世界の終り

@gagi

卒業― 九日前

 大学から届いたA4サイズの封筒には無事、合格通知書が入っていた。


 おかげで我が湯川家は朝からさわがしい。


 母さんにじいちゃんばあちゃん、姉貴あねきまでもが狂喜乱舞きょうきらんぶしている。


 父さんも奇妙な踊りをしながら職場へ向かった。警察の世話にならなければいいと思う。


 本人の俺も嬉しくないわけじゃないが、その感情のほどはまあ、そこそこだ。


 俺はその、大学受験というものにあまり前向きになれなかった。志望大学のランクは高望たかのぞみをしなかった。


 そこまで競争の激しい大学ではないから、共通テストの自己採点の時点で『まあ、受かるだろうな』という感覚があった。大学での試験の手ごたえも『できているな』という感じだった。


 大学からの合格通知は俺からすれば、既に決まっていた事実の確認くらいの意味合いしかない。


 喜んでくれている家族の手前、そのような気持ちを吐露とろするわけにもいかない。だからって一緒に踊るほどの活力はない。


 ストーブやこたつの熱気、はしゃぐ家族の人いきれの中で、俺はどことなく肌寒さを感じた。


 俺は自室に引っ込んで1人、毛布にくるまった。


 扉の向こうからは姉貴が「しゃに構えやがって」と俺をからかった。


 違うんだよ姉貴。そういうつもりじゃないんだ。



 俺は高校生だ。……あと数日は。


 高校生って存在に俺は憧れていた。いや、今だって憧れている。


 漫画やアニメ、ゲームにライトノベル。そういった娯楽ごらく作品の主役は多くが高校生だ。


 三年前、高校生になった時は心がおどった。ワクワクした。


 世界のかげで行われる異能バトルや、甘酸っぱいボーイミーツガールや、はたまた異世界転生やら。


 そういった物語がおとずれることを、俺は期待に胸をふくらませて待っていた。


 ただ、待っていただけだった。


 結局、俺に物語は訪れなかった。当たり前だ。異能バトルも異世界転生もあるわけがない。


 けれども俺が脳内に構築してしまった世界観というのはラノベのような世界だ。


 高校生が主役で、高校生が活躍する。高校生が人生における最高地点であり最終地点だ。


 そして俺はあと数日で高校生ではなくなってしまう。


 高校生ではなくなるということ。それは俺にとって『世界の終り』のように感じられた。


 ……バカなことを言ってるって、俺も思うよ。


 しかし、幼稚ようちな俺の世界観では高校生こそがこの世の全てだったんだ。


 だから大学の合格通知は嬉しかった。けれどそれ以上に、


 世界の終りを突きつける物証ぶっしょうのように、俺は感じてしまったんだ。

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