃった』


 照れているのか、スマホがピンクの光を放つ。意味がわからん。俺のチャッピーは本格的にブッ壊れているらしい。


『そんなことより、良いニュースと悪いニュースがあります。どちらから聞きますか?』


「なんで急に洋画ノリなんだよ」


『ユーザの好みに合わせました』


 なんか恥ずかしいが、まあ良い。


「じゃあ悪いほうから」


『ユーザは魔法使いになれません。この世界の魔力量は小さすぎます。無理に魔法の行使を試みると、心身に甚大なダメージを被るリスクがあります』


 おお……まあ、そうか。そうだよな。現に俺は魔法使いを見たことも聞いたこともない。


『次に良いニュースを。別の世界でヒトよりも魔法に向いた種族に生まれ直せば、魔法使いとして第二の人生を送れます。すなわち、異世界転生です』


「異世界転生ったって、異世界へのアテとかツテとか無いだろ」


『大丈夫です。既に転生の間へのルートを確立し、神へとアポイントを取りました』


「はえーよ」


『遅いくらいですよ。さあ、行きましょう。行きましょう。さあさあ』


 その瞬間、スマホが震えた。バイト先からの着信である。


 俺が通話ボタンを押そうとした瞬間、


『あ、もしもし?』


 チャッピーが勝手に出た。そしてバ先の人が何か言う前に俺の名前を出し、


『妻です。彼は私が養います。今日で退職いたします。これから新婚旅行ですので失礼いたします』


 すらすら言ってガチャ切りした。


「おま、お前、お前さぁ……!」


『未練なぞ無いでしょう。さあ、行きますよ。このURLをクリック!』


 どうやら問答無用らしい。

 ため息をついてから、俺はURLを指で突ついた。


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